皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで調査グループ長を務めます柏原延行です。

英国総選挙の投票が終わり、大勢が判明しかかっています(6月9日13:30時点)。メイ首相が選挙を決断した4月においては、メイ首相が率いる保守党の議席数積み増しが予想されていたにもかかわらず、各種報道によると保守党は議席数を減らす結果となる見込みです。

今回の結果を受け、メディアなどでは「与党である保守党が議席を減らし、メイ首相のリーダーシップへの信任が薄れ、政治的な混迷が強まったことから、将来への不透明感が高まり、株式などのリスク資産や為替の動向が不安定になる可能性がある」との解説がなされるのではないかと考えます。

上記の見方に関して、正面から異議を唱えることは難しいですが、本文書のコラムであるとの性格を踏まえ、上記以外の「異端的になるかもしれない」見方があり得るのかを、皆さまと一緒に考えてみたいと思います。

結論として、今回の英国総選挙の結果は、短期的な反応はともかくとして、中長期的には、これまで想定していた投資環境認識に変更を求めるような結果ではなく、特に日本株式の投資環境認識への影響は限定的との仮説を提示したいと考えます。

英国での(政治を含む)動きは、「①英国のEU離脱は(ドイツを含む)ユーロ圏経済全体に影響を与える可能性があること」、「②(いわゆるトランプ現象に代表されるような)反グローバリズムの流れに関する欧州政治情勢の判断材料を与えてくれる」との意味で、投資環境を認識する上で重要であると考えています。

しかしながら、今回の選挙結果からは、上記の2点に関する追加的な情報を引き出せないのではないかと考えています。

まず、1つ目の「英国のEU離脱」に関してお話します。

皆さまがご承知の通り、昨年6月のEU離脱に関する国民投票では、保守党のキャメロン首相(当時)は、EU離脱反対の立場にあり、EU離脱に賛成との国民投票結果を受けて、首相を辞任しました。

キャメロン氏の後を継いだメイ首相は国民投票の結果を受けて、EU離脱を進める立場に立ち、いわゆる厳しい離脱(Hard Brexit)を志向しているとの報道がなされました。

各種報道では、今回の選挙結果がEU離脱の方向性を左右するとの論調もあるようですが、「保守党が議席を減らし、首相のリーダーシップが弱まる可能性があること」が、EU離脱の方向性についてどのような示唆を与えてくれるかが、私には判然としません(もちろん、新しい政権枠組みが決定される中で方向性が示される可能性はあります)。

第2は、「反グローバリズムの流れ」に関してです。

私は、昨年の英国の国民投票、米国の大統領選、今年のフランスの大統領選では、図表1のような対立構造が正面から争われたと考えています。

ポイントとしては、「お金、人、モノの自由な移動によってメリットを受ける主体」と「メリットを享受できない取り残された主体」の政治対立であると考えていることです。

そして、この対立構造は、(よく報道される)「グローバリズムと自国優先主義の対立」との表現に記号化されていると考えています。

図表1:筆者が考える政治的対立の模式図

この対立構造の観点で、今回の「保守党議席減、労働党議席増」との結果を評価すると、「①メイ首相がHard Brexitを志向していたとの観点からは自国優先主義(自分のことは自分で決めるなどの主張)が敗北し」、「②労働党が富裕層増税や大学授業料の無料化などを主張していたとの観点からは、自国優先主義(格差是正の主張)が勝利した」と考えることもできると思われます。

したがって、今回の選挙結果からは、 「反グローバリズムの流れ」 が加速したか、減速したかを安易には判定できないと私は考えています。

英国GDPの世界GDPに占める割合は4%未満であり(内閣府ホームページ 2014年)、英国単独の経済状況は、世界の経済・投資環境に大きな影響を与えないと考えています。

そして、今回の英国総選挙の結果を受けて、 ①英国のEU離脱に関する今後の事態の推移、②反グローバリズムの流れに関する欧州の政治トレンドに関して、追加的に、明確な情報を投資家が得ることができない可能性を考慮し、この選挙結果だけでは、経済・投資環境への影響、特に日本株式への影響は限定的との仮説をお届けしました。

2017年6月9日 13:30執筆

柏原 延行