マスコミの悲観バイアスに惑わされてはいけない

なぜ楽観的より悲観的な言説が多いのか?

世の中で何が起きているのかを知るための手段としては、インターネットも便利ですが、何と言ってもマスコミ情報が圧倒的に重要でしょう。建前としては、マスコミは中立的に真実を報道してくれている筈なのですが、実際にはそうでもないので、情報の受け手が「マスコミ情報のバイアス」を修正してから情報として受け入れる必要があるのです。

今回は、マスコミ情報のバイアスについて考えてみましょう。

そもそも世の中には悲観的な情報が多い

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円安になると、輸出企業は儲かりますが、黙っています。「儲かった」と大きな声を出すと、従業員から賃上げ要請が、部品メーカーから値上げ要請が来るとともに、税務署もやって来るからです。

一方で円安になると輸入企業(輸入原材料を多く使う企業等)は「大変だ。ボーナスは払えない。下請けには値下げをお願いしたい。政府には支援をお願いしたい」と大声を出します。反対に円高になると、今度は輸出企業が大声を出す一方で輸入企業はだまります。

マスコミが両方に取材に行けばよいのですが、大声を出している方に取材に行くのが普通でしょう。その方がインタビューに答えてくれる可能性が高いからです。

そうなると、円高でも円安でも「困った」という声だけがマスコミに流れることになります。円高でも円安でも「日本経済は不況になる」と感じてしまう報道内容ですが、そんなはずはありません。日本は輸出入が概ね同額なので、円安で輸出企業がドルを高く売れる分と輸入企業がドルを高く買わざるを得ない分は概ね等しいからです。

そもそも日本人は悲観的だ、ということも言えそうです。

日銀短観というアンケートで、「売値は上がりそうですか?」「仕入れ値は上がりそうですか?」という質問項目があるのですが、必ず「売値は上がらないが、仕入れ値は上がる」という回答が逆よりも遥かに多いのです。これは、おそらく本音で回答しているはずですから、日本人の本音自体も、かなり悲観的なバイアスがかかっているのでしょうね。

マスコミは悲観的な情報がお好き

マスコミは、楽観的な情報より悲観的な情報を好みます。

一つには、政府の批判がマスコミの使命だというスタンスで、「良いことは小さく書き、悪いことは大きく書き、政府の不手際を批判する」報道姿勢が見られることです。たとえば政府は年金を株等で運用しているので、損が出たり利益が出たりします。損が出た時には大きく報道し、利益が出た時には小さく報道する、といった具合です。

権力を批判する役割がマスコミに期待されているのは確かでしょうが、景気が悪いニュースばかり流して「政府のせいで景気が悪い」と言われるのは、迷惑ですね(笑)。一つには、情報の受け手が景気判断を誤る可能性があることと、「景気が悪いなら設備投資はやめよう」といった企業が出てきて景気が本当に悪くなってしまう可能性があることです。

しかし、それ以上に重要なのは、マスコミ情報の受け手が悲観的な情報を得たがっているという点です。

「大変な事が起きそうだ」と書く方が、「大丈夫でしょう」と書くよりも新聞や雑誌が売れるとすれば、そうした報道をすることを批判しても仕方ありません。「政治の質は国民のレベルに依存する」と言われますが、「マスコミの報道姿勢は国民の知りたいことに依存する」ということもあり得るわけです。

経済評論家も、悲観的なことを言いたがる

経済評論家(景気の予想屋を含む)も、楽観的なことよりも悲観的なことを言いたがります。「大丈夫ですよ」と言うと、「こんなに問題が山積しているのに、何も気づいていないのか」と思われてしまいかねないからです。「こんな問題があり、こんなリスクもある」と言った方が、はるかに賢そうに見えますから。

賢そうに見えるだけではありません。悲観的な方が、話が面白いのです。「楽観的な予測は、みな一様に楽観的であるが、悲観的な予想は、それぞれに悲観的である」というわけで、悲観的なシナリオを描く場合には、様々なストーリーが展開できるのです。

賢く見えて、面白い話が展開できて、しかもマスコミに呼ばれる可能性が高いのであれば、経済評論家には悲観論を述べるインセンティブが充分にあるわけです。つまり、経済評論家自分が本当に予測しているシナリオよりも悲観的なトーンで話をすることが多い、ということになります。

経済評論家に関しては、今ひとつのバイアスもあります。楽観的な人は、バブル崩壊後の長期停滞期に見通しを外し続けていたので、表舞台から去ってしまった人が多いでしょう。一方で、悲観的な人は、予測が比較的あたっていましたから、今でも表舞台に立っている人が多いわけです。

情報の受け手が自分でバイアスを修正する必要あり

このように、マスコミから流れてくる情報は、悲観的なバイアスがかかっているので、情報の受け手としては、「バイアスがかかる前の、元の情報はいかなるものであったのか」を想像する必要があります。

マスコミで流れているよりは明るい情報だったはずなのですが、実際にはどの程度修正すれば良いのか、判断するのは大変です。輸出企業が円高で困った話を聞いたら、「黙っている輸入企業は、何を考えているのだろうか?」と考えてみる習慣をつけると良いのでしょうが、言うは易く行なうは難し、ですね。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

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塚崎 公義


1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
増補改訂 よくわかる日本経済入門
なんだ、そうなのか! 経済入門
世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書
老後破産しないためのお金の教科書
経済暴論: 誰も言わなかった「社会とマネー」の奇怪な正体
(雑誌寄稿等)
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