今週は13日、14日に米連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれます。利上げは織り込み済みであることから、マーケットの関心はもっぱらバランスシート縮小にシフトしており、イエレン議長が記者会見でどのような発言をするのかが注目されています。

その一方で、ロシア疑惑のインパクトが大きすぎてあまり話題になってはいませんが、トランプ政権は米連邦準備理事会(FRB)の次期理事の人選を着々と進めている模様です。次期総裁レースもいよいよ佳境を迎えつつあり、かなり大胆な決断が下される可能性もありそうです。

そこで今回は、FOMCを人事面から整理し、次期総裁レースの行方とドル円への影響を探ってみたいと思います。

理事7人のうち3人が空席、指名候補者選びは最終段階へ

FRBは7人の理事で構成されており、この中から議長1人と副議長2人が選ばれます。現在は3人の理事が空席となっており、4人の理事の中から議長と副議長が1人ずつ選ばれています。

2010年に成立した金融規制改革法(ドット・フランク法)では、FRB内に銀行監督担当副議長が新設されました。ただ、共和党が多数を占める上院での承認が難しいことからオバマ大統領の任期中には誰も指名されず、現在もこの副議長ポストは空席となっています。

したがって、トランプ大統領は3人の理事を指名し、その中から銀行監督担当副議長を選ぶことができます。ただし、上院での承認が必要となりますので、共和党への”忖度”も忘れるわけにはいきません。

ニューヨーク・タイムズ紙は6月2日、ブッシュ政権(息子)で財務次官を務めたランダル・クオールズ氏と、リッチモンド連銀で長年エコノミストを務め現在はカーネギーメロン大学のマービン・グッドフレンド教授が理事に指名される見通しだと伝えています。

また、ブルームバーグは6月5日、オールド・ナショナル・バンコープのロバート・ジョーンズ会長兼最高経営責任者(CEO)が次期理事の候補としています。

このように、3人の理事候補はかなり煮詰まってきている様子が伺えますので、近い将来に正式な発表があるかもしれません。

次期総裁レースにグッドフレンド教授が浮上

理事を指名するにあたり、イエレン議長の任期が来年2月に迫っていることが状況を複雑にしています。トランプ大統領は昨年の選挙期間中、イエレン議長を再任しない意向を示していましたが、大統領就任後に翻意し、再任の可能性をほのめかしているからです。

空席の3人の理事を同時に指名してしまうと、議長はこの3人を含む7人の理事から選ぶ必要がありますので、選択肢が限られてしまいます。

クオールズ氏は銀行監督担当副議長候補、ジョーンズ氏は小規模銀行を担当すると見られていますので、もし3人が同時に指名となれば、次期FRB候補は現職のイエレン議長の再任もしくはグッドフレンド教授に絞られることになりそうです。

そのため、とりあえずは副議長候補を含む2人を指名し、幅広い状況に柔軟に対応できるよう、1人はあけたままにしておくことが現実的と考えられています。現実路線では、クオールズ氏とグッドフレンド教授の指名が見込まれており、この場合、議長レースは空席の理事も対象となり、引き続き流動的となりそうです。

クオールズ氏はルール・ベースの金融政策を主張

銀行監督担当副議長への指名が見込まれているクオールズ氏は、ルール・ベースの金融政策を掲げていることから、イエレン体制での火種となる恐れがあります。

ルール・ベースの金融政策とは、インフレ率やGDP成長率といった経済データに基づいて機械的に政策金利を決定することを指します。FRBは不測の事態への対応など柔軟性を欠くことを主な理由にルール・ベースには強く反対しています。

一方、透明性が高いことから共和党はこのルール・ベースの導入を望んでいます。ルール・ベースが導入された場合、現在よりも速いペースでの利上げが見込まれています。

グッドフレンド教授はマイナス金利を支持

グッドフレンド教授もルール・ベースの金融政策を支持しています。また、量的緩和は“財政政策に近い”として批判している点も共和党と意見が一致しています。さらに、マイナス金利を支持していることから、金融市場に波乱をもたらすのでないかと警戒されてもいます。

同教授は景気対策として量的緩和や財政政策よりも金利の引き下げが有効と考えており、「次に米国がリセッションに陥った場合、政策金利をマイナスに引き下げる公算が大きい」と指摘しています。また、金利政策は最も柔軟で、最も市場への干渉が少なくて済むと考えており、「低いインフレ率を目指すことが可能だと証明されている」とも述べています。

日本では、日銀の金融研究所顧問を務めている関係で、市場関係者の間ではなじみのある名前です。直接的な影響は確認できませんが、日銀のマイナス金利導入に一定の影響を与えた可能性は否めないでしょう。

タカ派色が強まり為替への影響は円安か

イエレン議長を再任するかどうかについて、トランプ大統領はまだ保留中です。議長交代となれば、消去法的にグッドフレンド教授が選ばれる可能性があるほか、共和党と妥協を図るのであれば、いずれにしてもルール・ベースの導入に積極的な候補者が選ばれることが予想されます。

クオールズ氏とグッドフレンド教授にはルール・ベースの金融政策導入やバランスシート正常化の推進役が期待されていることは想像に難くはないでしょう。期待通りであれば、タカ派色が強まることが予想されますので、為替への影響はドル高・円安が見込まれそうです。

LIMO編集部