IMF、日本の政策を評価。日銀にはさらりと苦言も

不透明な出口戦略-求められる市場との対話

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この記事の読みどころ

国際通貨基金(IMF)は加盟国の経済政策について定期的に(通常は年1 回)協議を行います。このようなコンサルテーション(年次協議)は、IMF 協定の第4条に規定されていることから「4条協議」などと呼ばれています。

6月19日に公表された協議の結果を見ることで、IMFの日本経済についての評価が分かります。内容は多岐にわたるので、特に日銀の金融政策に的を絞ってIMFの評価などをご紹介します。

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IMF声明:IMF、日銀に金融緩和政策維持すべきと述べつつ、市場との対話も求める

国際通貨基金(IMF)は2017年6月19日付で日本経済に関する審査(4条協議)の声明を出しました。そこでは日本経済について一定の評価が見られます。

たとえば、「アベノミクスは経済状況を改善し、構造改革を後押しした」といった表現も見られます。金融政策についても、インフレ率の底上げは不十分としながらも、景気の下支え効果については一定の評価をしています。その上で当面は持続的な金融緩和スタンスを維持するよう求めました。

また、追加緩和を実施する場合、長短金利を操作するイールドカーブ・コントロール政策を注意深く調節すべきと述べています。ただ、金融政策の今後の運営については、対話による金融政策への信頼性維持が成功の鍵とも指摘することで、さらりと注文をつけています。

どこに注目すべきか:アベノミクス、出口戦略、市場との対話

今回のIMFの日本審査ではアベノミクスの成果に一定の評価を与えるなど、概ね前向きな内容で、金融政策も評価されています。ただ、今後の政策運営について注文があった理由を考える上で、日銀の金融政策を振り返ります。

IMFが指摘するように、日銀の国債購入による量的金融緩和は、日銀のバランスシート(B/S)を拡大させながら、長期国債の利回りを大きく低下させる効果が見られます。IMFが気にしているのは日銀のB/Sの規模のことと思われます。

日銀のB/Sの現状を最近の営業毎旬報告で確認すると、B/Sの規模は6月に500兆円を超え、名目GDP(国内総生産)と同じ規模に迫る勢いです。つまり、対GDP比で100%に近づいています。

では、海外の中央銀行のB/Sは対GDP比でどのくらいなのでしょうか? まず米国を見ると、米連邦準備制度理事会(FRB)のB/Sの規模は対GDP比で約25%です。ユーロ圏の欧州中央銀行(ECB)は米国より大きいですが、それでも4割弱です。このように日銀のB/Sの規模は対GDP比で突出しています。

金融緩和(長期金利の低下)に役立ったと見られる日銀の国債購入ですが、日銀のB/Sが大きくなり過ぎるのも考えものです。日銀のB/Sは資産サイドで国債を保有しつつ、負債サイドの当座預金に付利(中銀が利息を払っているというイメージ)を行っています。

当座預金が流出しない工夫と考えればよいかと思いますが、大規模なB/Sを維持するにはコスト負担が必要です。しかも、このコストは、金利上昇時に増加することが見込まれるため、日銀の財政状況が将来、悪化するとの懸念もあり市場は動向を注視しています。

こうした市場の懸念を抑えるため、時期を見計らって出口戦略を明確にすることが必要です。たとえば、米国のFRBは量的金融緩和のかなり初期の段階で出口戦略のシミュレーションを公開しています。また、FRBは最近B/S縮小の方針を市場に説明しています。

金融当局が避けたいことは、市場がB/S縮小で混乱することです。そこで、FRBは縮小の予定を知らせるという市場との対話により、混乱を未然に防ぐプロセスを進めています。一方、日銀は出口戦略について、時期尚早と対話に消極的なように思えます(なお、ECBも対話に消極的です)。

IMFは今回の協議の声明でも日銀の市場との対話について、注文をつけています。特に、金融政策の主体をイールドカーブ・コントロールにシフトした後も、国債保有残高の増加額を年間約80 兆円をめどとするなどとしながら、実際の増加ペースは80兆円を下回っている点がわかりにくいと指摘しています。

この日銀の出口戦略を巡り、市場では様々な前提で、出口のコストが推定され始めています。まだ先のことであるため、数字を眺めるという段階で心配はしていないのですが、そのうち、このような数字が一人歩きして、市場が懸念を強めるということがないとも限りません。

そのようなことになるよりは、タイミングは難しいでしょうが、日銀がきちっと数字を出したほうが市場は安心できるのかも知れません。

年間80兆円程度であった日銀の国債購入金額は、昨年9月に長短金利操作を行うイールドカーブ・コントロールを導入してからは減少しているのだから、形の上ではテーパリング(国債購入額縮小)が、意図的ではないのかも知れませんが、始まっているともいえます。

その意味では、市場はテーパリングへの認識を持ち始めていると思われます。国債発行残高の半分程度を日銀が購入する政策が長続きするとは考えにくく、いつかは決断が求められると見ています。慎重かつ確実に市場との対話を改善すべきと見ています。

ピクテ投信投資顧問株式会社 梅澤 利文

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梅澤 利文
  • 梅澤 利文
  • ピクテ投信投資顧問株式会社
  • シニア・ファンド・アナリスト

東京理科大学工学部卒業後、国内証券会社のシステム運用部門を経て、外資系運用会社(BNPパリバ投信投資顧問(当時)等)で債券、仕組債、オルタナティブ運用を担当。
2010年ピクテ投信投資顧問入社。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。