米国の超富裕層は多額の寄付を大学に行う

米国では数百億円以上の金融資産を保有する超富裕層が、出身大学に多額の寄付を行います。

たとえば、ナイキの創業者であるフィル・ナイト氏はオレゴン大学に5億ドル(約560億円)を、オラクル会長のラリー・エリソン氏は南カリフォルニア大学に2億ドル(約220億円)を寄付しました。このほか、映画監督のジョージ・ルーカス氏は同じく南カリフォルニア大学に、これまで2億ドル(約220億円)近くを寄付しています。

ハーバード大学は4兆円もの金融資産を運用する

一方、寄付を受ける側の大学も巨大な金融資産を保有し、毎年運用収益を得ています。たとえば、ハーバード大学は約4兆円、テキサス州立大学は3兆円、イェール大学も3兆円程度の金融資産を保有するなど、米国の大学全体では約60兆円もの資産を運用しています。実は米国では、大学は金融市場におけるビッグ・プレーヤーの一つなのです。

では、なぜ米国の超富裕層は大学に多額の寄付をし、大学はそれを受け入れて運用しているのでしょうか。実は、そこにはWin-Winの関係があるからなのです。以下に、その秘密を探っていきましょう。

寄付金は非課税となる

米国では非課税対象団体(Exempt Organizations)に寄付を行えば、寄付をした個人の所得から寄付額の最大50%を控除することができます。それら非課税寄付団体は、米国の国税庁にあたるIRS(内国歳入庁)が決定しますが、全米では町のサッカークラブから教会やアイビーリーグの大学に至るまで、なんと102万9,889もの団体があります。ちなみに日本でも多くの非課税団体があります。

たとえば、年収10億円の超富裕層がいたとして、実質的な個人所得税率が40%だった場合、税金は4億円になります。このまま何もしないと、税金は国に召し上げられておしまいです。ところが、年収の半分である5億円を寄付したとすると、この50%、つまり2億5千万円が所得控除対象ですから、所得税は7億5千万円の40%、すなわち3億円で済むわけです。寄付をしなかった場合と比べて、1億円の“節税”になるわけです。

加えて、控除額が課税対象以上の場合には、控除の繰り越しが可能ですから、これまで資産を積み上げてきた超富裕層が、一時に所得以上の寄付をした場合(例:冒頭の3氏)、所得控除額>所得額、ということで翌年以降所得税がゼロということも考えられます。

もっとも、寄付者にとってみれば節税要因もさることながら、お金の使い道が明確だということがメリットでもあるのでしょう。前述のフィル・ナイト氏はオレゴン大学の理学研究所への寄付ですし、ラリー・エリソン氏は南カリフォルニア大学ガン研究所に、ジョージ・ルーカス氏は同大学の映画学部に寄贈しています。

寄付者の名前が永久に残って、使い道がハッキリしているならポンと払う。それが米国超富裕層の心意気なのです。

米国有名大学は運用スペシャリスト

一方、寄付金を受け入れる側の大学ですが、前述のような有名大学では寄付金が毎年入ってきます。大学は倒産しない限りその資産を永久に運用し続け、将来の世代にその資産を引き継ぐべく、毎年一定以上の運用成果を出さないといけないわけです。

一般的に、その運用目標利回りは年8%程度(米国なので米ドル建てベース)とされています。この8%の内訳としては、インフレ、運用コスト、大学運営費用拠出(5%程度)となっており、この運用環境下、かなり高い目標を持たされているのが現状です。

たとえば、ハーバード大学は4兆円程度の運用資産を有していますが、これほど大きな運用資産となると、運用自体そう簡単ではありません。米国10年国債が5%程度の利回りで回っていた時代ならいざ知らず、現在その利回りは2%程度しかありませんので、それだけでは完全にインフレと運用コストで赤字になります。

じゃあ株式だけでいいじゃん、ということになりがちですが、大型・中小型・IT銘柄からIPOまで銘柄選択やリスク管理を考えると、とても素人に手を出せるものではありません。

最近の潮流では、巨大資産を運用する大学ではプロ運用者を運用責任者に任命し、実際の運用は外部の運用会社に任せるのが主流になっています。また、資産規模が小さく運用に直接携われない大学は「Common fund」という共同運用ファンドで運用します。

また、こうした大学の運用手法は、原則として長期分散投資が基本です。資産規模で全米トップ5大学の資産配分は32%程度が内外上場株式、債券は7%、その他約60%はオルタナティブ投資となっています。

こうした運用手法は日本の個人投資家にも参考になるのではないでしょうか。

全米の大学における資産配分(資産規模別)

参照:全米大学実務者協会 NACUBO

太田 創(一般社団法人日本つみたて投資協会 代表理事)