非上場株式の価値は評価方法によって異なることを知っていますか?

相続やM&Aに用いられる評価方法とその特徴、注意点とは

相続やM&Aにおける非上場株式の評価方法にはどのようなものがあるのでしょうか。以下、ある事例における質問と回答をご紹介し、具体的な評価方法についての解説をいたします。

質問:父は会社を経営していて、同社の株式300株を全て保有していました。ところが、父が心筋梗塞で急死してしまったため、同社株式150株を長男の私が相続し、次男と三男がそれぞれ75株ずつ相続することになりました。私は代表取締役として同社を経営することになったのですが、次男と三男が事あるごとに私の経営方針に反対するため、事業が円滑に進みません。
そこで、次男と三男が保有する75株ずつを私が買い取り、株式を自分に集めようと考えているのですが、株式の買取価格はどのような評価方法で算定すればよいのでしょうか。

 

回答:非上場株式の場合、相続税財産評価基本通達の評価方法を用いて、株式の買取価格を評価する場合が多く見受けられます。もっとも、株式の評価には、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチなど様々な評価方法があり、株式価値を適切に評価できる評価方法を選択する必要があります。

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1. 非上場株式の価値

非上場株式の価値は、評価する観点によって大きく変動します。たとえば、貸借対照表上の資産を重視する場合、価値の高い資産がなければ株式の価値は低く評価されます。しかし、ブランド力・ノウハウ・成長性といった貸借対照表には表れない価値を重視すれば、仮に貸借対照表上の資産の価値が低くても、株式の価値を高く評価できる場合もあります。

2. 相続税財産評価基本通達による株式評価方法

株式評価の方法には、さまざまな評価方法があります。相続の際の株式評価は、相続税財産評価基本通達による株式評価方法が用いられます。

(1)原則的評価方式

原則的評価方式とは、会社を従業員数、純資産価額、売上高により、大会社、中会社、小会社に区分して評価する方法です。

大会社は、類似業種比準価額方式によって評価されます。類似業種比準価額方式とは、類似業種の会社の株価を基準として、株式を評価する方法です。

小会社は、純資産価額方式によって評価されます。純資産価額方式とは、会社の純資産や負債を、相続税財産評価基本通達が規定する評価額に置き換え、その評価した純資産の価額から負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた金額により評価する方法です。

中会社は、上記の類似業種比準価額方式と純資産額方式を併用して評価します。

(2)特例的評価方式(配当還元方式)

配当還元方式とは、所有株式によって受け取る1年間の配当金額を、一定利率(10%)で還元して、元本となる株式の価額を評価する方法です。

3. M&Aなどで用いられるその他の株式評価方法

M&Aなどの株式譲渡の場面でも、非上場株式の場合、相続税財産評価基本通達の評価方法を用いて株式を評価するケースが多く見受けられます。これは、相続税財産評価基本通達の基準が明確で、適用が比較的容易であるという理由によるものです。

しかし、M&Aでは、買収者・被買収者双方にとって株価算定が重大な関心事であるため、株式の価値をより適切に評価するために、様々な評価方法が用いられます。大別すると、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチの3種類に分かれます。

(1)インカム・アプローチ

インカム・アプローチとは、その会社が将来得ることができると予測される、利益やキャッシュフローを基準として会社の価値を評価する方法です。DCF法、収益還元法、配当還元法などがあります。

① DCF法(Discounted Cash Flow法)

DCF法とは、会社が将来生み出すと予測されるフリーキャッシュフロー(自由に使える資金)の金額を算出し、それを現在に割り引いて会社の価値を評価する方法です。たとえば、将来的に獲得できるフリーキャッシュが合計1億円で、それを現在価値に割り引けば9,000万円になる場合、現在の会社の価値を9,000万円と評価する方法です。

②収益還元法

収益還元法とは、当該会社が将来得るであろうと予測される利益を、その利益を得るために必要な資本コストで除して、現在の価値に割り引いて評価する方法です。

③配当還元法

配当還元法は、株主が会社から受け取る配当金の金額を基準にして、その株式の価値を評価する方法です。相続税財産評価基本通達と異なり、還元率は評価者の選択によります。

(2)マーケット・アプローチ

マーケット・アプローチとは、その会社の株式が市場で取引されている価格を参考にして会社の価値を評価する方法です。上場株式は株式市場での取引価格を基準にしますが、非上場株式であっても、頻繁に株式譲渡が行われ、売買実例が多数ある場合は、その取引価格を基準として株式評価を行います。

(3)ネットアセット・アプローチ

ネットアセット・アプローチとは、貸借対照表の純資産(総資産から負債を控除したもの)に着目して、会社の価値を評価する方法です。簿価純資産法、時価純資産法、純資産価額法などがあります。

①簿価純資産法

簿価純資産法とは、会社のある時点における貸借対照表の簿価純資産価額を、会社の価値として評価する方法です。

②時価純資産法

時価純資産法とは、会社のある時点における貸借対照表の資産・負債を時価に引き直して評価し、それによって導き出された純資産額を会社の価値として評価する方法です。

③相続税法上の純資産価額法

課税時期における資産と負債を、財産評価基本通達に基づいて評価することで純資産額を導き出します。

4. 弁護士の視点

以上の通り、株式には様々な評価方法があり、それぞれの評価方法によって導き出される株式価格には大きな差異があります。たとえば、ある会社の株式が、配当還元法では 1株100円と評価される一方で、時価純資産法では、その100倍の1株10,000円と評価される場合も十分ありえます。

当事者が自己に有利になるように評価方法を選択することは自由ですし、交渉の結果、当事者間で株式譲渡価格について合意することができれば、原則として株式譲渡契約は有効です。

しかし、株式評価の根拠や非公開情報を十分に開示しないまま、株式譲渡契約を締結した場合、後になってから錯誤無効(民法95条)、詐欺取消(民法96条)といった主張がなされ、紛争となるケースが見受けられます。

自己に有利になるからといって、会社の価値を適切に反映することができない評価方法を使って株式価格を算定することは、不必要な法的リスクを発生させる場合があるので、十分な注意が必要です。

弁護士・木村 道哉

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弁護士・木村 道哉

1978年兵庫県神戸市生まれ。灘高校、早稲田大学法学部、中央大学ロースクールを卒業。
ちば松戸法律事務所、IN CONTROL LEGAL SUPPORT SERVICES、税理士法人山田&パートナーズ、弁護士法人Y&P法律事務所を経て、2016年9月にアカマイ法律事務所を設立。
東京弁護士会遺言信託部・不動産法部に所属し、一般社団法人ジャパン・タックス・インスティチュート「国際課税委員会」・「あるべき税制委員会」・「文化インフラ構築と税制研究会」に所属。著作として「国際相続の税務・手続 Q&A 第2版」(中央経済社、共著)がある。
現在は、相続・事業承継のほか、M&A・労務・知的財産権などの企業法務、国際案件等に取り組んでいる。