インフレ低下と株価上昇は危険なランデブー~各国中銀がタカ派に?

ウォール街を悩ますBISビューとは

ここ最近、ウォール街の市場関係者は中央銀行からの相次ぐタカ派発言に悩まされていますが、その伏線には”BISビュー”があると考えられています。今回は、このあまり聞き慣れないBISビューの解説を中心にポイントを整理してみました。

低インフレであっても低金利は金融と経済のリスクを高める

先週は欧州を中心に株価が急落しましたが、きっかけはドラギ総裁の「デフレ圧力がリフレに変わった」との発言でした。リフレとはデフレからは脱した後、まだインフレが進んでいない状況のことですので、ユーロ圏の現状を表すのにこれ以上適切な表現はありません。

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では、なぜ至極妥当な発言が市場を揺さぶったのかというと、BIS ビューと呼ばれる金融スタンスが伏線となっていた模様です。

国際決済銀行(BIS)とは、日本を含む60カ国の中央銀行が加盟する、中央銀行の中央銀行のような存在で、加盟国の通貨や金融システムの安定を目指しています。民間銀行の自己資本比率を定めたBIS規制で有名です。

このBISが6月25日に年次総会を開き、報告書で「インフレ率が上がらなくても、長期にわたり金利を低すぎる水準に維持すれば、金融安定とマクロ経済のリスクを将来的に高めかねない」と指摘していました。

指摘そのものに目新しさはなく、従来からBISビューとして知られていましたが、低インフレが緩和的な金融政策を保証していると安心していた市場にはドラギ総裁の発言がこのBISビューと重なり、従来の方針からの転換と映ったようです

BISビューとFEDビュー、バブルは予見可能なのか?

BIS ビューの対義語として”FED ビュー”というものがあります。違いの一つはバブルへの対応にあり、BISビューはバブルは予見可能でありその芽を摘むことを是としていますが、FEDビューではバブルかどうかははじけるまでわからないと考え、中央銀行の役割はバブルがはじけた後にその影響を緩和することにあります。

やや極論になってしまいますが、BISビューはバブル潰し、FEDビューはバブル容認との印象を与えます。実務レベルではFEDビューが多数派であり、BISビューは異端に近い扱いでしたので、中銀トップからBISビューが出ること自体がサプライズとなる恐れがあります。

ちなみに、BISビューとFEDビューは造語であり、国際決済銀行(BIS)や米連邦準備制度理事会(FRB)の公式見解ではありません。BIS関係者や欧州中銀に比較的多く見られる意見としてBISビュー、FRBに多い見解としてFEDビューと呼ばれています。

インフレ低下と資産価格上昇は危険なランデブー

BISビューが注目されているのは歴史からの教訓があるからです。

BISビューによると、米国では2003年から2004年にかけてコア消費者物価指数(CPI)が1%台前半まで低下し、低インフレで利上げが遅れたことがその後の金融危機につながったと見ています。同様に、ITバブル崩壊前の1990年代後半に米物価指数が弱含んだことで利上げの開始が遅れたと見ています。

日本では1986年から1989年にかけてインフレ率がゼロ%台を推移したことで、1980年代後半の金利は低下傾向にありました。

このように、物価が弱いことで市場には利上げは当面ないとの予想が生まれやすくなり、その結果として株価をはじめとする資産価格の上昇を招く恐れがあります。そして、現在の日米欧がちょどその局面に当たると言えます。

また、BISビューでは金融的不均衡を重視します。金融的不均衡とは持続可能とは考えにくい金融現象が同時に起きることです。典型的な例として、株価など資産価格の上昇、信用の拡大、ボラティリティの低下などがあります。

相次ぐタカ派発言でBISビューを連想

6月25日のBIS年次総会に前後して、世界各国の中銀関係者が相次いでBISビューを連想させる発言をしていることが市場関係者を困惑させています。

ドラギ総裁は、6月8日のECB理事会では「インフレは弱い状態にあるので金融緩和は必要」とFEDビュー的な発言をしていましたが、27日には一転して「欧州経済の見通し改善に伴いマイナス金利や大規模な債券購入といったECBの政策手段の調整を行うことは可能である」と述べています。

同様に、6月20日に「インフレは抑制されており、利上げの時ではない」とFEDビュー発言をしていたイングランド銀行(BOE)のカーニー総裁が、28日には「景気が好調なら金融政策による景気刺激の解除が必要になるかもしれない」と前言を撤回しています。

また、6月27日にはイエレンFRB議長が「株価は割高」と指摘すると、同じ日にフィッシャーFRB副議長も自動車ローンや学資ローンの遅延率上昇に懸念を表明しています。

これに先立つ25日にはニューヨーク連銀のダドリー総裁が「株価の最高値更新は金融引き締めに追い風」と発言、27日にはサンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁が「株式市場の投資家はリスクに過度に無頓着になっている」とした上で、ボラティリティの低下に懸念を示しています。

こうした発言は、物価が安定していれば資産価格の上昇は容認するFEDビューから逸脱し、物価の安定とセットになった資産価格の上昇、信用緩和、過度なリスクテイク、ボラティリティの低下を金融的不均衡と考え、その是正を訴えるBISビューに添っていると言えそうです。

主要中銀はBISビューへの集約を模索中?

BISビューを念頭に置いて最近の発言を振り返ると、中央銀行総裁らが申し合わせたようにBISビューを反映した発言をしている様子が伺えます。

世界的にインフレの低下が懸念されている中で、世界の至るところで株価が最高値を更新しています。こうした中、金融を引き締め方向に動いているのはFRBのみであり、金融のグローバル化が進展している現在、単独での金融政策には限界もありそうです。

たとえば、FRBだげが利上げをすると、ドル高を招き世界経済が混乱する恐れがあります。主要な中央銀行が金融政策の方向性で歩調を合わせることで、こうした歪みの発生を緩和できる可能性があり、世界的な株価上昇も速やかに是正されるかもしれません。

これまで出口戦略については「時期尚早」の一点張りだった日銀の黒田総裁も最近は態度を軟化させ、6月15~16日の金融政策決定会合では出口政策についての議論を始めました。目標であるインフレ率2.0%の達成にはまったく目途が立っていない中の出口論の開始は、諸外国との共同歩調を模索してのことなのかもしれません。

投信1編集部

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投信1編集部は、証券アナリストやファンドマネージャーとして長年の調査経験を持つメンバーで構成されており、金融・経済ニュースや投資に関する知識・アイデアをわかりやすくお届けします。