「ベンチャーキャピタリスト」と聞いてどんなイメージを持たれるでしょうか。多くの人はベンチャーキャピタリストと接する機会は多くないでしょう。何も思い浮かばないという方がほとんどかもしれません。今回はベンチャーキャピタリストの年収についてみていきたいと思います。

ベンチャーキャピタリストとは

ざっくり言うと、会社として生まれたばかりでまだ上場もしていないベンチャー企業に投資する人がベンチャーキャピタリストです。将来の成長が見込める新興企業・起業家に対し、主に株式の取得を通じて資金を提供します。

出資後は株主として経営へのアドバイスなどを行い、投資先企業の価値を高めることを目指します。企業価値が上がれば、その企業が上場したり他社に買収される際に株式を売り、出資時との差額で巨額の利益(キャピタルゲイン)を得ることができるのです。

さて、日本のベンチャーキャピタル(以下、VC)業界にはどのようなベンチャーキャピタリストがいるのでしょうか。以下、日本のベンチャーキャピタリストのパターンや特徴を探ってみます。

金融機関系ベンチャーキャピタリスト

リーマンショック以前は、日本でVCといえば金融機関系のVCがほとんどを占めていました。今でもVC最大手のジャフコ(8595)は健在ですが、リーマンショックを境に業務縮小を余儀なくされた会社が多いのも金融機関系VCです。

日本の場合、銀行、証券、生損保などの金融機関がそれぞれ系列VCを持っていることが多く、そこには親会社からの出向で投資業務を行うベンチャーキャピタリストが多く所属します。中には新卒や中途採用としてプロパー社員を採用する会社もありますが少数派です。

金融系ベンチャーキャピタリストだから堅い性格かといえば、意外にそうともいえません。銀行・証券・生損保のカラーがありますが、キャピタリスト個人で見ると様々なタイプがあり、それぞれ個性を持って仕事をしています。

事業会社系ベンチャーキャピタリスト

昨今は、事業会社が自前でVCを設立したり、ベンチャーファンドに出資する事例が増えています。

事業会社の中でも、ネット系企業の場合は独立系VCの雰囲気に近い傾向がありますが、大手企業が設立したVCやファンドのベンチャーキャピタリストは、そのまま大手企業の社員の雰囲気を漂わせている印象を受けます。

言ってみれば経営企画部にいそうなタイプが出向してベンチャーキャピタリストをしていることが多い印象です。

欧米ではベンチャー投資の世界で一定の役割を認められている事業会社系VCですが、日本ではまだこれからの段階と言えます。その担い手である事業会社系ベンチャーキャピタリストもまだ歴史が浅いため(ネット系を除く)、今後成功事例が出て定着が期待される分野です。

独立系ベンチャーキャピタリスト

自前でファンドを立ち上げられるほどベンチャー投資における実績があり、自身が立ち上げた事業で成功し自己資金でVC業務を行うなどのケースは、ひと昔前の日本ではいわば“想像上の存在”でした。

しかし、今や少ないながらも独立系として活躍するベンチャーキャピタリストも存在しています。

独立系のベンチャーキャピタリストは、自己資金(ファンド含む)でベンチャー企業に投資を行い、投資先企業のIPOやM&Aが成功すれば莫大な利益を手にします。

その一方で、投資先がIPOやM&Aでの売却に至らない場合は一定の報酬以外は売上ゼロの状態が続くことあるなど、ハイリスク・ハイリターンの職業と言えます。

投資先への関与の仕方は、自分の生活がかかっているので真剣そのものです。そのためか、“熱い”人物が多いという印象があります。

ベンチャーキャピタリストの年収事情

ここまで日本のベンチャーキャピタリストを大きく3つに分けて見てきました。では、ベンチャーキャピタリストはどのくらいの年収を手にしているのでしょうか。VCは金融機関ということもあるので高収入を手にしていそうなイメージですが、日本の場合には実際はそうでもないようです。

金融機関系VC勤務経験者は次のように言います。

「若手のベンチャーキャピタリストであれば、よほどのことがない限り年収1000万は夢物語です。おしなべて言うと、系列系VCであれば親会社の8割程度ではないでしょうか」

VCは投資先が上場時に多額の上場益(キャピタル・ゲイン)を手にし、その収益がボーナスとして支払われます。ただ、そうした一時的なボーナスも様々な前提条件が付いており、ボーナスを足しても年収1000万円というのは難しいようです。

前出のVC経験者は続けます。

「VCは本当に夢のある仕事なのですが、うまくやらないと想像以上に儲かりません(笑)。ファンドの管理報酬で食べていくのがやっとというところも多いのではないでしょうか。ただ、日本でも独立系VCでしっかりと経営されているケースが出てきていることはすごいと思います」

このように、日本のVCを取り巻く環境も変わってきていることが分かります。

まとめにかえて

金融機関系や事業会社系VCなどの場合には、「サラリーマンはベンチャーキャピタリストではない」との議論もあります。ただ、サラリーマン型VCの歴史が長いというのが日本の特徴でもあります。したがって、その存在抜きに日本のベンチャーキャピタリストを語ることはできません。

一方で、以前はほぼ皆無だった独立系ベンチャーキャピタリストも、今ではVC業界で一定の存在感を発揮しています。日本のベンチャー投資業界も徐々に欧米型に近付きつつあると言えるでしょう。

産業構造を変えるようなベンチャー企業が次々と生まれてくることが、日本の経済成長を再加速する要素にも十分なりえます。今後のVCの活躍に期待したいところです。

LIMO編集部