Nスペ「人工知能特集」の衝撃

2017年6月25日に放映されたNHKスペシャル「人工知能 天使か悪魔か 2017」は、AI(人工知能)利用の最前線を知ることができる非常に興味深い番組でした。

番組で紹介されたのは以下の6つの事例です。

  • プロ棋士(佐藤天彦名人)と将棋AI(PONANZA)との「将棋電王戦」の様子
  • 名古屋のタクシー会社での「リアルタイム移動需要予測システム」(通称AIタクシー)の導入事例
  • 野村証券のAIを活用したトレーディングシステム
  • シンガポールのバス会社におけるAIによる運転手適正診断システム(交通事故発生確率を予測)
  • 退職率が高い医療事務現場でのAIによる退職予兆診断システム
  • アメリカの裁判記録をAIが分析することによる受刑者の再犯リスク予測システム

いずれも、AIの驚くべき進歩を目の前に突きつけ、AIは遠い未来ではなく現在の私たちの生活にも既に深く関わっていることを実感させるものでした。また、「天使か悪魔か」というタイトルにもあるように、使われ方次第では、AIは人類の脅威となる可能性すら考えさせる内容でもありました。

AIが人間を超えたことを実感させた電王戦

このなかで、特にAIが人間を超えるほどの進化を遂げた現実を実感させたのが将棋電王戦です。番組では2017年4月と5月に行われたプロ棋士(佐藤天彦名人)とAIロボット(PONANZA)との戦いの様子を、将棋界のレジェンド・羽生善治三冠の解説も交えて紹介していました。

結果は人間の2連敗。番組の最後のほうでPONANZAの開発者が「なぜ、ここまで強くなってしまったのかわからない」という趣旨の発言をしていたのは不気味でした。

ちなみに、AIソフトはディープラーニング(深層学習)と呼ばれる機械学習の一種の仕組みにより、自分で能力を高めていくことが可能です。その結果、開発者でも人間に勝った理由がわからないほど強くなってしまうことが起こりうるのです。

AIが人間の手には負えないブラックボックスとなってしまうのは少し空恐ろしいですが、そこまでAIが進んでいることをこの番組は鮮烈に伝えていました。

なお、将棋電王戦は今回で終了となります。大会の主催者であるドワンゴを傘下に持つカドカワ(9468)の川上量生社長は、終了の理由を「人間とコンピュータが同じルールで真剣勝負をするという歴史的役割は終わった」と説明しています。

藤井四段という新たな天才スター棋士の誕生で将棋界への注目は高まる一方ですが、AIという人間の手におえない強敵が現れている現実は忘れるべきではないでしょう。

天使のような存在のAIタクシー

一方、AIタクシーの事例は、超長期的にはAIによる完全自動運転の実現でタクシードライバーの脅威となる可能性があるものの、当面はタクシー業界にメリットをもたらしうる存在であることが理解でき、ほっとする内容でした。

正式には「リアルタイム移動需要予測システム」と呼ばれるこのシステムは、2016年にNTTドコモ(9437)、富士通(6702)、富士通テンなどが協業して開発されたものです。

ドコモの無線ネットワークから得られる人口統計(場所ごとの人の集まり状況などを示すデータ)と、タクシー会社から得られるデータ(天気、日付、曜日ごとの乗車記録データ)を掛け合わせて分析することで、タクシーを見込み客の多い場所へ誘導していく仕組みとなっています。

番組では、このシステムを使ったタクシードライバーの使用中の姿や使用後の感想が紹介されていましたが、特に、「しょせんAIでしょ」とタカをくくっていたベテランドライバーが、使用後にその実力に驚いていた姿が印象的でした。

AIを活用し需要と供給の関係を最適化することで、タクシードライバーは収入アップ、利用者は待ち時間の短縮といったメリットを享受することになります。こうしたAIなら、ますます普及してほしいものです。

人の気持ちを人間より理解するAIも現れる

医療機関への業務請負・人材派遣を手掛けるソラスト(6197)によるAIの活用も、人間の能力を補完するものとして注目できます。

同社では、派遣先の病院の環境などになじめない社員が短期間で退職してしまうという問題を解決するために、人事部が頻繁にアンケートを行い、そこから退職の予兆を読み取って対策をとってきましたが、あまり成果が上がらずにいました。

そこで、このアンケートの分析をAIによる文書解析を行うFRONTEO(2158)との協業で行ったところ、従来のやり方よりも、より早く退職の予兆を見つけ出すことが可能となったとのことです。

人間よりも人間の気持ちを理解してくれるAIが既に活躍する時代になっているのは驚きです。

まとめ

今回の番組で取り上げられた様々な事例から、AIの社会への進出は目覚ましいものがあることが強く実感されました。また、AI関連銘柄が、富士通、NTTドコモ、日立(6501)などの大手ITメーカー以外に、新興企業にも広がっていることにも改めて気づかされました。

人間を上回る能力を持つに至ったAIの光と影の両方を意識しながら、AIの今後について注視し、関連銘柄の発掘にも取り組みたいと思います。

和泉 美治