投信1編集部による本記事の注目点

  • 中国の300mm工場の投資計画ラッシュに対して、半年前までは「構想の域を抜けず計画段階に過ぎない」という懐疑的な見方が少なくありませんでした。
  • しかし、装置・材料メーカーは2017年後半~18年前半に装置の搬入を予定し、どのプロジェクトもここ1年以内に量産に向けた試作を始める模様です。
  • 数年後には、中国のデータセンターに国産メモリーを積んだサーバー群がひしめき合う時代が来るでしょう。

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以前、『中国の半導体業界の胎動を実感! セミコン・チャイナ2017現地取材レポート』では、中国の巨大メモリー工場プロジェクトは大きな看板を掲げているが、具体的な計画の詳細をいつまでたっても示せない状況にあり、この様子を「パンこね状態」(いつ何を作るかが定かでないので、いつまでもこね続けているだけの状態)と表現した。しかし、あれからたった2カ月の間に、各プロジェクトの工場立ち上げ計画が急展開している。装置・材料メーカーは2017年後半~18年前半に装置の搬入を予定し、どのプロジェクトもここ1年以内に量産に向けた試作を始める。「ポテンシャル(潜在的な)投資案件から、確実に工場が立ち上がるカウントダウンに入った」(装置メーカー中国営業担当)。

武漢YMTC(長江ストレージ、長江在儲科技)

YMTCは、3D-NANDなどのメモリーを国産化するために国家IC産業ファンドや清華大学系の紫光グループ、湖北省および武漢市政府が設立したメモリー専業メーカーだ。子会社化した300mmファンドリーのXMC(新芯集成電路製造)が先行開発している3D-NANDの設計と製造プロセスを確立後、中国政府の資金バックアップにより30年までに月産能力100万枚の工場を立ち上げる巨大プロジェクトだ。

武漢市のYMTCの工事現場は5月末、工場用地の全域が完全には同じ水平レベルにならされておらず、盛り土作業をしている区域と、整地済みの区域の杭打ち作業を同時並行で行っていた。6月には杭打ち工事の作業スピードが加速し、6月末には正面ゲートに向かって右手に位置するオフィス棟とみられる建物の躯体工事が始まった。工事現場周辺の道路整備がまだままならぬ状況のなか、YMTCの工場建屋の建設工事は突貫作業で休みなしに進捗している。あまりの工事スピードの速さに、1カ月前とは風景が変わっている。

YMTCの工場建設(17年6月)

YMTCは装置メーカーに、18年4月の装置搬入スケジュールを示している。フェーズ1では月産能力5万枚の生産ラインを立ち上げる。サムスン西安の技術をコピーして試作品を完成した32層の技術ではなく、量産ターゲットは64層に設定している。しかし、実際には(1)装置搬入から量産に向けたミニラインでの試作、(2)月産能力3万~5万枚規模で量産体制を立ち上げ、(3)量産ラインでの歩留まり改善と3つのステップが必要で、商業量産には1年くらいの時間を費やすことになると予測される。

とはいえ、18年には中国初の国産3D-NANDメーカーが誕生することになる。17年は東芝問題がNAND業界の争点になるだろうが、18年は中国産メモリー時代の幕開けが業界トピックスになるだろう。

合肥チャンシンIC(長シン集成電路)

合肥政府が進めるDRAMプロジェクトは、計画当初に中国液晶パネル最大手のBOE(京東方科技、北京市)を担ぎ、半導体製造プロセスの経験がないため、国のプロジェクト認可が取得できず路線を変更。16年にエルピーダメモリ元社長の坂本幸雄氏が設立したサイノキングの技術支援を受けて立ち上げようとしたが、これも技術要件が満たせず、白紙撤回。最終的に中国ファンドリー最大手のSMIC(中芯国際集成電路、上海市)の経営トップを務めた経験を持つデビッド・ワン氏がプロジェクトリーダーのイノトロンメモリー(睿力集成電路)を技術パートナーとした。台湾イノテラ出身の技術者を集め、イノテラの技術ベースで19nm(サムスンスケールでは25nmに相当するという説もある)のDRAM生産を計画している。

チャンシンICの工場建設の状況(17年6月)

チャンシンICの工事現場は5月末にすでに杭100本を打設し、武漢YMTCよりも明らかに工事が進捗している。躯体工事も始まり、9月までには棟上げする予定で進んでいる。

イノトロンのメンバーによると、11月に試作用ミニライン向けに製造装置(月産能力で数千枚程度)を導入するムーブインスケジュールを装置メーカーに指示している。装置メーカーは短納期での対応に追われている。まずは数千枚で試作、試作から量産向けのプロセス調整、歩留まりの改善などに1年くらいの時間を費やし、19年2月に大規模量産ラインを立ち上げようとしている。19年末には月産能力12.5万枚の生産体制の構築を目指している。

泉州JHICC(ジンホアIC、晋華集成電路)

中国のメモリー工場プロジェクトのなかで、JHICCが最も工場建設が進捗している。同社のホームページ上にも写真が公開されていて、4月末に1カ月前倒しで鉄骨工事を完了した。10月に棟上げを予定し、その後は工場建屋の内装、およびクリーンルーム工事が始まる。18年4~6月期にR&D用のミニライン(月産能力5000枚)の立ち上げを予定している。工事の進捗や装置の搬入スケジュールからみて、他の2プロジェクトよりも無理のないスケジュールで進捗しているといえる。

JHICCの鉄骨工事完了式典(17年4月)(JHICCのHPより)

すでに技術パートナーのUMCは16年12月に台湾の台南工場に開発用試作ラインを導入し、90~65nmのニッチ(レガシー)DRAMの試作を始めている。メモリー製造を本業としないロジックファンドリーのUMCは、中国でのメモリー投資用に元レックスチップ幹部を引き抜いて技術開発を進めてきた。その点から、JHICCに導入されるDRAM技術はパワーチップ(PSC)モデルになると想定される。19~20年には月産能力3万枚に拡張を予定している。

SMIC北京、ホワリー上海、タコマ淮安も300mm工場

その他にも多数の300mm工場の建設が進行している。SMICは北京で3棟目の300mm工場「B2-B」を立ち上げている。28nmで月産能力6000枚の製造装置を搬入予定。上海ではホワリーがファブ2(HLIC)を建設している。月産能力が最大4万枚の工場棟となり、18年4~6月期にまず月産能力1万枚の製造装置を導入する。タコマは16年3月に江蘇省淮安市で300mm工場を着工し、17年6月下旬に工場建屋を棟上げした。7月から内装およびクリーンルーム工事に着手し、9月以降に一部の製造装置の搬入開始を予定している。

HLIC工場建設の状況(17年6月)

中国の300mm工場の投資計画ラッシュに対して、半年前までは「構想の域を抜けず計画段階に過ぎない」ものと懐疑的な見方が多かった。日本にいると、今でも「中国プロジェクトが本格的に動き出すにはまだ時間がかかる」とのんびり構えている人が多い。しかし、現地の工事現場を見ると、ついに本格的に動き出したとイメージが180度反転する。すでに「パンをこねているだけの状態」は終わった。数年後には、中国のデータセンターに国産メモリーを積んだサーバー群がひしめき合う時代が来るだろう。

電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善

投信1編集部からのコメント

本記事は中国メモリー工場の最新情報として一読の価値があります。中でも、DRAM、NANDといったメモリーを中心とした工場建設が短期間に進んできていることが目を引きます。半導体事業は工場建設後の量産の立ち上げがどうなるかという点も重要ですが、これまで半信半疑で見られていた中国の300mm工場の投資計画が進んでいることを、日本の製造業がどう評価するかというフェーズに入ってきていると言えるでしょう。今後も注目していきたいところです。

電子デバイス産業新聞×投信1編集部

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