非正規雇用増加の米国、実体経済と雇用統計がかみ合わない理由か

AirbnbやUberなど”ギグエコノミー”の影響とは

6月の米雇用統計では労働市場の堅調さが改めて確認されました。ただし、これまで同様、雇用統計の数字はよいのですが、なぜか実体経済は低迷したままで、賃金も物価も伸びていません。

雇用統計と実体経済の動きがかみ合わず、謎は深まるばかりです。そこで今回は、この謎を解くヒントを整理してみました。

6月米雇用統計、堅調を確認も健全性に問題あり

6月の米雇用統計では雇用者数が22.2万人増と予想(17.8万人増)を大きく上回り、堅調を維持していることが確認されました。また、失業率は4.4%と前月の4.3%から0.1%ポイント上昇しましたが、労働参加率が上昇していることから内容的には悪くありません。

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一方、賃金の伸びは引き続き弱く、雇用者数の堅調な伸びと賃金の低調な伸びが定着しています。なぜこのような状況が続いているのか、そのヒントとして求人労働移動調査(JOLTS)が注目されています。

JOLTSによると、4月は求人率が過去最高となった一方で、採用率が低下しました。求人を出しても採用はしておらず、企業は求める人材を確保できない、“雇用のミスマッチ”が浮き彫りになっています。

また、イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長をはじめとするFRB関係者が注目している自発的離職率も低下しています。自発的離職率は労働市場の“健全性”のバロメーターとされています。

通常、雇用が拡大すると自発的な離職者も増加する傾向にあります。低下しているのは雇用される側にとって魅力的な職場が見つからないからとも考えることができそうです。

実際、求人が増えているのはホテルや飲食店などのサービス業であり、製造業では求人が減っています。企業が求めているのは福利厚生などを伴わない非正規雇用(フリーランサー)であり、待遇を改善してまで雇用を増やそうとはしていない恐れがあります。

労働市場の流動性の目安として採用率と離職率を合計してみると、4月は6.9%と3月の7.2%から低下しています。金融危機以前の8.0%近辺と比べると1.0%ポイント程度低下しています。

雇用統計での雇用者数の増加や失業率は申し分ない数字ですが、流動性に欠けており、人の動きはかなり鈍いと言えそうです。

“ギグエコノミー”の影響?

ところで、ギグエコノミー(インターネットを通じて単発の仕事を請け負う非正規労働市場)が世界中で広まっており、米国はその中心と言えるでしょう。

Upworkによると、2016年のフリーランサーの数は5,500万人と全労働者の35%に上ると推計されています(参照:2016年Upwork調査)。2014年の5,300万人、2015年の5,370万人から着実に増加しており、2020年までには50%がフリーランサーになると予想されています。

フリーランサーが増えていることは間違いありませんが、雇用統計にその痕跡が伺えないことがウォール街のエコノミストを悩ませています。

フリーランサーは自営業者となるはずですが、雇用統計によると過去1年で自営業者はわずか1.5万人しか増えておらず、ここ数年はおおむね横ばいながらもやや減少傾向にあります。

定職を持ちながら副業をしている人もいますが、過去1年で複数の仕事をしている人は36.6万人増と目立った増加は見られていません。

ギグエコノミーの代表格と言えるのが配車サービス、空室賃貸サービス、家具の組み立てや掃除といった雑用の請負サービスなどとなりますが、たとえば、Airbnbで空室を賃貸に出しながらUberで働いている人もおり、こうした人たちが雇用統計上、どのように反映されているのかは今のところよくわかっていません。

可能性としては、複数の企業と同時に契約する機会が増えることで、雇用者数がかさ上げされる恐れがありそうです。したがって、雇用統計の数字と実体経済の動きに不一致が生じてもおかしくはないのかもしれません。

下がり続ける物価、景気後退の足音も

雇用統計の数字がよいことに疑いの余地はありませんが、実体経済はそれほどよくはありません。ウォール街で最近話題となっているのが、景気循環研究所(ECRI)のECRI景気先行指数の低下です。

同社は景気後退を正確に予測することをアピールして注目されており、金融危機による景気後退をいち早く察知したことで有名です。ただ、2011年には景気後退宣言をして見事に外しています。とはいえ、2012年にも景気後退が始まった可能性が高いと指摘しており、この年は7-9月期が前期比年率+0.5%、10-12月期が+0.1%とかなりすれすれでした。

ECRI景気先行指数は2月をピークに伸びが低下しており、7月に入っても下げ止まっていません。景気後退の足音が近づいている様子ですので、同指数が下がり続けるのかどうか、しばらくは目が離せない状況となりそうです。

このほかでは個人消費の先行指標とされている新車販売が低迷しており、6月まで6カ月連続で前年割れとなっています。

また、5月のシカゴ連銀全米活動指数が-0.26と2カ月ぶりにマイナス圏に沈んでいます。同指数はゼロを下回ると成長が過去平均を下回っていることを示していますので、成長が鈍化している恐れがあります。

さらに、FRBが政策目標としている5月の個人消費支出(PCE)物価指数は総合・コアともに前年同月比1.4%上昇とそろって3カ月連続で低下しており、どんどんと目標から遠ざかっています。

雇用形態の変化で統計での把握が困難に

日本でもかつて“フリーター”と言えば、企業に属さない自由人の象徴としてもてはやされた時代がありました。いつのまにか定職につかずぶらぶらしている人という意味合いで使われるようになってしまいましたが、最近ではフリーランサーと名称を変えて社会的な地位も復活している模様です。

このように、フリーランサーそのものは古くから存在していますが、ギグエコノミーの発達で質・量ともに急速に広がったことで旧来の雇用統計ではその把握が難しくなっています。米労働省も新たな統計を準備している様子ですが、整理されるまでにはもうしばらく時間がかかりそうです。

したがって、これまで雇用統計と実体経済の間に見られた関連性が薄れる恐れがありますので、“雇用が堅調なので賃金も上がるはず”といった先入観はいったん取り除く必要があるのかもしれません。

投信1編集部

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投信1編集部

投信1編集部は、証券アナリストやファンドマネージャーとして長年の調査経験を持つメンバーで構成されており、金融・経済ニュースや投資に関する知識・アイデアをわかりやすくお届けします。