アイコスはたばこ業界のiPhoneになれるのか?

ガラパゴス化の危うさをはらむ加熱式たばこ市場

「加熱式たばこ」に対する認知度が一段と高まる

煙を出さず、いやな匂いも少ない「加熱式たばこ」に対する注目が集まっています。この加熱式たばこの先行企業は、iQOS(アイコス)で有名な米フィリップモリス(PM)です。同社は、日本の加熱式たばこ市場で約90%、たばこ市場全体で約10%のシェアを確保しているとされます。

これを追うのが、英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)や日本たばこ産業(2914)です。アイコスは、既に都内を含む全国で販売されていますが、日本たばこ産業(JT)は6月29日からPloom TECH(プルーム・テック)を、またBATは7月3日からglo(グロー)の販売を東京で開始しています。

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アイコスを含め、本体(スターターキット)の入手は依然として容易ではありませんが、都内で3社の製品が出揃ったことで、日本における加熱式たばこの認知度が一段と高まることが予想されます。

アイコスがiPhoneと比べられる理由

さて、この加熱式タバコに関して、一部では「タバコ業界のiPhone」と呼ばれることがあります。今さら申し上げるまでもなく、iPhoneは2007年に米アップルが発売を開始したスマートフォンです。そのiPhoneが、なぜ加熱式たばこと比較されるのでしょうか。

理由はいくつかあります。

まず、アイコスに限っていえば小文字の「i」で始まっていることや、語感が似通っているためです。また、アイコス本体の形状や、本体の充電をUSBケーブルで行うことがスマホに重なることなども挙げられます。

一方、アイコスに限らず、加熱式たばこ全般についてはどうでしょうか。そこでのキーワードは「イノベーション」です。

iPhoneは、それまでの携帯電話のようなボタンではなく、タッチパネルで操作するようになりました。また、音声通話だけではなく、インターネットを通して音楽や映画などを楽しむツールにもなります。

このように、これまでの常識を覆し新たなユーザー体験をもたらす画期的な製品は「イノベーティブな製品」と言われますが、加熱式たばこも、これまでの紙巻タバコとは大きく異なるイノベーティブな製品であるという見方が、「加熱式たばこは、たばこ業界のiPhone」と呼ばれるゆえんとなっています。

紙巻タバコが健康によくないことに疑いの余地はありませんが、加熱式たばこは有害物質の根源であるタールを排除できるため、健康リスクは低減できます。また、煙が出ないので、わざわざベランダに出る必要もなければ、子供から匂いを嫌がられることもなくなるのです。このように、加熱式たばこは極めてイノベーティブな製品です。

実態は縮小市場でのシェアの奪い合い

ただし、たとえ加熱式たばこが紙巻たばこに比べて画期的かつイノベーティブな製品であったとしても、それだけでiPhone並みの成長製品になることが保証されるわけではありません。マーケティングの専門用語で言うと、「TAM」が拡大するとは限らないためです。

TAMとは、Total Addressable Marketの略称で、「さまざまな条件が満たされたときに実現される、あるプロダクトの最大の市場規模」を指します。日本の加熱たばこの場合であれば、20歳以上の成人で現在の喫煙者である約2,000万人がTAMとなります。

スマホであれば日本の老若男女すべてが対象市場となり、子供や高齢者にも使い勝手をよくすればTAMを拡大することも可能です。

一方、加熱たばこの場合は、いくらイノベーティブであり使い勝手がよく、現在の喫煙者をつなぎ止めることができても、非喫煙者まで新たなユーザーとして取り込むことはおそらく不可能ではないでしょうか。つまりTAMは拡大しません。

このため、加熱式たばこ市場を巡るたばこ大手各社の戦いは、限られたパイのなかでのシェアの奪い合いということになるかと思います。

海外は電子たばこが主流に

また、海外では、加熱式たばこではなく、電子たばこが次世代たばこの主流となっていることにも留意すべきでしょう。電子たばことは、ボールペンのような形をした吸引器にニコチンや香料成分の入った溶液などを入れて加熱し、蒸気を吸い込むものですが、日本ではニコチン入り製品の販売が規制されています。

BATは、海外では電子たばこ販売の実績があるものの、日本では規制が厳しいために参入をあきらめ、その代わりに加熱式たばこ(グロー)を投入していますが、今のところ加熱式たばこを投入しているのは日本市場のみです(同社では日本以外の販売は供給体制が整う1~2年後とコメントしています)。

もちろん、今後、日本でヒットしたイノベーティブな加熱式たばこが、世界を席巻する可能性も全くないわけではありません。しかし、世界的に先進国では喫煙者人口が減少していることや、既に先行製品(電子たばこ)があることを考慮すると、その可能性は限定的ではないかと考えられます。

つまり、加熱式たばこは、日本だけでブームとなるガラケー的な存在になってしまう可能性もあるということです。

「タバコ業界のiPhone」という言葉も、日本の愛煙家に加熱式たばこを訴求するための表現かもしれません。そして、イノベーティブな製品を開発しながら、世界を席巻できなかった日本の家電業界の二の舞にならないとも限りません。こうした点に留意しながら、日本における加熱式たばこブームの行方を見守りたいと思います。

投信1編集部

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