今年、独立100周年を迎える北欧の国フィンランドに今、熱い視線が注がれています。人口約550万人(2017年1月末時点)の小国ですが、OECDのレビュー(OECD Reviews of Innovation Policy Finland 2014)では「世界で最も競争力があり、かつ市民は人生に満足している国の一つである」と報告されています。

私自身、縁あってフィンランドのアアルト大学(Aalto University、元Helsinki School of Economics)でエグゼクティブMBAを取得したので、多くのフィンランド人に接し、今もお付き合いが続いています。

その経験から、フィンランドにはこれからの日本人の生き方を考える上のヒントがあるように思います。そこで今回は、私自身がフィンランド人から学んだことを5つのポイントにまとめてお伝えしたいと思います。

1. 生涯、学び続ける

私がアアルト大学で受けたエグゼクティブMBAコースは素晴らしい体験でした。1年9カ月間、多彩な講師陣(半分以上は学外から招聘)、多国籍な同級生(15人)と切瑳琢磨しましたが、成熟した大人の学校といった趣きでした。

ヘルシンキで集中講義を受けたときに気がついたのですが、フィンランド人は働きながら、学びたい時にいつでも学べる環境にあります。集中講義における生徒の平均年齢は幅広く、45〜55歳くらいの生徒も多く見受けられました。まさに生涯学習です。

また、フィンランドの大学は企業が必要とする人材育成に貢献していると実感できました。時々ハーバード大学の古いケースが使われることもありましたが、それは一部で、常に自分の現実のビジネスに引き戻して考えさせられました。大学の授業にリアリティがあると感じたゆえんです。

ヘルシンキ港にはヨットハーバーやカフェも

2. グローバル人材には英語力よりも大切なことがある

多くのフィンランド人と付き合って気がついたのは、英語力は当たり前で、それに加え、高い専門性や幅広い教養・見識をつけようと不断の努力を続けている人が多いということです。

一方、日本では一部に英語さえできれば国際派という感覚があるようで、文部科学省の旗振りで中途半端な「グローバル人材育成」なる言葉が一人歩きしているようにも見えます。

3. 生き延びるために適応し続ける

フィンランドを代表する大企業、北欧の巨人ノキアは、かつて世界の携帯電話市場でシェア4割という圧倒的な地位にありましたが、2014年、その携帯端末事業を米マイクロソフトに売却しました。

創業当時の主製品はパルプやゴム製品でしたので、事業ポートフォリオの大胆な入れ替えはノキアのお家芸です。そうした環境適応の歴史を見ていると、ノキアはあたかも日本に多く存在している適応力の高い「長寿の中小企業」のように見えます。

先月6月21日、ノキアはデジタルヘルス領域で10年ぶりに日本に再参入することを発表しました。商品は、Wi-Fi接続型のBMI体重計「Nokia Body」(税込参考価格:8,510円)です。ノキアは日本古来の中小企業並みにしぶといようです。

食器や雑貨で世界的に有名なフィンランド企業「ittala(イッタラ)」の工場外観

4. 起業家を成長させるグローバルプラットフォーム構築

今、ベンチャー業界で異彩を放っているのが、フィンランド発祥の「Slush」です。これは2008年から毎年開催されている世界最大級のスタートアップ創出イベントで、起業家、投資家、企業、ジャーナリストらが集結します。

Slushでは世界的に有名な起業家がスピーカーとしてステージに立ち、若い起業家がビジネスモデルを公開・提案するピッチコンテストが開催されるなど、熱いプログラムが繰り広げられます。

東京でも、2015年4月からSlush Tokyoイベントが開催されています。今年も3月に『Slush Tokyo 2017』が東京ビッグサイトで開催されました。次は今年9月開催のSlush Singapore 2017です。

私は過去20年を超えるアジアでのビジネス経験で日本人がグローバルネットワークを一から作る限界を感じており、近年は、もっぱら印僑(インド人系)の起業家関係ネットワーク、華僑(中国人系)ネットワークなど、日本人には真似できない真のグローバルプラットフォームを活用するアプローチを取ってきました。

しかし最近は、Slushに象徴されるように、国内マーケットが小さくグローバル化が宿命であるフィンランド人も負けてはいません。フィンランド人がグローバルプラットフォームを構築したり、ムーブメントを起こす手法などには学ぶところが多いと感じます。

5. 徹底した合理主義と効率主義

フィンランド人の根底には徹底した「合理主義」があるように感じます。それは、たとえば生活態度に現れています。

フィンランドではワークライフバランスの考え方が徹底していて、定時の17時までしか働きません。就業時間以外は家族や趣味のための時間なのです。

共働きが基本ですので、子どもがいれば、迎えに行くために16時に会社を出ることも当たり前です。18時以降、仕事でフィンランド人に連絡は取れません。夏休みも1カ月くらいは取るようです。

また、フィンランド人は「効率」を重視するので会議時間は短く、決断に要する時間も短いのが特徴です。フィンランドでは、決断までにあまり時間をかけると興味がないと思われてしまうようです。

ヘルシンキ港界隈の市場にて

フィンランド人の生き方にヒントがある

日本では、昭和の高度成長期にできた社会・経済モデルの改革とともに働き方改革等も議論されているようですが、今後、超高齢化社会という環境に適応した新たな国家モデルとビジョンが必要なのでしょう。

そして、その中で個々人は生き方を再考することが求められています。私の経験からは、フィンランド人の生き方には何かヒントがあるように思えてなりません。

大場 由幸