就活には役立たずの父のお仕事

就活中の大学生の娘に対して、証券アナリストである父はどのようなアドバイスをすべきか? これが今回のテーマですが、なかなかの難問です。

そもそも、この手のテーマを筆者のような”おじさん”に語らせると、どうしても「説教、昔話、自慢話」となりがちで、若者にとってはしばしば不快であろうと自覚しているのが最大の理由です。

既に50歳を超えた筆者の約30年前の就職活動の経験は、今の時代にはほとんど役に立たないでしょう。また、採用側として証券会社でアナリストを目指す就活生を見てきた経験はあるものの、時代に合った有益なアドバイスができるかは、はなはだ疑問です。

というのは、今や証券会社のアナリストの仕事も、AIの発達、情報開示規制の強化、欧州で新金融規制(注)が始まることなどにより、先行きが見通し難くなっているためです。

注:MiFID2と呼ばれるもので、2018年からは運用会社が証券会社に支払う手数料を、売買手数料と調査費に分離して管理・開示することが求められる。

また、キャリアコンサルタントが上場、非上場を問わず本人の適性に合った企業を長期的な視点で考えるのに対して、証券アナリストの仕事は対象が上場企業中心であり、業績予想を行うのもせいぜい5年程度です。

よって、筆者のアドバイスから投資妙味のある銘柄を探すこととはできたとしても、就活生個々人の適性に合い、かつ働き甲斐のある素晴らしい会社を探すのには必ずしも参考にはならないと考えてください。

でも「なでしこ銘柄」はちょっといいかも

そんな父親ではありますが、少しだけ娘の就活にも役立つのではないかと気にしている動きがあります。それは、経済産業省と東京証券取引所が2012年度から毎年発表している「なでしこ銘柄」です。

この制度では、女性の活躍向上に前向きで、かつ業績も優れている企業が選ばれます。

具体的には、まず2016年4月に施行された「女性活躍推進法」を受けて行動計画を策定していること、厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」に女性管理職比率を開示していることを条件に一次スクリーニングが行われます。

続いて、投資の実務家や人材活用の専門家からなる「『なでしこ銘柄』検討委員会」によって決められたスコアリング方法をベースにランク付けが行われ、さらに財務指標(ROE)によるスクリーニングを経て、28の業種ごとに「なでしこ銘柄」として選定されることになります。

なお、2012年度から2014年度までは東証1部上場企業だけが対象とされていましたが、2015年度からは東証2部、マザーズ、JASDAQと、大企業から新興企業まで約3,500社全ての東証上場企業が選定対象となっています。

では、なぜこの制度が「ちょっといいかも」と感じたのでしょうか。その理由は3つあります。

第1は、スコアリング方法が網羅的かつ具体的であることです。スコアリングでは、女性のキャリア促進と仕事と家庭の両立サポートの観点から、経営層のコミットメント、具体的な取り組み内容、実績などが評価されます。また、実績については、1か月あたりの平均残業時間や男性の育児休業取得比率まで採点されます。

今、日本では「働き方改革」の重要性が叫ばれていますが、このスコアリングにもその問題意識が色濃く反映されています。よって、ここで高得点を得ている企業はこの問題に真摯に取り組んでいるということになります。

第2は、財務指標のスクリーニングではROEの直近3年間平均が8%以上、あるいは各業種中央値以上であることが求められるなど「稼ぐ力」も評価基準となっていることです。

ROEが低いと株価が上がらないだけではなく、企業は再投資ができずジリ貧となってしまうため、投資家の視点からだけではなく、就活生にとっても重要なポイントだと思います。

第3は、2016年度から成長性を重視した考えにもとづき「準なでしこ銘柄」も選定されるようになった点です。具体的には、「なでしこ銘柄」を除くスコアリングの高い企業から、成長性が期待でき、かつ赤字ではない20社程度が選ばれます。