最高値更新が続く米株式市場で警戒すべき不安材料とは

インフレ鈍化に目を奪われていると足もとをすくわれる?

先週の米株式市場は連日の最高値更新となりました。ただ、経済指標はさえない数字が並んでおり、株価の上昇には違和感も少なくはありません。そこで今回は、軟調な経済指標でも株価が上昇している背景とそこから伺える不安材料を整理してみました。

インフレのみへの着目ではバランスを欠く恐れも

先週の米株高を先導したのはイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長の議会証言でした。イエレン議長はこれまで、インフレの鈍化は“一時的”として利上げに前向きな姿勢を示していましたが、12日の議会証言では物価動向を慎重に見極める姿勢に転じたことから年内の追加利上げ観測が後退しています。

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ただ、6月のFOMCの議事録が5日に公開され、インフレの鈍化が一時的ではない可能性が既に触れられていたことを踏まえると、議会証言の内容を“ハト派”と解釈するのは行き過ぎなのかもしれません。

また、FRBは“物価の安定”と“雇用の最大化”の2つの目標を掲げていますので、物価のみに目を奪われて金融政策を評価することは不適切である恐れがあります。インフレ率が目標に届いていないことは事実ですが、失業率が目標を達成し続けていることもまた事実です。

FRBは2015年12月に利上げを開始して以降、これまでに合計で4回利上げを実施していますが、すべてにおいてインフレ率は目標を下回っています。FRBは失業率が目標を達成している限り、インフレ率は目標に回帰すると考えていますので、インフレ率が目標に達していなくても失業率が目標をクリアしているのであれば、利上げの可能性は残されているのかもしれません。

必ずしもマイナスではないインフレ率の低下

ところで、インフレ率の低下は家計の購買力を高めますので、必ずしもマイナス要因ではありません。

米消費者物価指数(CPI)は2月に2.7%まで上昇していますが、この影響で実質所得が1月、2月と連続でマイナスとなっていました。実質所得が2カ月連続でマイナスとなるのは、まだ景気後退局面にあった2009年以来のことですので、1-3月期の個人消費が低迷してしまうのも無理はなかったのかもしれません。

賃金の伸びを上回るスピードで物価が上昇してしまうと、実質所得がマイナスとなり消費が冷え込んでしまいます。しかし、インフレ率が低下したおかげで5月はインフレ調整後の可処分所得が大きく伸びており、6月も実質所得の高い伸びが期待できそうです。

5月の米小売売上高は低調に終わりましたが、所得の動きを見る限りでは持ち直しに期待できそうで、個人消費が持ち直すのであれば、利上げには追い風となるかもしれません。

7月以降はインフレ鈍化も一服?

CPIの低下には原油価格の下落が大きく影響しています。より正確には、原油価格の上昇がCPIを押し上げていましたが、その押し上げがなくなったということです。

たとえば、今年2月の原油価格(WTI、期近)は53.5ドル(1バレル当たり、以下同)と前年同月を75%上回っていましたが6月には7%下回りました。昨年の7-9月期は平均で45ドル程度でしたが7月14日現在はこの水準を上回っています。原油価格がおおむね足もとの水準で推移した場合には、CPIの下げ余地も限定的となることを伺わせています。

原油価格が下げ止まったとしても、インフレ率が現在の低水準から回復するわけではありませんが、さらに鈍化するリスクは小さいと思われます。

ドル安・低金利主導の株高、景気減速に注意

また、インフレ率が下げ止まる要因としてドル安も注目されます。6月のFOMC議事録ではインフレの鈍化が続くリスクとしてドル高が挙げられており、逆に考えればドル安になればインフレ率の上昇要因となるわけです。ドルは対主要通貨で見ると3月以降はほぼ一貫してドル安で推移しています。

先週の米株高はハイテク株と高配当銘柄が主導しましたが、ドル安で海外売上高比率の高いテクノロジーセクターに買いが集まり、利上げ見通しの後退で配当利回りが改めて注目されたことが背景にあります。

したがって、少なくとも先週の株高については、企業業績や景気見通しに基づいていないと言えそうです。先週発表された5月の小売売上高は前月比-0.2%と2カ月連続で減少しています。GDPの個人消費に近いとされる自動車、ガソリン、建材、食品サービスを除くコア売上高も5月の横ばいに続き、6月は-0.1%と低調です。

米景気循環調査研究所(ECRI)の景気先行指数は2月から伸びの低下が続いており、景気後退も視野に入りつつある模様です。

アトランタ連銀のGDPナウは7月14日現在で4-6月期のGDP成長率を+2.4%としており、5月には4%台と高い伸びを予想していましたが、6月以降は急速に予想を引き下げており、下方修正が止まらなくなっています。一方、ニューヨーク連銀のナウキャストは14日現在、4-6月期を+1.9%、7-9月期を+1.8%としており、3四半期連続で2.0%割れを予想しています。

また、先週から4-6月期の米企業決算が本格化し、先陣を切る形で大手行の決算が発表されましたが、将来的な収益の低下が不安視されて銀行株は軒並み安となりました。

ファンダメンタルズなき株価上昇、巻き戻しを警戒

本稿のポイントをまとめると以下のようになります。

議会証言を受けた米利上げ見通しの後退は、インフレに着目し、失業率の低下が見逃されている点でややバランスを欠いている恐れがあります。

インフレ率の低下が低迷している個人消費の回復を助ける可能性があり、景気が持ち直せば利上げには追い風となりそうです。

また、原油安に主導された物価の弱含みは近い将来解消される公算が大きくなっています。

最近の株価の上昇は企業業績や景気見通しといったファンダメンタルズではなく、ドル安や低金利に支えられている模様ですので、米利上げ見通しが再浮上した場合の巻き戻しには警戒が必要となりそうです。

実際の経済指標は軟調であり、株高を正当化するには物足りない数字となっています。金融機関の利益見通しも怪しくなっており、与信に慎重になる可能性も警戒したいところです。

投信1編集部

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