究極の働き方はブラックジャック? アジアで考える日本的サラリーマンからの脱皮

高度経済成長を経て、日本は個々人の顔が見えにくい「サラリーマン社会」になっていると思います。日本人の強みは伝統的に組織力・チームワークで、それは誇るべきものです。ただ、米国などでは突出した起業家が登場し、それが巨大なグローバル企業へ急成長しているため、結局、日本企業は個人に負けているのではないかという感覚があります。

そこで今回は、海外での生活・仕事から見えてくる日本的なサラリーマン像と、そこからの脱皮について考えてみたいと思います。

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善悪より組織の空気を読む

最近、日本にとって不名誉なニュースが続いています。三菱自動車や東芝といった名門企業においてデータ偽装や不正会計などの不祥事が明るみに出ました。

海外の人々からすれば、なぜ真面目な日本人がそんな不正をしてしまうのか不思議なようですが、突き詰めれば、名門企業を蝕んだのは「サラリーマン病」ではないでしょうか。

日本企業が効率的に高成長を実現していく過程では、サラリーマンは空気を読んだ方が良かったはずです。そして、1980年代、高度成長が終わっても大企業では社内の中枢を歩んだ「優等生」が社長に選ばれるようになりました。社内の空気がうまく読めて、上司の覚えがいい「優等生」が出世するようになったわけです。

しかし、会社にとって不都合なことを隠す上記の不祥事のような問題は、空気を読むことを得意とし、会社に依存するサラリーマンの悲しい性の結末と言えるのではないでしょうか。

日本と海外のサラリーマン、契約形態と意識の違い

マレーシアに住んで周囲の友人(海外企業のマレーシア駐在員)と付き合っていて気がついたのですが、「終身雇用」という概念はおそらく日本くらいでしょう。聞けば、どこの国でも会社との期限付き雇用契約が基本で、会社の命令による「転勤」で海外法人に来ているわけではないようです。

契約形態が違えば、サラリーマンの意識も違ってきます。ご近所の友人はサラリーマンであっても、日本の駐在員とは会社に対するスタンスが違います。

たとえば、契約更新の際は、パフォーマンス、報酬、諸条件等を徹底的に交渉するため、ある意味、野球選手やサッカー選手と同じです。契約更新時の交渉で、家族を年に数回呼び寄せるためのフライトチケット(ビジネスクラス)など細かいオプションを付けているとも聞きます。会社と交渉するという意識が弱い日本人駐在員とは大きな違いです。

海外での評判は「群れる日本人」

日本人は群れたがると海外では評判です。特に大企業の多くの海外日本人駐在員は、日頃、日本人だけで集団行動しがちです。海外に果敢に乗り込んで活躍する経営者/自営業者ですら、一部、「和僑」等と称して群れをなしています。なぜ群れるのでしょうか。

こうした光景を見ると、劇作家の寺山修司の言葉を思い出します。「人は弱いから群れるのではない。群れるから弱くなるんだ」。

アジアでも、群れることによって個の力が弱くなっている日本人像ができ上がりつつあると感じています。

個人主義的で独立心の強い華人ビジネスマン

私が住むマレーシアでは、ブミプトラ政策というマレー系住民の優遇策が強化されていますので、底流では非マレー系住民の不満が募っています。ただ、華僑系マレーシア人は、もともと海を渡り外国で根を張って生きてきた人々であり、ブミプトラ政策に文句を言いながらも、経済的に自立して政府に頼らず逞しく生きています。

華人ビジネスマンは、「アジア的個人主義」と言われるように集団思考よりも個人思考や独立心が強いのが特長のようです。日本人のような群れ方はしません。

仕事は、大企業に就職するというよりは、家業を継いだり起業するケースが多く見受けられます。大企業に入社しても独立心は旺盛です。資金と智恵を出し合って、共同でパートナーシップを形成して素早く新事業をスタートします。失敗も多いようですが、失敗しながら経験を積むわけです。

日頃、付き合いのある華人ビジネスマンにはもう一つ特長があります。一般に起業家教育の場で取り上げられる話に「ノミ」の逸話がありますが、ノミは一度透明なコップをかぶせられると、そのコップを外してもコップの高さまでしか飛べなくなり勝手に自分の限界点を設定してしまうというものです。

日本では、一般的な価値観として自らの限界を知ることが利口なことだという風潮があるのかもしれませんが、華人ビジネスマンには「身の程知らず」という呪縛は薄いように感じます。つまり、上記のノミのように自らの限界を決めてしまうことがないように思います。

究極の働き方はブラックジャック

アジアでは、医者は必ずしも病院に所属しているわけではなく、契約により病院というインフラを使っている状態です。この分野では、有名な病院が名前や設備で集客する面と、医師個人の人気で患者が集まるという面があります。医師は専門によっては相当な設備投資が必要なので、病院側と医師側の双方にとって合理的なシステムと言えるでしょう。

突き詰めて考えると、「会社」という組織は必ずしも必要ではないのかもしれません。業種によっては「フリーター」というビジネスモデルもあり得ます。

つまり、会社は作らず、あくまで個人事業主です。複数の組織などで軒先を借りることもできますが、基本的には腕一本で仕事をして報酬を得ます。固定資産も固定費も資本金も少なくてすむ経営です。私にとっては、この究極のイメージは漫画のブラックジャックです。

日本企業の経営者からすれば、長期デフレで停滞した日本で「正社員」を採用するのは勇気がいると思います。そうした中、今後多くの日本人は、強みである組織力・チームワーク力を活かしながらも会社に過度に依存せず、「個」としてより逞しく生きていかねばならないのかもしれません。

大場 由幸

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大場 由幸

新潟大学法学部卒業、フィンランドAalto大学(元Helsinki School of Economics)Executive MBA取得。
専門は新興国における中小企業金融、中堅・中小企業のアジア戦略・財務。
中小企業金融公庫(神戸支店、宇都宮支店、本店国際デスク)、在ベトナム日本国大使館 専門調査員、UFJ総合研究所 国際本部チーフコンサルタント、東京中小企業投資育成 アジアデスク統括マネジャー、クロスボーダー・ジャパン(株)代表取締役社長を経て、2012年12月、マレーシア(ジョホールバル市)へ。現在、新興アジア諸国にて地場中堅・中小企業/起業家向け金融支援プロジェクト、戦略コンサルティング等に従事。