なぜ銀行は債務超過の借り手を支えるのか?

大企業救済の追加融資をめぐり駆け引きも

債務超過というのは、「資産を全て売却しても負債を全部返済することができない」状態を言います。通常、そうした会社に対する貸し手は「他の貸し手が返済を受けてしまうと、自分が返済を受けることができなくなってしまう」と考えるので、「他の貸し手が回収する前に急いで貸出を回収しよう」とします。こうして全部の貸し手から返済要請が来ると、全部は返せませんから、倒産することになるわけです。

しかし、場合によっては、銀行が回収を急がず、したがって借り手が直ちには倒産しないことがあります。今回は、銀行が回収を急がない事情について考えてみましょう。

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景気の回復などが見込まれる場合

第一に、借り手の業況回復が見込まれる場合です。一時的な不況で債務超過になったとしても、景気が回復すれば黒字となり、債務超過が解消されると期待される場合には、急いで回収するよりも回復を待った方が得になるのです。「バブル期の投機に失敗して債務超過に陥っているが、本業が好調なので債務超過の解消は時間の問題である」、といった場合なども同様です。

第二に、銀行が評判を気にする場合です。「あの銀行は冷たい」と思われると、他の借り手が逃げて行き、他行から借りるようになってしまう可能性があるのです。当該借り手との関係だけを考えれば、回収した方が得でも、銀行全体を考えれば回収しないで借り手が少しでも長生きできるように見守ることが必要なのです。

急いで回収するより待った方が回収額が多そうな場合

第三は、「貸出の回収を待とう。その方が結果として回収できる金額が増えるだろうから」と考える場合です。そう考える背景には減価償却による利益とキャッシュの乖離があります。

銀行から100万円借りて機械(減価償却は10万円ずつ10年間)を買った会社が、「債務超過になりました。今後も毎年1万円の赤字の見込みで、回復の可能性はありません」と連絡してきたとします。銀行としては、「すぐに返せ」と言うと、借り手が機械をスクラップ業者に二束三文で売却することになり、銀行の回収額は非常に少なくなってしまうでしょう。

しかし、回収を待てば、毎年1万円の赤字を出し続けても、銀行は毎年9万円(10年間で90万円)回収できるのです。決算は赤字でも、キャッシュフローは黒字だからです。それなら、返済を待つインセンティブがありますね。

減価償却は、利益は下押しするがキャッシュには無関係(初心者向け解説)

減価償却というのは、厳密ではありませんが、「機械を使うと磨り減って価値が減るから、その分は費用に計上しよう」といったものです。100万円の機械が10年で使えなくなるなら、毎年10万円分だけ機械がすり減ると考えるのです。

材料費5万円、人件費6万円で作った製品を20万円で販売している会社だとすると、収入が20万円に対し、費用は材料費と人件費と減価償却で合計21万円ですから、毎年1万円の赤字となります。機械が壊れる10年後には会社は解散します。

さて、毎年の現金の出入りを考えてみましょう。収入が20万円、材料の仕入れ代金が5万円、給料支払が6万円ですから、9万円の収入超過です。そうです。減価償却は、損益を計算する際には費用ですが、機械代金はすり減る時に払うのではなく、買った時に既に払ってしまっているので、毎年の支払いにはならないのです。

そこで、毎年手元に残る9万円を銀行に返済することができるのです。10年間で90万円です。銀行は、それを狙って「機械が壊れるまで返済は待ってあげるから、社員の雇用の心配は要らないよ」と優しく声をかけるのです(笑)。

大企業の場合には、銀行間の駆け引きも重要に

もっとも、債務超過の借り手を生かしておくのは銀行として管理が大変なので、中小企業の場合は清算してしまう場合も多いようです。そこで延命されるのは大企業ということになりますが、大企業の場合には複数の銀行からの負債があるので、別の面で面倒なことが起こります。

メインバンクとしては、「全部の銀行が返済を待つことで、借り手の倒産が免れるのだから、90万円(億円?)を平等に分け合おう」と呼びかけますが、非メイン行は「自分は貸出を直ちに全額回収する。それによって借り手が資金不足に陥って倒産しそうになったら、メインバンクが追加融資をすればよい」と言い張るのです。これを「メイン寄せ」と呼びます。

これは、非メイン行にとって、賭けです。メインバンクが追加融資に応じれば、自分は無傷で全額を回収できますが、メインバンクが追加融資に応じずに借り手が倒産すれば、「あの銀行に潰された」という悪評が立ち、他の借り手たちが一斉に逃げる(借入を返済して、他行からの借入に振り替える)でしょう。そんなことになったら銀行にとって大損害です。

一方で、メインバンクにとっても追加融資に応じるか否かは難しい選択です。多くの非メイン行のうちの一つが返済を要求してきた場合、借り手からメインバンクに追加融資の依頼が来ますが、これを受けてしまうと、他の非メイン行からも一斉に返済の要請が来るかもしれません。しかし、要請を断って借り手が倒産してしまえば、「あのメインバンクは冷たい」という悪評が立つでしょう。

そこで、メインバンクと非メイン行の間では、様々な駆け引きが行われることになるのですが、業界内の事情ですので、本稿では詳細は記さないことにしましょう(笑)。

なお、本稿は、拙著『経済暴論』の内容の一部をご紹介したものです。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
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(雑誌寄稿等)
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