あなたの資産、偏っていませんか?

日銀の資金循環統計によると、日本の個人金融資産は家計当たりで見ると現金・預貯金が約53%、株式・投信15%、保険・年金29%となっています。その他に金融資産に含まれない大きな換金性の資産として持ち家等の不動産がありますが、超富裕層を除いた一般家庭では、むしろ金額的には金融資産より不動産のほうがずっと大きいでしょう。

これを投資対象地域という切り口で見ると、日本の個人投資家はほとんどの人が大半を国内資産かつ円で保有する「ホームカントリーバイアス」状態になっています。

確かに、為替リスクがないのは安心できる一つのメリットです。しかし、筆者がこれまでの記事でご説明した「投資対象地域や資産の種類、銘柄、時間の分散を十分に図ってリスク対比リターンを向上させる」という観点からは、個人資産は国内に極端に偏っています。金融資産では円の定期や普通預金、自宅や投資物件の不動産も国内というわけです。

また、株式はおそらく主に国内株式で、投信も全額が海外資産ではないでしょう。保険・年金についてはその先の投資対象が不明ですが、多くの場合、円ベースで定額を支払われるのでこれも国内資産と分類してよいでしょう。

一方、世界全体の債券や株式の資産構成を表わす指数における時価総額比率で見ると、日本国債の比率は21%程度、日本株は10%弱です。ところが、日本では保有資産の中心が自宅や預金である結果、上記の世界における日本の比率と比べて外国資産の比率が極めて少なく日本の資産に大きく偏っています。これを運用の世界では「ホームカントリーバイアス」と呼びます。

一つのイベントで全てがアウトに!?

日本の企業を給与の源泉とし、保有資産も日本に偏っていると、日本経済の悪化、国債の格下げ、銀行の経営不安、大地震や隣国からの攻撃といった地政学リスク等が集中し、投資の鉄則である「卵を同じカゴに盛るな」をまさに逆に行っていることになります。

たとえばイベントリスクとして、大地震が起きれば生産設備や物流機能の不全による経済停滞で日本株は下落、不動産に専ら投資するJリートはもちろん暴落、保険金支払いのために保険会社が国債を大量売却することによる債券安等により、トリプル安というシナリオもありえます。

国は違いますが、2001年に経営破たんした米国のエンロン社では、従業員に401kプラン(確定拠出年金)で自社株投資を奨励していました。そのため、従業員は破たん時に給与支払者が倒産し、かつコツコツ積み立てた資産も紙くず同然になり、ダブルパンチという顛末です。

これは、自分の収入の源泉(=給与債権の債務者)と運用資産を一緒にすると、一つのイベントで全てアウトになるという、他山の石とすべき事例と言えるでしょう。

また、長らく英国の統治下にあった香港は、今は国家としては中国に属しますが、独立性が損なわれるリスクを見越して、カナダやアメリカの不動産に投資し、子女をアメリカの大学に行かせる富裕層も多いと聞きます。

国際分散投資のススメ

ホームカントリーバイアスは日本に限ったことでなく、他の国でも見られる傾向です。これはやはり為替リスクがないとか、株式ならよく事業を知っている、あるいは製品を目にすることが多い国内企業に投資する方が安心ということが背景と思われます。

しかし、国内資産とリスク対比リターンの相関性が低い、すなわち分散効果の高い外国の投資対象がふんだんにあるのに活用しないのは、リスク対比リターンを向上させる機会をみすみす放棄していることになります。

たとえば、円高になると輸出主体の国際優良企業の多い日本株は下がる銘柄が多いですが、為替レートの変化が逆に作用する輸出相手国の株は恩恵を受けるので、両方を併せ持つと負の相関により分散効果が享受できることになります。

社債の場合も、同じ国だとある大企業の破たんにより関連企業が連鎖倒産したり、取引銀行が大きな損失を被って資金調達に窮し、その結果、貸出余力が乏しくなって「風が吹けば桶屋が倒れる(?)」式に資金繰りに困る企業が出ることもありえます。

そのため、クレジットリスクを取るにしても別の国の企業が発行する社債に投資しておけば、そのような負の連鎖を回避できる可能性が高まります。

個人投資家の方は、「その時々で何がいいか」を考えて投資信託を買う傾向が高いようですが、部分最適は必ずしも全体最適ではないのは世の常です。一度ご自分の資産を不動産も含めて投資対象地域別に分類し、同じイベントリスクで複数の資産が同時にやられる資産構成になっていないか、見直されることをお勧めします。

林 俊宏