夜の銀座と景気の関係-『黒革の手帖』5度目のドラマ化で考えた

支出交際費は増加傾向、銀座に活気が戻っているのか?

ドラマ化5回目の『黒革の手帖』

7月からテレビ朝日系列で、『黒革の手帖』というドラマが放送されています。武井咲さん演じる女性銀行員の主人公・原口元子が、銀行から巨額の資金を横領し、その資金を元に銀座の高級クラブのママに転身し、さらなる野望に向かって突き進むというストーリーです。

原作は1978年~1980年に連載された同名の小説で、松本清張氏の代表作の1つです。過去に何度もドラマ化されてきました。調べてみると、今回を含めて5回にもなります。

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(1)1982年(全6回):主演は山本陽子(以下、敬称略)
(2)1984年(全37回):大谷直子
(3)1996年(2時間ドラマ):浅野ゆう子
(4)2004年(全7回):米倉涼子
(5)2017年:武井咲

最初にドラマ化された1982年から今回まで、実に35年が経っています。何度も繰り返してテレビドラマ化される作品は他にもありますが、これほどの長期間にわたって繰り返しドラマ化される作品は、数えるくらいしかないのではないかと思います(他には山崎豊子氏の『白い巨塔』くらいしか思いつきません)。

細部に世相や時代背景の違いが反映されている

各回で、細かい部分の描写はいろいろとアレンジされています。放送回数の違いのほか、世相や時代背景の違いもよく反映されています。

たとえば、2004年版では主人公と銀行のやり取りの中で、「公的資金」とか「不良債権」という言葉が出てきます。一方の2017年版では、銀行の資金を横領した直接のきっかけの描写に、「従業員によるSNSの違法投稿」や「派遣切り」が登場します。こうした細部から気づかされることもあるというものです。

ただ、細かい部分の違いはあっても、ストーリーの大筋は変わりません。それなのに、毎回視聴者に受け入れられるのは、時代を超えた普遍的な要素があるからだと思います。

非日常の世界への興味に支えられるドラマ

その普遍的な要素の1つは、「銀座の高級クラブ」という非日常の世界への興味と、いくつもある繁華街の中でも「銀座は別格」という共通認識ではないでしょうか。

銀座の、特に昔から経営されている高級クラブには、「社交場」であることのプライド、常連客とお店との間の上下のない人間関係、その人間関係の前提となる「秘密は守られる」という掟に近い暗黙の了解があると言われます。それが「銀座のクラブは別格」というブランドを醸成してきました。

なかなか垣間見ることができない銀座の夜の世界の裏側。興味は尽きませんが、そのあたりの人間模様の描写はドラマのほうに譲り、ここからはもう少し経済に結び付けた話をしたいと思います。

『黒革の手帳』がドラマ化されるのは銀座の夜が活況な時?

銀座はバブル期に高級繁華街というステータスを不動のものにしました。しかし、その後は経済動向の波にもまれ続けてきました。

銀座の夜の世界の動向をきちんと数字で表現できるものは見当たらないのですが、トレンドを把握する一助となりそうな資料が、国税庁の「会計標本調査結果」にある「法人の支出交際費」の推移です。

これによると、1992年に6兆円を超えていた支出交際費は、リーマンショック後には3兆円を割り込むまで減少しました。その後、アベノミクスや交際費等の損金不算入制度の改正の影響により多少回復して、現在は3.5兆円近くとなっています(以下の図表をご参照ください)。

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(出所)国税庁「会計標本調査結果」より筆者作成

この推移に『黒革の手帖』のテレビドラマ放映のタイミングをプロットしてみました(図表の赤い棒グラフ部分)。2時間ドラマだった1996年版を除くと、支出交際費が増加トレンドにある時(1982年版、1984年版)、または減少トレンドが終わりそうだという時(2004年版)にドラマ化されているように見受けられます。

連続ドラマ化の検討の際に視聴率が念頭に置かれるのであれば、銀座の夜に興味が持たれるかどうかも1つの要素になりえます。少なくとも、銀座の夜に閑古鳥が鳴いているような時にはドラマ化されないのではないでしょうか。

そうであれば、今回、『黒革の手帖』がドラマ化されるということは、現在の銀座の夜に多少なりとも活気があるということかもしれません。

日本の経済を見る上で参考になる銀座ウォッチング

銀座は日本の経済動向を示唆する現象に事欠かない不思議な土地です。訪日外国人客が増加した時、銀座の人通りは一変しました。再開発も続き、最近オープンした「GINZA SIX」に入るテナントからは、小売のトレンドが見えてきます。

7月には国税庁が、銀座の鳩居堂前の路線価がついにバブル期の水準を超えたと発表しました。また、4月に発生した白昼の路上強盗の犯人が先日逮捕されましたが、金の売買のお金を狙ったものと報道されました。もしかしたら、金や美術品の売買が活況になっていることを示唆しているのかもしれません。

企業の金回りが良くなると、お金を使いやすい接待にもお金が回ります。昔のように社用族が増えるとは考えにくいですが、銀座の夜の状況もまた、少し先の日本の景況感を示す1つの参考になりえます。

藤野 敬太

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藤野 敬太

東京大学経済学部を卒業後、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(現日本アイ・ビー・エム)等を経て、2001年から2013年まで、日興アセットマネジメントにて、アナリストおよびファンドマネージャーとして日本株ファンドの運用に従事。
現在は、オフィス・ラコルドの代表として、ファミリー向け・ファミリービジネス向けのコンサルティングおよびアドバイザー業務を展開する。
CFP(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、シニア・プライベートバンカー(日本証券アナリスト協会認定)。日本ファミリービジネスアドバイザー協会執行役員・フェロー