7月の米雇用統計が好調だったにもかかわらず、先週の米株式市場は軟調となりました。北朝鮮情勢の緊迫化もありますが、米景気そのものに対する警戒感も見え隠れしています。何が心配されているのか、最近発表された米経済指標で確認してみましょう。

米雇用統計、好調に見えてもパート急増に落とし穴?

7月の米雇用統計では雇用者数が前月比20.9万人増と事前予想の18万人増を大きく上回り、2カ月連続で20万人超えとなりました。失業率は4.3%と前月から0.1ポイント低下し、16年ぶりの低水準となっています。また、平均時給は前年同月比2.5%上昇と事前予想の2.4%を上回りました。

一見するとバラ色の数字が並びましたが、その陰に隠れてパートが急増していることが警戒されています。

パートは経済的理由とそれ以外の理由に分類され、前者にはフルタイムを希望しているが会社の都合で労働時間を削減されたケースなどが含まれており、後者には最初からパートを希望してパートをしているケースが含まれます。

フルタイムでの雇用者数は4月をピークに頭打ちの状態にあり、7月はフルタイムが前月比5.4万人減少しているほか、経済的理由でのパートタイムも4.4万人減少しています。その一方で経済的理由以外でのパートタイムが46.9万人も増加しています。

要するに、フルタイムで働く意思のないパートタイマーが激増したことが伺えます。

ところで、最近ではインターネットを通じて単発で仕事を請け負う「ギグエコノミー」が普及し、自由な働き方が広がっています。

こうしたギグワーカーは好きなときに、好きなだけ、好きな仕事をできるわけですが、最低賃金や社会保障といった労働者を保護するシステムからは切り離されており、収入も不安定です。

また、厳しい認可基準や法規制のもとで成り立っていた既存のビジネスの存続を脅かしてもいます。

ギグワーカーの増加は必ずしも経済全体を活発化させるとは限らず、社会のセーフティネットとして機能する一方で、労働者の過剰供給を引き起こし賃金を低下させる恐れがあります。

高齢者の増加が物価にも影響か

7月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比1.7%上昇、食品とエネルギーを除くコアCPIも同1.7%上昇となりました。コアCPIの伸び率は2カ月連続で横ばいとなり、下げ止まってはいますが、低調な伸びが続いています。

雇用の大幅な伸びが物価の伸びにつながらない理由として、高齢化の影響があるのではないかと考えられています。

2016年の米国の65歳以上の人口比率は15.2%と、2015年の14.8%から0.4ポイント上昇しました。2010年は13.0%で、それ以後は毎年0.3から0.4ポイント程度の伸びが続いています。ちなみに、1970年は9.7%、1980年は11.4%でした。

高齢者の所得の中心は年金であり、年金生活者にとって雇用が増えても減っても消費への影響はほとんどないと考えられます。したがって、雇用が増えることで所得が増え、消費も活発化して物価も上昇するというシナリオは年金生活者にはあてはまらないでしょう。

また、高齢者にとって長寿リスクは悩ましい問題です。80歳くらいで人生を終えることを理想と考えていても、意図せずして90歳以上まで生き延びる可能性は誰にでもあります。長寿リスクに備えて、所得の割に消費が控えめになる恐れがあります。

日本ほどではありませんが、米国でも高齢者比率が着実に上昇しており、その割合が増えるにしたがって、雇用増加による物価の押し上げ効果が弱まっているのかもしれません。

実質給与の低下、消費回復に暗い影

4-6月期の米労働生産性は前期比年率0.9%上昇と、1-3月期の0.1%上昇から伸びを加速しました。ただし、前年同期比では1.2%上昇と1-3月期からは横ばいとなっており、トレンドは低調なままにとどまっています。

注目度の高い単位労働コストは前期比年率0.6%上昇と1-3月期の5.4%上昇から急減速し、前年同期比では0.2%低下と1-3月期の0.7%上昇からマイナスに転じています。2016年は1.0%上昇と2015年の1.9%上昇から減速しており、低下傾向を維持していることがわかります。

単位労働コストは労働生産性が上昇したり、賃金が下落したりすると低下します。単位労働コストの低下は企業収益にはプラスとなりますが、賃金が下がっている場合には消費への悪影響が懸念されます。

4-6月期の実質給与は前年同期比0.9%減と、3四半期連続でマイナスとなっています。2017年に入って米個人消費が息切れ気味となっており、低調な賃金の伸びが影響している可能性は否めません。

4-6月期の単位労働コストの低下は好調な企業決算を演出しましたが、その一方でさえない個人消費を引き起こしているとも考えられますので、好決算を素直に喜べるわけではなさそうです。

雇用形態の変化や高齢化を警戒

7月の米雇用統計では雇用者数が大幅に増え、失業率も低下していますが、パートタイムが急増している一方でフルタイムは減少しています。ここで注目すべきは、パートは本人の希望であり、企業側の都合でパートをしているわけではないことです。

最近は自由な労働形態が人気化していますが、既存のビジネスへの打撃や不安定な収入を考慮すると必ずしも経済にとってプラスとは言い切れないのかもしれません。雇用の増加は喜ばしいことではありますが、労働力の過剰供給により賃金が低下する恐れがあるからです。

物価の伸びは引き続き低調となっており、高齢化により雇用が堅調でも物価の押し上げ効果は弱まっている可能性があります。また、労働生産性が低迷している中で単位労働コストが低下しており、目先の企業業績を押し上げる一方で消費の停滞が長引くリスクが高まっている模様です。

LIMO編集部