通勤電車の恐怖、痴漢えん罪のストレスは解消されるのか?

強姦罪が消え強制性交等罪に、強制わいせつ罪は非親告罪に

大幅に譲歩しても、裁判にしないほうがいい3つの事件

どうしても決着がつかないモメ事は、最終的には裁判にするしかありません。とはいえ、弁護士の話では、裁判にしないほうがいいと言われているモメ事もあるようです。行政事件、労働事件、そして痴漢事件です。

行政事件は、官公庁などの巨大かつ権限のある組織が相手なので、証拠収集力で圧倒的に不利だからです。「近年は少しずつ勝率が上がってはいるものの、やはり勝率はごくごく低い」と言う弁護士も多いそうです。

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労働事件は、裁判所の方向性が確立していないと言われる分野で、判決の見通しが立てにくいからです。第一審・控訴審・上告審の三審制をとる日本の裁判で、勝・勝・勝、あるいは負・負・負というように3つとも同じ判決が出ることが少ないためです。

実際、初めて労働事件を担当したとき、先輩裁判官から「基本書を読むなら、弁護士が書いたハウツー本のほうがまだ役に立つ」とアドバイスされたと言う元裁判官がいることからも、裁判所の方向性が未確立であることがうかがえます。

勝つ見込みがごく低い、あるいは勝つか負けるか見込みが立たない裁判に時間とお金をかけても割に合いません。大幅に譲歩したとしても、当人同士の話し合いで解決するほうがトクというわけです。

痴漢が非親告罪になり、えん罪の心配は解消される?

痴漢事件も大幅に譲歩し、えん罪を受け入れても裁判にせずに解決したほうがいいと言われてきました。しかし、ここにきて少し様相が変わっています。

本年7月13日、110年ぶりに刑法から強姦罪が消え、代わりに強制性交等罪が施行されています。強姦罪との違いは、①被害者に男性も加えられたこと、②3年以上だった懲役が5年に引き上げられたこと、③肛門や口腔への性交が加わったこと、④親告罪ではなくなったことなどが挙げられます。

強制性交罪に問われる心配は、本人の自覚しだいで軽減できます。心配なのは痴漢です。特に通勤電車内で、やってもいない痴漢の罪を着せられることを心配する男性は少なくないようです。

痴漢行為のうち悪質なものは強制わいせつ罪、程度の軽いものは各自治体の迷惑防止条例違反にあたります。強制わいせつ罪は強制性交等罪と同じように、今回の法改正で非親告罪になっています。

親告罪では、被害者の告訴がないと起訴できないため、示談金を払って告訴を免れるケースが通例でした。ところが、非親告罪は被害者の告訴がなくても起訴できます。つまり、示談にしようとしまいと、犯罪が成立する限り起訴されるということです。

これで、被害者の側は泣き寝入りしなくてもすむようになるでしょう。一方、示談金目当てに痴漢行為を誘う、あるいは根拠のない言いがりが減ることも期待できるわけです。

痴漢えん罪に遭いやすいのは、地位とお金のある管理職

本当に痴漢をしたなら論外ですが、映画『それでもボクはやっていない』にもあるように、えん罪と思われるケースも否定できません。

痴漢えん罪に巻き込まれるのは、管理職に多いと言われています。社会的地位、示談金を払う経済力があるためではないかと思われます。

ある大企業の部長ですが、朝の通勤電車の中で痴漢だと騒がれ、警察署に身柄を拘束されたそうです。もちろん真偽は神のみぞ知ることですが、本人は会社から差し向けられた弁護士にも無実だと主張していました。

被害者は、過去にも数度痴漢の被害を訴えたことがあり、いずれも示談で解決していました。だからといって、示談金目当ての言いがかりとは断定できませんが、かぎりなく疑わしいとは言えるのではないでしょうか。

この事件も結局、示談が成立し、起訴にはならずに解決しています。

万一、言いがかりだとしたら、みすみす示談金を持っていかれるのですから、なんとも悔しい話ではあります。おまけに、非親告罪になったことで示談金目当ての言いがかりはなくなるとしても、誤解によるえん罪の心配まで消え去ったわけでもありません。

痴漢で疑われたことを会社や同僚に知られる心配は?

サラリーマンの場合、起訴されなければ問題なしというわけにはいきません。警察でなくても何らかの拘束があれば、その間は会社に行けません。運よく無実が証明されても、疑われたことを会社や同僚に知られるだけでも、出世に悪影響が出るのではないかという心配が持ちあがります。

前述の弁護士によれば、「個人情報に当たりますので、担当者以外に知れ渡ることはないでしょう。会社にとって自慢になることではないので、事務処理が終われば記録物も消去されると思いますけどね」とのことなので、ひと安心です。

もっとも、人の口に戸は立てられないと言うように、何らかのルートで知られてしまう心配は皆無とはいかないのではないでしょうか。何とも納得できない話です。

だからと言って、裁判で無実を証明するのは相変わらずの高リスクです。近年は、電車内に監視カメラを設置する計画や、いわゆる痴漢保険が登場しています。しかし、監視カメラは電車内をもれなく映し出しているわけではないので、必ずしも無実の証拠としては期待できそうもありません。

保険にしても、多くは初期手続きの弁護士費用までのようです。仮に裁判費用まで補償する契約をするとしたら、掛け金が膨大になるのは免れないのではないでしょうか。

法は改正されても、相変わらず電車内のストレスは続きそうです。警察が、どんな法運用をするか気になるところです。

間宮 書子

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國學院大學法学部卒業。法律系出版社、弁護士事務所勤務を経て、現職に。
ビジネス法務を中心に、ビジネス全般、旅やエンタメなど広く取材・執筆に従事。
現在は埋もれていても100年後に大化け、通説となるようなネタを求めて活動中。