日経平均19,500円割れと今後の留意点

「柏原延行」のMarket View〜2017年8月16日

皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで調査グループ長を務めます柏原延行です。

日経平均株価は、8月14日に一時19,500円を割り込む局面が見られた後、15日には200円超上昇するなど値動きが激しくなっています。そこで、今回のコラムではこの背景と今後の留意点を考えたいと思います。

今回の19,500円割れの原因としては、「①全体として堅調な決算発表が一巡し、材料出尽くし感が生まれたこと」、「②市場参加者の数が少ないと思われるお盆の期間中であり、値段が変動しやすかったこと」、「③北朝鮮問題への警戒」、「④8月11日に発表された7月の米消費者物価指数(CPI)が前月比0.1%上昇と市場予想に届かず、米連邦準備理事会(FRB)が利上げに慎重になるとの見方が浮上したこと」などがあげられます。

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④に関しては、これまでご説明しているゴルディロックス(熱くも冷たくもなく丁度いい)的環境に寄与するとして米国株式のポジティブ材料として考えることもできます。事実、政策金利の引き上げの進捗が一段と慎重になるとの見方も浮上し、一時的に米長期金利は低下(価格は上昇)しました(図表1)。

一方で、日米金利差の拡大による米ドル高・円安シナリオが後退し、一時的な米ドル安・円高も進展しました(図表2、図表1と比較するとこの期間では米長期金利と米ドル/円の動きが似通っていることがわかります)。

そして、この一時的な「金利低下、米ドル安・円高」が19,500円割れを引き起こしたと思われます。

図表1:米国10年債利回り
2017年2月15日~2017年8月15日:日次

出所ブルームバーグのデータを基にアセットマネジメントOneが作成。

 

図表2:米ドル/円の為替推移
2017年2月15日~2017年8月15日:日次

出所:ブルームバーグのデータを基にアセットマネジメントOneが作成。

上記の①~④までの要因のうち、①、②は8月という時期における特殊要因であり、時間の経過とともに、プラス材料でも、マイナス材料でもなくなることが予想されます。

加えて、「③北朝鮮問題」については、潜在的な我が国株式の下落要因ではあると思われるものの、足元では緊張緩和方向であるとの報道がなされています(シナリオ別の市場の反応については、2017年5月2日公開の記事『北朝鮮問題が経済・投資環境に与える影響。想定される事態とは?』をご参照いただければ幸いです)。

したがって、経済・投資環境を予測する立場からは、「④予想比下振れした米消費者物価」について、どのように解釈すべきかが重要になると考えています。

そこで、米国のインフレ動向について再整理したいと考えます。米国のインフレ動向を把握する指標として、何が適切であるかを判断することは容易ではありません。たとえば、消費者物価にしても、エネルギー価格を「含む指数」と「除く指数」のどちらが適切であるかには議論があります。

私は、(ごく当たり前で、かつ面倒くさくて恐縮ですが)ひとつの指標ではなく、様々な物価関連統計を見て、総合的に判断すべきという穏当な結論を支持したいと考えます。

この観点から見て、皆さまが簡単に確認でき、かつ公的機関データとして信頼性があると思われるものが、米アトランタ連銀の発表している「インフレーションダッシュボード(Inflation Dashboard)」です。

インフレーションダッシュボード(2017年8月16日13:00時点)を見ると、6個の大項目から見たインフレの程度があたかも「車や飛行機の計器盤」で見るように把握することができます。

6個の大項目中、程度が中庸なものが3項目と一番多く、程度の強いものが1項目、程度がやや弱い、もしくは弱いものが2項目となっており、全体としてインフレは安定していると評価できるのではないかと考えます。

そして、項目別に見た場合、一番程度が大きい項目は、メディアの報道等でもよく目にする「雇用コスト」(Labor Costs)の観点であり、ほぼ右に振り切れた(程度が大きい)数値を示しています。

逆に、最も程度が小さいものは「インフレ予想」(Inflation Expectations)であり、低位に位置しています。そして、この「インフレ予想」という項目の程度の低さが長期金利の安定に寄与している面が大きいと私は考えています。

「インフレ予想」は、ある主体が将来のインフレ率をどの程度であると予想しているかを示したものであり、アンケートなどによって計測されます。

それでは、仮にこのようなアンケートをある主体が受けた場合、将来のインフレ率をどのように想定し、回答するかを考えてみましょう。

足元の経済指標を細かく継続的に観察している主体以外は(このような主体は少ないと思われます)、自身の生活実感や過去の経験によって将来のインフレ率を予想するものと思われます。

すなわち、アンケートによる「インフレ予想」は、将来の予想とされているものの、実態としては「現在、および過去」のインフレ率自体が将来の予想に大きく影響している可能性が高いと私は考えます。

したがって、現在のインフレ率が上昇する兆しを見せると、昨今の雇用が逼迫している状況の中では、インフレ予想は比較的容易に上昇する可能性があるのではないかと考えます。

ミシガン大学のインフレ予想データを見ると、足元では若干反発のきざしがあるようにも見えますが、一方で、2013年頃から低下トレンドを抜け出したと評価するには至っていないように思われます(図表3)。

図表3:ミシガン大学 インフレ予想(5-10年先)
2007年1月~2017年7月:月次

出所:ブルームバーグのデータを基にアセットマネジメントOneが作成。

先ほどもお話しした通り、米アトランタ連銀のダッシュボードを眺めた場合、少なくとも現状ではインフレに対する懸念は、中庸にあると評価できると考えます。

そして、この物価の安定は、前回コラムでお話しした経済成長の地域的な分散に支えられた安定推移、そして、成長の安定推移からもたらされる企業収益の底堅さと相俟って、米国株のみならず、我が国の株式に対して、ゴルディロックス的な環境を提供しており、株価のじり高基調をサポートするのではないかと考えます。

(2017年8月16日 13:00執筆)

【当資料で使用している指数についての留意事項】
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柏原 延行

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柏原 延行
  • 柏原 延行
  • アセットマネジメントOne株式会社 
  • 運用本部調査グループ チーフ・グローバル・ストラテジスト

現みずほ銀行の運用担当者(外国債券など)を経て、運用会社にて、株式運用部長、企業調査部長、運用戦略部長などを歴任後、現在はアセットマネジメントOneにて、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めております。
運用会社に勤務して、はや25年を超えました。遊び心も忘れずに、皆さまのお役に立てるコラムをお届けしたいと考えます。妻、娘の3人家族です。
早稲田大学ファイナンス研究センター非常勤講師、日本証券アナリスト協会検定会員。大阪大学卒業、筑波大学大学院修了。