エコノミストはどうやって景気を予測するのか?

最も悩ましいのは「中規模のショック」

景気をどうやって予測するのか、人それぞれですが、基本的な考え方は多くのエコノミストが共有していると思われます。そこで、筆者なりに景気予測の基本と考えていることを記してみました。個々人によって様々なバリエーションはあると思いますが。

景気は自分では方向を変えない

経済学の教科書には、「景気循環には在庫循環、設備投資循環、などがあります」と書いてありますが、それは在庫管理技術等が稚拙だった頃の話で、最近では景気が自分で方向を変えることは滅多にありません。「物が売れると企業が増産のために失業者を雇い、雇われた元失業者が給料をもらって物を買う」等々の好循環(物が売れないと悪循環)が生じるため、一度景気の方向が上(下)を向くと、そのまま上(下)がり続けて行くからです。

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景気は、政府日銀と外国からの影響によって方向を変えるのです。政府日銀は、不況期に景気対策を打ったり、景気過熱時にインフレ防止のための景気抑制策を採ったりします。外国からの影響は、たとえばリーマンショックで日本の景気が後退したり、外国の景気回復で日本の輸出が増えて日本の景気が回復したり、ということです。

今の景気の方向を見定めるのが第一歩

景気が自分で方向を変えないということは、今の景気の方向を見定めることが重要となります。「今の方向が上(下)を向いているから、政府日銀が何もせず、外国の景気に大きな変動がない限り、今後も上(下)を向いたままでしょう」と言うのが基本なのです。

ちなみに、政府は景気が底を打った時に「景気回復宣言」を出します。これは景気の方向が下向きから上向きに変わったことを宣言するもので、景気が「良い」ことを宣言するものではありません。景気の水準としては、景気が回復を始めた翌日は悪い方から2番目なのです。医者が「一命は取り留めました」という場合、患者が「元気である」という宣言でないのと同様です。

「政府は全くわかってない。景気は少しも良くないぞ!」と批判する人がいますが、政府も景気の水準が低いことは理解した上で、方向の話をしているので、ご理解いただければ幸いです。

政府日銀の政策を予測し、外国経済の担当者に聞く

景気の方向が判定できたら、政府日銀の政策を予想します。景気が順調に上を向いていてインフレの心配もなければ、政府日銀は何もしないでしょうが、インフレが心配なら引き締め政策を採るでしょうし、景気後退期には景気対策を採るでしょう。景気が回復を始めても、それに気づかずに景気対策を続ける場合もありますし、景気回復を確実なものとするために敢えて景気対策を続ける場合もあります。

日銀の金融引き締めは絶大な効果がありますが、金融緩和は効果が乏しい(既存の工場の稼働率が低い時には、金利が低くても新しい工場は建てない)、と筆者は考えているので、不況期の景気対策は公共投資等に注目します。もっとも、人により金融政策と財政政策の評価は大きく異なりますので、不況期でも金融政策に注目する人も少なくありません。

いずれにしても、財政金融政策が景気を回復させるに充分な効果を発揮しそうか否かを見極めることが重要だ、ということですね。

あとは、外国の経済を予測している担当者に、外国の経済の見通しを聞きます。その際、最重要なのは米国です。米国の景気が悪化すると、日本から中国への部品の輸出も減ります。中国が米国に輸出している物には日本製の部品が使われているからです。米国の景気が回復すると米国の金利が上昇してドル高になりやすい、ということも、日本の景気にとっては重要です。このあたりのことは、後日改めて。

中規模のショックが難問

景気が上向きの時に、リーマンショックが来れば、「景気は悪化します」と明確に予測できますから、日本経済にとっては災難でしょうが、エコノミストとしては気楽です(笑)。問題は、リーマンショックの10分の1くらいの小型ショックが来た場合です。

嵐の中で船が傾いて、今にも倒れそうだという状況をイメージしてください。「あと少しだけ波が高くなれば倒れてしまうが、今のままなら立ち直れるだろう」という時に「船が倒れるか否か予想しろ」と言われるのは辛いですよね。景気予測も、それと同様です。

時期的には、景気が回復を始めた頃が一番辛いです。政府が景気回復宣言を出そうか否かを迷っているあたりのタイミングです。景気指標は振れますから、良い指標と悪い指標が毎月混在していて、本当に景気が方向を変えたのか否かが読みにくいからです。

今ひとつ、景気が回復を始めたばかりの時は、景気の足取りが弱々しいので、小さなショック(非常に小さいリーマンショック)が来ても、景気が再び落ち込んでしまう可能性があることです。

景気が回復を続けて足取りがしっかりしてきてからは、多少のショックが来ても景気はそのまま回復を続けるでしょう。そういう時のエコノミストは楽です。もっとも、そういう時は景気の話を聞きたいという人が少ないので、原稿や講演の依頼が少なく、小遣いが稼ぎにくい、といった問題はありますが(笑)。

災害や市場の混乱などは予測不能

エコノミストを悩ませるのが、災害や市場の混乱(急激な円高など)による景気の急変です。工場が被災して生産ができない、という場合には、短期的なGDPは大きく低下しますが、生産が再開されてからGDPが大きく増えるのであれば、大きな流れとしての景気回復は続いていると判断できるでしょう。したがって、予測が外れたと落胆することはないのですが、批判はされますね(笑)。

急激な円高などの場合は、「投機家たちが火遊びをしているせいで、俺の予測が外れたではないか」と怒り心頭になるわけですが(笑)。

なお、本稿は、拙著『経済暴論』の内容の一部をご紹介したものです。

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本稿は、厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承下さい。

久留米大学商学部教授 塚崎 公義

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
増補改訂 よくわかる日本経済入門
なんだ、そうなのか! 経済入門
世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書
老後破産しないためのお金の教科書
経済暴論: 誰も言わなかった「社会とマネー」の奇怪な正体
(雑誌寄稿等)
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