映画『バブルへGO!!』はバブル期を疑似体験する教材

『バブルへGO!! タイムマシンはドラム式』という、10年ほど前に上映された映画があります。

バブル崩壊を阻止しようとする財務官僚(阿部寛さん)が、元恋人(薬師丸ひろ子さん)が発明した洗濯機型タイムマシンに元恋人の娘(広末涼子さん)を乗せ、バブル期の東京に送り込むというストーリーです。

40代半ばの筆者にとっては、「当時の六本木は確かにこんなところだった・・・」とか、「こんな人いたなあ」と感じるシーンも多く、ちょっとしたタイムトリップ感に浸れますが、20~30代の人にとっては、むしろ新鮮な印象を受けるかもしれません。

バブル崩壊後、日本は「失われた10年」、または「失われた20年」と言われるデフレ経済の時代を迎え、低成長期が続いています。景気後退期に入った1991年3月をバブル崩壊の始まりとすれば、もう四半世紀も前のことです。40歳台前半より若い世代は、デフレ経済のもとでしか社会人生活を経験していないということになります。

世の中がお祭り状態だったバブル景気の時代は、そうたやすくやってきそうにありません。そのため、バブル景気の時代がどんな状況だったかを知るのに、「バブルへGO!!」は役に立つ教材と言えます。

ついにバブル期超えした銀座の相続税路線価

日本では、バブル景気の時代など、生きているうちは二度とないだろうと大半の人が思っているでしょう。しかし、最近、新聞紙面などで「バブル期超え」というフレーズを見かけるようになりました。

今年7月、国税庁が2017年分の相続税路線価を公表しました。それによると、日本一の路線価となったのは、東京・銀座の鳩居堂前で、1㎡当たりの価格は前年比26%上昇の4,032万円でした。バブル期のピークである1992年の3,650万円を超え、過去最高となったことが話題となりました。

銀座では、訪日外国人客が増えているだけでなく、松坂屋跡地を再開発してオープンした「GINZA SIX」等の商業施設が相次いで開業しています。また、東京五輪を見据えたホテル建設等も続き、活況と言えるでしょう。銀座の路線価のバブル期超えは、こうした銀座の事情を反映したものと言えます。

ただ、現在のところ、路線価が上昇している地域は限られていて、上昇していたとしても銀座のような上げ幅にはなっていません。不動産価格に関しては、「バブル期超え」というのは、まだ、銀座だけの特殊な状況と言えそうです。

それでも、「失われた20年」を経て、不動産価格があのバブル期の水準を超えたということは、シンボリックなことではあります。

ほかにもバブル期超えしたものがある

路線価以外でもバブル期超えしてきたものがあります。

その1つは、景気拡大局面の継続期間です。6月に開催された内閣府の「景気動向指数研究会」は、2012年12月に始まった景気の拡大局面が、2017年4月まで53カ月続いて戦後3番目の長さになったと認定しました。51カ月続いたバブル期を超えたことになります。

有効求人倍率もまた、バブル期の水準を超えました。厚生労働省によると、今年4月の有効求人倍率(季節調整値)は1.48倍となり、バブル期の最高値の1.46倍(1990年7月)を超え、1974年2月以来、43年2カ月ぶりの高水準となりました。最新の6月は1.51倍であり、さらに上昇が続いています。

バブル期超えの一歩手前の水準にまで回復してきたものもあります。

たとえば、東京観光の足として有名な「はとバス」。2016年度の東京観光の利用者は934,306人(前年度比9.6%増)となり、バブル期の1989年度の944,872人にあと10,500人のところまで迫ってきました。

しかも、訪日外国人向けが同5.6%減となったにも関わらず、の結果です。中国人向けの人数が前年度比25%減となったことが響いた一方、国内需要の回復が減少分をカバーしました。「はとバス」では、バスタ新宿の開業のほか、一般公開が始まった赤坂離宮迎賓館や、世界文化遺産登録された西洋美術館等が話題になったためだと分析しています。

参考:「はとバス」のプレスリリース(2017.7.13)

バブル期超えの景気拡大局面が続き、バブル期以上に求人があり、好調な消費項目もあって、不動産価格も上昇傾向にある、となれば、非の打ちどころがない経済状況のように思えます。しかし、皆さんの感覚と合っているでしょうか。

もし合っていないとすれば、統計数値には表れてきたといっても、まだまだ実感がわかない局地的な現象に留まっているということかと思います。

バブル期超えとはほど遠いものも

逆に、バブル期超えとはまったく縁がなさそうなものもあります。

その筆頭はゴルフ会員権でしょう。関東ゴルフ会員権取引業協同組合に加盟するある業者のサイトによると、指定銘柄の平均値は、過去最高が1990年2月の4,388万円でしたが、2016年12月にはバブル崩壊後最安値の111万円をつけました。最高値の40分の1という水準です。

また、給与関係も、バブル期の水準にはなかなか戻らないと考えられます。国税庁の「民間給与実態統計調査結果」によると、1992年に初めて400万円台となった平均給与は、1998年の418万円でピークを打った後、長期下落トレンドに転じます。

直近わずかながら上昇したものの、2015年は361万円に留まっていて、バブル期超えは当面なさそうです。給与等の個人の収入に関するものは、まだまだ盛り上がりに欠ける状況と言えそうです。

経済が盛り上がるには個人レベルの実感が必要

景気は人の「気=心理」が大きく影響を与えるものなので、給与等の個人の収入が増えるトレンドに結びつかない限り、経済の盛り上がりはなかなか実感できないと考えられます。また、そうした実感が伴わない限り、盛り上がる分野があったとしても、局地的なものにとどまる可能性が高そうです。

藤野 敬太