【ミャンマー】ヤンゴン不動産の現場。投資以前の問題とは?

あふれる市場価値のない建物や流通しない建物

私は仕事柄、世界のいろんな国・都市の不動産を見て回っています。その視察対象には、不動産取引や評価の仕組みが日本より先進的な欧米諸国もあれば、逆に全てが未成熟で不動産業界を支える専門家がほとんどいないような、アジア、アフリカの途上国も含まれます。

なかでも最後発の国では「価値があって市場流通する実物不動産がまだ成り立っていない」状況さえあります。今回はその一例としてミャンマーを取り上げます。

ヤンゴンに多い「残念な物件」とは?

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ミャンマー最大の都市であるヤンゴンは、人口400万人を超える活気ある街です。敬虔な仏教国らしく、各所にそびえ立つ黄金の仏塔が夕陽に映える美しい光景が印象的ですが、特にその総本山であるシュエダゴン・パゴダは素晴らしい観光地です。

シュエダゴン・パゴダにて

ヤンゴンはまた、気候の厳しい街です。インド洋から吹きつける湿気を含んだ季節風が高い山脈にぶつかり、ヤンゴン周辺に大雨を降らせます。そのため、当地の年間降水量は隣国のタイ・バンコクの2倍。特に5月〜11月の雨季、ヤンゴンの暮らしはまさに「湿気との闘い」になります。

常に湿度は100%近く、かつ25℃以上の高温…建物には過酷な気象環境です。その上、ミャンマーはつい数年前まで経済制裁を受けていた国。極めて粗悪な材料しか入手できなかった時代につくられた建物は、外壁の防カビ加工もロクにされていません。

そのため、雨季のヤンゴンは無残にまで黒くカビと藻だらけになったコンクリの建物があふれ、街中カビ臭くなります。この時期に、築10年くらい経ったコンドミニアムを内見すると、饐えたカビ臭に包まれて気持ち悪くなるほどです。

黒カビに覆われたビルの外壁

”こんな状態になった建物の価値って一体何なんだろう? 他に選択肢がなければ仕方なく住むだろうけど、よりマシな施工をした新しい建物が増えれば、皆そっちに移り住むんだろうな...”という思いに駆られます。

ヤンゴンでも最近5年以内に、外資により建てられたまともな建物で、ちゃんとメンテしてあるものは外壁もそれなりにキレイです。あと10年もすれば、郊外の黒カビ建物は価値がなくなるような気がします。

キレイな外壁の建物も

不動産オーナーの「頭の中」は?

ヤンゴンの建物を残念な状態にしているのは、多湿な気候と粗悪な建材だけではありません。「オーナーの頭の中身」も重要なファクターです。

つい数年前まで鎖国状態だったミャンマー。ここ数年、外資も入る開放経済になったとはいえ、多くの人々の意識は「日本の幕末期」のようなもの。そんな状態の国に、21世紀のテクノロジーとグローバルマネーが一気に押し寄せて、ミャンマーの状況をより複雑にしています。

貧富の格差が激しい国のこと。ヤンゴン市内に広大な土地を持つ金持ちや軍属は、開放経済の波に乗ってビルやコンドミニアムを建て、高額で売り抜けてさらに富を蓄積しました。その彼らはいきなり数年で大金を手にしたので、その過程で「近隣事例との比較」や「マーケティング」など近代的概念に触れる機会はありませんでした。

”隣のオヤジが40階建てのビル建てて大儲けしたから、俺の土地には50階建てを建てる。隣より高い値段を付けても売れるはずだ”という思い込みだけで高層建物を建てる。そこに「需給バランス」「地域の賃貸相場」「テナントのターゲティング」といった概念は微塵もありません。

私が視察したなかで、非常に残念な建物がありました。市内の良い立地に建つ築2年のコンドミニアムですが、値付けが高すぎて誰にも貸せず売れず。建物がヤンゴンの高温多湿な気候のなかで放置されると、築2年とは思えないほど見事に風化します。築浅なのに室内に黒カビがこびりついていました。

築2年の物件にも黒カビが

余りに情けなくて、ギャグとしか思えない状況。オーナーはそれでも値段を下げようとしません。その理由は「近くのさくらタワー(日系が建てたヤンゴンを代表するサービスアパート)より安い値段で貸したくない」からです。

「こんな建物状態じゃあ、半値にしても誰も借りないよ」と言っても聞く耳を持ちません。このオーナーはお金持ちで生活に全く困らないので、急いで現金化する必要もないのです。

かくして今のヤンゴンには、市場価値のない建物や、流通しない建物があふれています。この国の不動産市場がまともになるには、海外に留学した若い世代が主役になる次の時代まで待たねばならないかもしれません。

鈴木 学

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鈴木 学
  • 鈴木 学
  • アジア太平洋大家の会
  • 会長

大学卒業後、ITエンジニアとして世界で活躍し、現在は不動産専業。
日本、オーストラリア、タイ、アメリカ、イギリス、ドイツの6カ国で不動産を所有・運用中。2011年に海外不動産に特化した投資家コミュニティ「アジア太平洋大家の会」を立ち上げ、現在は2,300名の会員を擁する大所帯に成長。
業界紙コラムの執筆や海外不動産セミナー講師の依頼も多い。