皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで調査グループ長を務めます柏原延行です。

2017年8月15日付の記事『金融政策正常化:インドやブラジルなど新興国への影響は?』でご紹介したように、国際通貨基金(IMF)予測(2017年7月)によると、2017年の成長率は1年前予測と比較して、米国が下方、日本、欧州が上方修正されました。

2016年11月にトランプ氏が大統領選に勝利した時期においては、トランプ氏の掲げる米国優先主義(保護主義的色彩が強い)により、 (当面の期間では) 「財政政策や税制改革により、米国は経済成長を維持できる」が、「自由貿易の阻害により世界の貿易量が減少し、その他の国は成長が鈍化する」との見方、 いわゆる米国一人勝ちシナリオが有力であったと思われます。

しかしながら、IMFの成長率予測の変化を見る限り、米国が下方、日本、欧州が上昇修正されているのですから、米国一人勝ちシナリオはこれまでのところ否定されているようです。そして、現在のトランプ政権の混乱を示唆するニュースを考えるに、今後についても「大規模な財政政策や税制改革」が実施される可能性は低下したと考えることが自然なように思われます。

それでは、株価の観点から見た場合はどうでしょうか?

メディアでは、米国株式の高値更新のニュースがさかんに報道され、株価の面では米国一人勝ちシナリオが現実化しているような印象があり、かつトランプ大統領も株価が高いことをしばしばツイートしています(例:「Stock Market could hit all-time high (again) 22,000 today. Was 18,000 only 6 months ago on Election Day. Mainstream media seldom mentions!」 [株価は、本日高値である22,000ドルに再び達した。6カ月前の選挙日においては、たった18,000ドルに過ぎなかったのに。主流のメディアはめったに報道しないが:筆者による仮訳、8月1日付のツイート] )。

事実、過去1年における「米国の株価動向を示すNYダウ工業株30種平均」と「先進国の株価動向を示すMSCIワールド指数」を比較した場合、米国と先進国の騰落率はそれぞれ2割弱と1割強であり、米国の騰落率が先進国のそれを上回っています(図表1:なお、MSCIワールド指数には米国株が含まれます)。

図表1:NYダウ工業株30種平均とMSCIワールド指数の推移
2016年8月23日~2017年8月23日:日次

出所:ブルームバーグのデータを基にアセットマネジメントOneが作成。
※2016年8月23日の値を100として指数化

このように、株価の面では米国一人勝ちシナリオが成立しているようにも見えます。

しかしながら、 「NYダウ工業株30種平均」と「新興国の株価動向を示すMSCIエマージングマーケット指数」を比較すると、過去1年間の騰落率はほぼ同じです。加えて、ここ半年程度の新興国の株価上昇ペースが大きいことは、経済・投資環境が大きく変化していることを示唆していると私は考えています(図表2)。

図表2:NYダウ工業株30種平均とMSCIエマージングマーケット指数の推移
2016年8月23日~2017年8月23日:日次

 

出所:ブルームバーグのデータを基にアセットマネジメントOneが作成。
※2016年8月23日の値を100として指数化

2017年8月7日付の『豪ドル高をサポートするもう一つの理由とは? 商品市況を読み解く』でもご紹介した通り、資源価格が底堅さを増していることも新興国の好調に繋がっているのですが、世界経済全体の安定成長も新興国株価好調の原因であると私は考えています。

米国一本足の株式ポートフォリオがあれば、地域的な分散を考慮する時期ではないかと考えております。

(2017年8月25日 9:00執筆)

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柏原 延行