なぜイエレン議長は金融政策について何も言わなかったのか?

金融の安定は厳格な規制と表裏一体

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イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長が金融政策をめぐる発言を控えたことから、今年のジャクソンホールは“肩透かし”となりました。ただ、市場関係者の期待には添えなかったかもしれませんが、講演にはこっそりとメッセージが秘められていた模様です。

今回は、無風となったジャクソンホールを振り返り、ちょっと大胆にイエレン議長からのメッセージをくみ取ってみたいと思います。

イエレン議長の無言のメッセージは”政治リスクに備えよ!?”

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ジャクソンホールでのシンポジウムは経済問題や金融理論を議論する場であり、本来は市場関係者に向けてメッセージを発する場ではありませんでした。

ただ、2010年にバーナンキFRB議長(当時)が量的緩和の第2弾を示唆し、2014年にはドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁が本格的な量的緩和の導入を宣言するなどしたことから、いつのまにか“口開(こうかい)”市場操作をする場となり、最近では市場関係者が最も注目するイベントとなっています。

こうした経緯から、今回の会合でもバランスシート(BS)の縮小開始や次回の利上げに関してイエレン議長からのヒントを期待する声もありましたが、何の発言もなかったことから、期待は空振りに終わりました。

ただ、ウォール街の市場関係者からは、イエレン議長は金融政策の話題を“わざと”避けたとの見方が出ています。

マーケットでは米政府機関の閉鎖や債務上限引き上げに絡んだデフォルトへの警戒感が強まっていますが、この状況が2013年と酷似しているからです。

2013年9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では量的緩和の縮小、いわゆるテーパリングの開始が既定路線として見込まれていました。しかし、政府閉鎖やデフォルトへの懸念から開始が見送られ、市場には大きなサプライズとなりました。

デフォルトこそ回避されたものの、10月から2週間ほど政府機関が閉鎖されたことから、事後的な見方にはなりますが、テーパリングの先送りには先見の明があったといえます。

イエレン議長は何も語っていませんが、その“沈黙”は米議会の状況次第でBSの縮小開始は先送りされるとのメッセージであることを匂わせています。

最後のメッセージ?

イエレン議長は今回のシンポジウムで“金融の安定”をテーマに講演しています。

2008年の金融危機を受けて、その再発を防止するために金融規制が強化されたことで金融の「安全性は著しく高まった」と指摘。その上で、「一部の人々からは記憶が消失しつつあるのかもしれない。つまり金融危機がいかに多大な犠牲をもたらし、なぜいくつかの対策が講じられなければならなかったのかという記憶だ」と述べ、トランプ大統領が推進する金融規制の緩和にクギを刺しています。

要するに、金融が安定しているのは厳格な規制があってこそであり、規制を緩めることで金融の安定が脅かされる可能性があると警告しているわけです。

ところで、イエレン議長は来年2月で任期が切れます。トランプ大統領はイエレン議長の再任をほのめかしていますが、コーン国家経済会議(NEC)委員長の横滑りが有力視されており、微妙な立場にあります。

したがって、トランプ政権と立場を異にすることは、自らの再任の可能性を低めることになりかねません。今回の講演は金融監督の最高責任者であるFRB議長としての最後のメッセージとも受け取られています。

ジャクソンホールも“正常化”?

イエレン議長と同様に、ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁も今回の会合では金融政策への言及を避けています。同総裁の講演では、保護貿易主義は世界経済の成長を阻害すると述べ、反グローバリズムへの警鐘を鳴らしています。

イエレン議長、ドラギ総裁ともに最近の経済問題や金融規制をめぐる議論を展開しています。議論そのものに目新しさはありませんが、市場との対話に利用しなかった点は新鮮だったといえるでしょう。

欧米の中央銀行は、金融危機への対応から非伝統的な金融政策を余儀なくされてきましたが、ようやく金融政策の正常化に向けて始動しています。

ジャクソンホールも本来の姿へと正常化しているのかもしれません。

投信1編集部

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