ドル/円や株価:過去はどうだった? 北朝鮮のミサイルが日本上空を飛び越えた日

身近な地政学リスクに備える時代の資産運用

Jアラートが広範囲に鳴り響いた8月29日の早朝

2017年8月29日(火)の朝早く、北朝鮮が日本の上空を飛び越える形でミサイルを発射させました。防災無線やスマホから鳴るJアラートのあの異様な音で起こされたという人も多かったのではないでしょうか。

2017年になって北朝鮮のミサイル発射の回数が増えていましたが、多くは日本海(の日本の領海でないところ)に落ちるものでした。今回は広い地域でJアラートが鳴り、鉄道などの交通機関の運行にも影響が出たことで大騒ぎになったように思います。

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北朝鮮のミサイルが日本上空を飛び越えるのは5回目

北朝鮮からミサイルが日本の上空を飛び越える形で発射されたのは、今回を含めると、これまで5回ありました。

北朝鮮からのミサイルが日本上空を飛び越えた事例

(注)種類のうち、上段は米国がつけた名称、下段は北朝鮮がつけた名称
出所:ウィキペディアの記載より筆者作成

過去と比較すると、今回は北朝鮮からの事前通告がなかったこと、本州を中心に広範囲でJアラートが鳴ったことが特徴的であり、緊張感を高めたのだと思います。

ミサイル発射によって円高に振れた?

今回、ミサイルの発射とともに、為替は円高に振れたと報道されました。確かに、一時は、今年4月以来となる1ドル108円台前半という円高水準となりました。「リスク回避に伴う円買い」と言われていますが、ミサイルが上空を飛ぶ国の通貨でリスク回避、というのも何だか変な感じです。

個人的には、今後ドル高(円安)になることを想定したポジションを持っていた投資家が、そのポジションを元に戻すべく、いったん手仕舞ったことで、一時的に円高に振れたのではないかと推察しています。

そこで、過去のケースと比較してみました。

北朝鮮からのミサイルが日本上空を飛び越えた時のドル円レートの動き

出所:Yahoo!ファイナンスより筆者作成

過去5回中2回は、マーケットが開いていない日曜日に発射されたため、翌月曜日の為替レートを使用しています。

過去5回の発射のうち3回は、前営業日の終値に対し、いったんはマイナス(円高)に振れるものの、終値では前営業日よりプラス(円安)の水準となりました。

一方、1998年8月と2016年2月のケースでは円高のまま終わっていました。この2回については、発射日の週の終値が大きく円高に振れています。

1998年8月の時はロシアの通貨危機(後にヘッジファンドのLTCMが破綻)が、2016年2月の時は10~12日に中国の株式市場でサーキットブレーカーが発動される暴落が、それぞれありました。北朝鮮のミサイルどころではない、世界経済のうねりが、為替を円高に動かしていたものと考えられます。

このように見ていくと、北朝鮮から日本上空を超えるようなミサイルが発射されたとしても、ごく短期的に円高に振れることはあっても、すぐに織り込まれてしまうと言えそうです。FXで超短期の取引をしていない限り、北朝鮮のミサイル発射の直後に慌てて投資のポジションを変えることは、控えた方が良さそうです。

ミサイルが日本上空を飛び越えた日の株価が下がったのは今回が最初

同様に、日経平均株価についても、その動向を見てみました。

北朝鮮からのミサイルが日本上空を飛び越えた時の日経平均株価の動き

出所:Yahoo!ファイナンスより筆者作成

こちらもドル/円レートと似たような傾向にあり、過去5回のうち4回とも、前営業日の終値に対していったんはマイナスに振れるものの、終値では前営業日より株価は上昇しています。むしろ、今回は初めて前営業日より下げて終わっており、これが過去と何かの違いを暗示しているのかどうかが多少気になるところです。

それでも、8月31日の日経平均の終値が19646.24円と、発射日の前営業日(8月28日)終値より+1.0%高い水準にありますので、このままいけば、2016年2月以外の過去のパターンに近い推移となりそうです。

なお、2016年2月は、その週末にかけて10%を超えて大きく下落しました。これは、上述した通り、10~12日に中国の株式市場の暴落の影響であり、北朝鮮のミサイル発射は直接影響していないと考えられます。

北朝鮮のミサイル発射には冷静に恐れつつもどっしり構えるのが良さそう

今後の北朝鮮情勢は読みづらいものがあります。米国と北朝鮮の間でチキンレースのような駆け引きが続く可能性が高そうです。

Jアラートが鳴るようなミサイル発射も何度かあるかもしれませんし、近いうちに核実験をやるのではないかとも言われています(北朝鮮は過去5回核実験を行っています)。また、どこかのタイミングで偶発的に軍事衝突が起きる可能性もゼロではありません。

これまで、過去5回の北朝鮮のミサイル発射で直接的な被害は出ていません。仮にミサイルが飛んできても、領土領海内に着弾するとか、人的・物的な被害が出るといったことがない限り、これまで通り為替レートや株価への影響は限定的と考えられます。

逆に言うと、陸地への着弾、人的・物的な被害の発生という事態になった場合は、一気に前提が変わる可能性があります。この時ばかりは注意が必要になってきます。

「いつか必ず日本にミサイルが直撃する」というように、どうしても心配でたまらない場合は、平時のうちにあらかじめ投資のポジションを見直して整理しておくと良いでしょう。

少なくとも、Jアラートが鳴った直後に何かしらの投資行動を行うことは避けた方が良さそうです。慌てて行う投資行動でうまくいくことは少ないからで、冷静に恐れつつもどっしり構えるのが、うまくいく長期投資家の姿勢です。

藤野 敬太

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藤野 敬太

東京大学経済学部を卒業後、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(現日本アイ・ビー・エム)等を経て、2001年から2013年まで、日興アセットマネジメントにて、アナリストおよびファンドマネージャーとして日本株ファンドの運用に従事。
現在は、オフィス・ラコルドの代表として、ファミリー向け・ファミリービジネス向けのコンサルティングおよびアドバイザー業務を展開する。
CFP(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、シニア・プライベートバンカー(日本証券アナリスト協会認定)。日本ファミリービジネスアドバイザー協会執行役員・フェロー