意外に堅調な国内カーナビ市場

1981年に本田技研工業(7267)がジャイロ式カーナビを世界で初めて発売してから36年、また1990年にパイオニア(6773)がGPS式カーナビを日本で最初に発売してから27年が経ち、いまやカーナビなしのクルマのほうがめずらしくなっています。

一方で、最近ではスマホで簡単に地図情報を手に入れることがあたりまえなので、ガラケーやデジカメのように市場が大幅に縮小しているのではないかと思われる方も多いかと思います。

ところが、国内市場は意外に堅調です。

JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)による2012年からの国内出荷台数の推移(暦年ベース、1~12月)を追ってみると以下のようになっています。

2011年 487万台(前年比▲7%減)
2012年 559万台(同+15%増)
2013年 547万台(同▲2%減)
2014年 545万台(横ばい)
2015年 527万台(同▲3%減)
2016年 557万台(同+6%増)
2017年(1~7月)346万台(同+9%増)

2011年は東日本大震災の影響で自動車販売が大きく落ち込んだことや、基幹部品を提供するルネサスエレクトロニクス(6723)が被災した影響でマイナス成長となっていますが、翌年の2012年は大きく回復しています。また、消費増税があった2014年の翌年の2015年も比較的軽微な落ち込みに留まっています。

直近の2017年2017年7月は47万台(前年同月比▲3%減)とマイナス成長ですが、6月までは15カ月連続でプラス成長が続いていました。

この間にスマホが急速に普及していたことや、国内の自動車販売が全般に振るわなかったことを考慮すると、500万台を超える販売台数をキープしてきたことは、繰り返しになりますが、予想外に堅調だと言えるのではないでしょうか。

なぜ堅調なのか

では、なぜカーナビは、これまでのところガラケーやデジカメと同じ運命を辿っていないのでしょうか。

その一因として考えられるのは、カーナビ市場には独特の販売ルートミックスがあることです。具体的には「ライン装着・純正」「ディーラーオプション」「市販」の3つです。現在の国内市場ではこの3つはほぼ拮抗した状態にあります。

冒頭で述べたホンダの「アコード」に搭載された世界初のカーナビは、いわゆる純正ナビとして発売されています。また、それから9年後にパイオニアによって発売された製品は、オートバックスなどのカー用品店で装着される市販品として発売されています。

それぞれのメリット、デメリットを整理すると以下のようになります。

ライン装着・純正やその派生であるディーラーオプションのカーナビは、クルマの内装との統一感のほか、画面で空調の操作を行える、ハンドルでリモコン操作ができるなど機能面でもクルマとの一体感を持たせることができます。ただし、ユーザーの選択肢が限定されてしまうというデメリットもあります。

一方の市販品は、そこまでは一体感が得られにくいというデメリットはあるものの、自分の好みで画面サイズや最新の機能を取り入れることができるなど、幅広い選択肢をユーザーに提供できるというメリットがあります。

このように、この3つにはそれぞれ一長一短ありますが、こうした市場環境のなかで自動車メーカー、カーナビ専業メーカーが、それぞれ切磋琢磨し開発競争を繰り広げてきたことが、現在のカーナビの使いやすさにつながり、多様なユーザーのニーズを掴んでいる理由だと思われます。

また、そのことが、まだ日本ではカーナビがスマホに代替されていないことの一因なのかもしれません。

これからも堅調に推移するのか?

そうしたなかで気になる動きは、スマホ陣営による「使いやすさ」に関する新たな取り組みです。具体的には、アップルの「CarPlay」やグーグルの「Android Auto」といった海外では既に普及が進んでいるアプリが、日本でも昨年あたりから登場してきたことです。

これらのアプリは、「ディスプレイオーディオ」と呼ばれるAVナビのナビ機能を取り除いたカーAV製品につなげられ、スマホの機能をクルマで使えるようにしたものです。

もちろん、安全上の観点からユーチューブなどの動画アプリは使えませんが、地図情報だけではなく、メールや電話、音楽のストリーミングサービスなどへのアクセスにも使うことができます。また、ディスプレイオーディオにタッチパネル機能があればスマホと同様に操作することができ、音声認識アプリにも対応しているため、音声で操作することも可能です。

同乗者に知られたくない人から突然メールがきて読み上げられたらどうするのか...など少し不安な面もありますが、スマホに比べると大画面で操作もしやすいこと、ナビ機能がない分だけ安価であることなどから、今後、ディスプレイオーディオの対応車種が増えてくれば、普及に弾みがつく可能性が考えられます。

一方で、こうした動きは、長年にわたり日本人の嗜好に合わせてカーナビを作り続けてきたパイオニアやパナソニック(6752)、JVCケンウッド(6632)、アルパイン(6816)などのカーナビ各社にとってはいずれ脅威になると考えられます。

というのは、ディスプレイオーディオの需要は取り込むことができるものの、これまで築いてきたカーナビ関連の技術リソースを十分に活用できなくなるおそれがあるためです。

このため、カーナビ専業メーカーは、自動車メーカーや電装メーカーとの連携をより強め、カーナビ技術を自動運転技術と融合させる取り組みに一段と注力することを迫られると思われます。そうした観点で、今後の各社の取り組みを注視していきたいと思います。

LIMO編集部