海外出張者の憂鬱:日本の中小企業社員は我慢強すぎる?

今も残る”海外出張は遊び半分”という先入観

日本の中小企業の国際化(あるいはグローバル化)という言葉が定着して久しいですが、日本からアジアにいらっしゃる出張者と話していて、20年前頃からあまり改善していないなと感じる点があります。それは、海外出張者に対する処遇です。

昔と比べ、日本企業の海外駐在員に対する処遇は少しずつ改善してきているように思いますが、海外出張者の場合は相変わらずのようです。

そこで今回は、日本の中小企業における海外出張者の処遇についてお話します。比較的優遇されている日本の公務員や大企業に勤める社員のことではなく、日本の大多数の「中小企業」をイメージしてください。

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具体的には、中小企業55.7万社/2,234万人(注)のうち、海外事業を行っている企業の社員です(2017年度版中小企業白書の統計データによる)。

注:社数、人数はそれぞれ中小企業から小規模事業者を除いたもの。

日当・宿泊費の水準は?

2015年6月に実施された産労総合研究所の『2015年度 国内・海外出張旅費に関する調査』というものがあります。調査対象企業の174社は、従業員数1,000人以上が54社、300〜999人が49社、299人以下が71社となっています。

その結果を見ると、海外出張の日当(平均支給額)は、北米で部長クラス5,827円・一般社員4,988円,中国で部長クラス5,277円・一般社員4,514円,東南アジアで部長クラス5,326円・一般社員4,567円などでした。

また、海外出張の宿泊料(平均支給額)は、北米で部長クラス16,008円・一般社員14,042円,中国で部長クラス13,763円・一般社員12,070円,東南アジアで部長クラス14,501円・一般社員12,735円などでした。

こんなものだろうと感じられるでしょうか。あるいは、自分はそんなにもらっていないと思われるかもしれません。ただ、日本の多くの中小企業では、海外旅費規定が整備されていなかったり、上記の調査結果の平均水準には及ばないのが実情ではないでしょうか。

当たり前のようにある体育会系合宿型の長期海外出張

一部の優良大企業の社員や公務員(参考:「国家公務員等の旅費に関する法律」)には想像できないかもしれませんが、日本の普通の中小企業では、雇用ビザなしで現地滞在できる期間内の長期海外出張者は、駐在員と一緒に、会社が借りた安い一軒家やアパートで共同生活するようなスタイルで海外出張することが少なくありません。

そういうスタイルが良いか悪いか、好きか嫌いかは人それぞれですが、海外出張者にとってはプライバシーがないので、一部、若手社員などには会社に対する不満が募っているようです。最近、若い日本人出張者から世間話として、そうした不満の声を聞くことはよくあります。

そういう体育会系スタイルしか知らなければ、海外出張とはそんなものかと納得するかもしれませんが、客観的には日本の一部大企業の社員や公務員と比べ、また、欧米企業の社員と比べ、条件はあきらかに悪いと言えるでしょう。

かつてインド人は、劣悪な労働・住居環境でも文句を言わずに世界のどこでも出張・滞在してくれると言われました。今でもグローバル経営者の間でインド人中間管理職の評判は高いようですが、ひょっとすると日本の中小企業に勤める日本人社員はインド人並みにタフなのかもしれません。

つまり、我慢強いという意味です。本社内の空気を読んでしまうのか、誰も社長や総務部長に文句一つ言わないようなのです。

写真左:外資高級クラスのヒルトン ネピドー、右:ローカル中級クラスのロイヤルネピドーホテル(ミャンマー)

いまだに日本本社内にある海外出張への先入観

一方で、まだ日本では海外出張に対する誤った先入観があるようです。日本でのサラリーマン時代、私も経験がありましたが、本社で同僚に「海外出張に行ってきます」と言うと、よく「良いですね〜」と悪気なく言われました。私は海外業務を担当していたのに、漠然とした空気(偏見)によってか、海外出張の日程が長過ぎると上司に言われたこともありました。

そうした(悪意のない)先入観を持っているのは、海外出張したことがない人、または、楽な海外出張しか経験したことがない人です。特に、いわゆる「海外ビジネス視察会ツアー」で、高級ホテルに泊まっておいしい現地料理を食べる快適な出張経験だけを持つ人は厄介です。

私の経験上、中小企業の社長自身が海外事業を苦労して立ち上げた経験を持つ場合は、海外出張者をサポートする雰囲気があります。一方、これだけ海外出張が当たり前になっているのに、いまだに日本では「海外出張」は「慰安」を含むという誤解や偏見が残っているように感じます。

海外出張者の待遇改善に向けて

日本の中小企業では海外事業には関わりたくないという技術者が主流であり、多くの海外出張者は好きで海外出張しているわけでもないのに、本社社員に変な誤解をされながら劣悪な環境で頑張っているのです。

海外出張で冷遇され憂鬱に感じている方は、そろそろ会社に改善を求め、社内でオープンに議論しても良いのではないでしょうか。

日本本社の大多数の方々はハードな海外出張など想像できないのです。海外事業を行っている日本企業では海外出張できる社員(特に技術者)を必要としていますから、自分に自信を持って声をあげてください。そうでないと、一生、状況は改善しないでしょう。

草の根運動としては、仕事で海外出張しているのに、忙しい中、わざわざ日本本社の同僚や上司らに変に気を使ってお土産を買うのをやめてはどうでしょうか。そうした気配りが裏目に出て、楽しそうな海外出張(=慰安旅行)というイメージを助長している面があるようにも感じられるのです。

一方、日本の中小企業の経営者の立場からすると、事業環境の先行き不透明性や業績悪化等もあり、海外出張者の処遇などを考えている余裕はないのかもしれません。

しかし、我慢強い社員に甘えられているうちは良いですが、若手・中堅社員で海外工場の生産管理・労務管理が一通りできるようになると、日本人としては貴重な海外要員になり、比較的簡単に転職できるようになるかと思います。経営者としては、そうならないうちにしっかりケアしておくのが得策かもしれません。

大場 由幸

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大場 由幸

新潟大学法学部卒業、フィンランドAalto大学(元Helsinki School of Economics)Executive MBA取得。
専門は新興国における中小企業金融、中堅・中小企業のアジア戦略・財務。
中小企業金融公庫(神戸支店、宇都宮支店、本店国際デスク)、在ベトナム日本国大使館 専門調査員、UFJ総合研究所 国際本部チーフコンサルタント、東京中小企業投資育成 アジアデスク統括マネジャー、クロスボーダー・ジャパン(株)代表取締役社長を経て、2012年12月、マレーシア(ジョホールバル市)へ。現在、新興アジア諸国にて地場中堅・中小企業/起業家向け金融支援プロジェクト、戦略コンサルティング等に従事。