鳥貴族(3193)がこれまで頑なに守っていた全品280円(税抜)を、10月1日から298円(同)にすると発表しました。何と28年ぶりの値上げとなります。28年間も値段を据え置いてきた鳥貴族に敬意を表しつつ、今回の値上げの背景等を、鳥貴族で独り飲みながら考えてみました。

好調を続けてきた鳥貴族の業績

まずは鳥貴族の最近の決算を確認してみましょう。

  • 2014年7月期 売上高146億1,600万円、経常利益8億3,100万円
  • 2015年7月期 売上高186億5,900万円、経常利益10億8,200万円
  • 2016年7月期 売上高245億900万円、経常利益15億4,700万円
  • 2017年7月期(予想) 売上高291億200万円、経常利益12億9,400万円

2014年のIPO(新規上場)以降、業績は順調に拡大し、2014年7月期から2016年7月期までに売上高・経常利益とも2倍弱に成長しています。ただし当期(2017年7月期)は増収減益と、IPO後初の減益決算が予想されています。

減益予想の背景は販管費の増加

2017年7月期は減益予想の鳥貴族ですが、その背景にあるのは販管費の増加です。既に数字の出ている第3四半期の数字を前期と比較してみます。

  • 2016年7月期・第3四半期:売上高175億4,700万円、販管費109億6,300万円、経常利益10億2,700万円
  • 2017年7月期・第3四半期:売上高213億6,700万円、販管費135億800万円、経常利益9億6,600万円

このように、既に第3四半期の時点で増収減益になっていますが、注目したいのは売上高および販管費の伸び率です。売上高は+21.7%に対し、販管費の伸びは+23.2%と、売上高以上に販管費が伸びた結果、2017年7月期は増収減益が予想されていると推測されます。

粗利に対する販管費率の推移

もう少し掘り下げて、粗利に対する販管費率という、より利益に重点を置いて同社の販管費率の推移を計算してみると下記のようになります。

  • 2013年7月期95.4%→2014年7月期92.9%→2015年7月期91.2%→2016年7月期90.5%
  • 2016年7月期第3四半期91.1%→2017年7月期第3四半期93.2%

数字の推移を見ると、IPO後に鳥貴族が粗利率を維持しながら(粗利率は67~68%で推移)販管費をコントロールすることで増益に成功していたことがうかがえます。

つまり、IPO後の鳥貴族の勝利の方程式は、出店増による売上拡大の中で粗利率を維持し、販管費をコントロールすることにあったと考えることができます。しかし当期に入り、粗利に対する販管費率が上昇しており、これまでのようには販管費コントロールが効いていないようにも見えます。

人件費の高騰が鳥貴族の値上げの背景だと耳にすることも多いのですが、販管費の大半を店舗アルバイト等の人件費が占めている中、上記のように数字を分解すると、確かにうなずける面があると思わざるを得ません。

鳥貴族で独り飲みしながら考えた経営陣の危機感

さて、今回は“イザ実地調査”とばかりに、初の鳥貴族独り飲みを敢行してみました。

金曜日の晩、20時過ぎと若干ピークを外して大阪市内の鳥貴族に行ったのですが・・・、何と最初の3店は満員。2店目に入れず、3店目に行ったら2店目を同じく断念したグループとエレベーターで鉢合わせして微妙な空気になった、というオマケ付きです。

3店目は21時近かったのですが、鳥貴族ってこんなに人気店だったのかと驚くほどの盛況です。最終的には繁華街から若干離れた店に21時過ぎに到着し、ようやく入店することができました。

ただ、上記の数字を踏まえると、経営陣の危機感も想像できます。たとえば、売上が落ちれば販管費が増加した現在の鳥貴族はアッと言う間に赤字になる可能性があります。外食店も人気商売なので、いずれブームは去るかもしれません。また、景気が悪くなれば売上が落ちることもあるでしょう。

鳥貴族の会社設立自体は1986年。バブル崩壊・金融不況・リーマンショックと景気の大きな谷を経験しているなど、近年IPOした外食系企業としては異例の歴史を有しています。

そうした経験から、IPO後の勝利の方程式に微妙に変化が生じ始めている中、既存店は現状の売上がピークであろうことも考え、売上増が見込める28年ぶりの値上げに打って出たのではないかと、鳥貴族で焼き鳥とビールを楽しみながら考えるに至ったのでした。

値上げ後の鳥貴族はどのように変わっていくのか、今後も時々実地調査しながら追いかけたいと思います。

石井 僚一