食品ロスを減らす画期的素材を日本の化学企業が独占する理由

「もったいない」の国の技術とは?

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賞味期限を過ぎた食品のロス(廃棄)は世界で年間13億トンに上り、日本でも同621万トン(2014年度)と言われています。

こうした食品ロスは賞味期限が延長できれば減らせるはずです。ここで決め手になるのが酸素を通さない食品フィルムの普及ですが、この素材を製造しているのは世界でも日本の化学会社2社だけと言われています。今回は、その有望性について見ていきたいと思います。

賞味期限の延長宣言

7月19日付の日本経済新聞電子版によると、まだ食べられるものの賞味期限が過ぎているために捨てられる食品ロスは世界で年間13億トン、日本でも同621万トン(2014年度)に達しているそうです。これらは廃棄処分、あるいは家畜の飼料として処分されるとのことですが、資源の有効活用という観点から解決すべき課題となっています。

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上記の記事では、賞味期限延長の動きとしてキューピーのマヨネーズが取り上げられていました。同社は2016年1月にマヨネーズの一部容量の商品の賞味期限を従来の10カ月から12カ月に延長すると発表しています(ちなみに、同社がプラスチックのボトルタイプのマヨネーズを発売したのは1958年のことです)。

この賞味期限延長を可能としたのは、保存期間中における酸化をどう防ぐかという酸素との戦いの結果だと言います。ガラス瓶に保存すれば酸素との接触は少なく品質が保たれますが、プラスチックのボトル(主にポリエチレン、ポリプロピレン)は酸素を透過してしまうので、品質保持期間が限られていました。

なぜ賞味期限延長が可能になるのか

キューピーが2016年6月に発売したアマニ油マヨネーズでも、こうした酸素との戦いがありました。アマニ油は血圧が高めの人に適した機能があるα-リノレン酸を多く含みますが、酸化しやすいのが製品化の壁になっていました。これを、酸素吸収ボトルの採用などでクリアしたというわけです。

この酸素吸収ボトルは、ポリエチレン樹脂のフィルムの間に、酸素を通さないEVOH樹脂(エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂)フィルムと酸素を吸収する特殊な層を挟み込んだ構造となっています。

EVOH樹脂フィルムは、酸素の透過を断つ機能を有するユニークな酸素バリアフィルムで、たとえばカツオブシの小袋、樹脂パック入りのワイン、マヨネーズ、ケチャップ類など、酸素との接触を遮断することで鮮度を保つ加工食品に世界中で使用されています。

こうした賞味期限の延長を助ける素材は、災害時にもその実力を発揮しそうです。東日本大震災など、これまでの災害時における救援物質の非常食は缶詰が多かったですが、3年近く保存できるプラスチック入りの保存食を電子レンジで温めて食べることができるようになりました。これも酸素バリアフィルムのおかげだと言えるでしょう。

酸素バリアフィルムの本格的な市場拡大はこれから

日本では、2020年代前半までは世帯数が増加すると予想されています。その中身は夫婦2人世帯、単身世帯、母子世帯など多様になり、また女性の社会進出がさらに広がることで、チルド食品など「中食」市場の拡大が予想されています。

こうしたなか、冷凍・冷蔵といった手段だけではなく、酸素との接触を遮断することで品質や鮮度を延長できるフィルム技術は、電子レンジアップ食品の市場拡大とともに注目されそうです。

世界に目を向けると、欧米では既にEVOH樹脂フィルムなどの酸素バリアフィルムを使った食品類が一般化しています。特に冷蔵庫と電子レンジの普及により、冷蔵庫の中に数多くのチルド食品が詰まっているのが欧米の実態でしょう。

新興国もこれからこの市場が拡大すると思われます。中国、インドに加え、インドネシアなどの東南アジア諸国でも電気冷蔵庫の普及が進むと、欧米同様、冷蔵庫の中には保存期間の長いチルド食品が多くなることでしょう。今後の市場拡大が期待されます。

酸素バリアフィルムの材料は日本2社による寡占

この酸素バリアフィルムの材料として世界的に最も信頼を置かれているのがEVOH樹脂(エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂)ですが、実は日本のクラレ(3405)と三菱ケミカルHD(4188)の2社が世界の市場を独占しています。両社のシェアは業界推計でクラレ65%、三菱ケミカルHD35%とされています。

ではなぜ、日本の2社による寡占状態となっているのでしょうか。それは、「重合」という技術の難しさと、プラント規模の割に設備投資額が大きいことが参入障壁を形成しているからと思われます。

世界シェアの高いクラレのEVOH樹脂の商品名はエバール樹脂といい、同社の製品セグメントではビニルアセテート事業に分類されています。工場は国内(岡山)、米国、欧州の3地域で、総能力は年産9.2万トン。2018年央には米国で同1.1万トンの増設が完了し、旺盛な需要に対応する予定です。

応用分野としては、食品向けが65%で最も多くなっています。それに次ぐのが自動車のプラスチックタンクの内側に挟み込まれるという用途で、ガソリンの蒸発防止に一役買っているのがユニークです。利益率も高く、今後とも同社業績の牽引力として注目されるでしょう。

石原 耕一

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石原 耕一

早稲田大学法学部卒。ペンシルバニア大学ウォートン校AMP修了。
大学卒業後、和光証券(現 みずほ証券)に入社。その後、リーマンブラザーズ証券、UBS証券、みずほ証券等でアナリストとして40年以上株式市場で調査活動に従事。特に化学セクターでは20年以上の調査経験を持つ。