ここから、本題であるトヨタの車載用PVの開発動向を見てみよう。トヨタのエコカー開発の歴史は古く、ガソリンハイブリッドの初代プリウスが誕生したのは20年前の1997年である。05年からハイブリッド車へのPV搭載の検討を開始し、09年5月に発売したプリウスにオプションとして、「ソーラーベンチレーションシステム」を採用した。

搭載した多結晶SiPV(京セラ製)の出力は65Wで、PVで発電した電力は、駐車時の車内温度上昇を抑える空調機器の運転に使われた。

そして、12年にはプラグインハイブリッドのプリウスPHVが登場する。

世界初の量産型FCV「MIRAI」


一方、FCVは92年から開発に着手し、14年末に市販のFCVとしてMIRAIを発売した。MIRAIは約3分で水素の充填が可能で、航続距離は650kmを誇る。

使用するFCスタックは、370枚のセルで構成しており、3Dファインメッシュ流路により、水をスムースに排出する構造になっている。そのため、スタック内での水の凍結が抑制でき、高い低温始動性(-30℃)を実現した。

同社は自社が保有するFC関連の特許(5680件)を無料開放するなど、FCVの普及を後押ししており、20年をめどにグローバルで年間3万台、日本では月販1000台の販売を目指している。ただ、車載用蓄電池のコスト低減や容量拡大が進んだことで、FCVとEVの競合は必至の情勢だ。

高出力のPVを搭載


そして、17年2月には、大出力のPVを搭載した新型プリウスPHVが登場した。量産車では世界初となるソーラー充電システムを採用した。先代モデルとの大きな違いは、PVで発電した電力でモーター走行が可能になったことだ。

搭載したPVはパナソニック製HIT(7×8=56セル)で、最大出力は180W。前モデルに対し、設置面積の拡大、高出力モジュールの採用で出力が3倍に増えた。

発電した電力はソーラーECUを経由して、ソーラーバッテリーに充電する。走行中はソーラー発電により12Vバッテリーの消費を低減できる。一方、駐車中はソーラーバッテリーから駆動用バッテリーに充電し、駆動用電源の一部に活用する。

車載PVでは、PV出力に対して駆動に必要な出力が非常に大きいため、走行中にPVから直接給電することができない。そこで、駐車中にPV電力を充電するシステムを採用した。

ソーラーECU&ソーラーバッテリー


電池への充電には、安全確保のためにBMS(バッテリーマネジメントシステム)による監視が必須だが、BMSの消費電力が大きいため、そのままでは車載ソーラーシステムの効率が悪化する。

こうした問題を回避するため、プリウスPHVには1次蓄電池として、ソーラーバッテリーを搭載している。PVで発電した電力は、まずはソーラーバッテリーに充電し、ある程度充電が進んだ段階で、車載BMSを起動させ、駆動用バッテリーに充電する仕組みだ。BMSによる電力消費の時間を短縮することで、システム効率が向上した。

PV電力だけで走行できる距離は1日平均で2.9km、最大で6.1kmとなっている。走行距離としては十分とは言えないが、それでもPVがEVの動力源として使える時代になったことは大きな進歩である。

また、駆動用バッテリー(リチウムイオン電池)が従来の4.4kWhから8.8kWhに倍増したことで、EV走行距離も従来の26kmから68.2kmと大幅に増えた。

自動車は走る発電所になる

現在、世界中で開発が加速する自動運転車両は、センサー、通信機器など多くの電子機器を搭載するため、バッテリーに大きな負荷がかかる。そういう意味でも、車載PVはバックアップ電源としての期待が高い。

さらに、車載PVの発電&蓄電量が増えれば、車載PVで発電した電力の売電もしくは住宅への供給が可能になる。実際、プリウスPHVは最大出力1500Wの電源供給にも対応している。

従来、自動車はエネルギーをただ消費するだけの製品だったが、PVを搭載することで、エネルギーを生み出す製品、いわば「走るエネルギーデバイス」になる。日本電動化研究所では、ワイヤレスV2H給電システムが普及すれば、車載PVの価値がさらに高まると説明する。

さらに、同研究所は工場の駐車場に駐車している車載PVから、工場に電力を供給し、事務所や工場の電源に活用する「ソーラーV2F」を提案している。PVを搭載した車両1000台で1MWの電力供給が可能と見積もっている。

PVで20kmを走行

EVが1km走行するために必要な電力量、いわゆる電費はおおむね100Wh/km前後とされる。この数値を基に、果たしてどの程度のPVを搭載すれば、ソーラーカーとして実用的なのかを考えてみる。

早稲田大学の廣田教授の試算によると、車に搭載できるPVの面積は最大で約3m²で、PVの変換効率が33%と仮定すると、1kWの出力が得られる。年間発電量を1050kWh、年間走行距離を9120kmと仮定した場合、電費が100Wh/km(年間走行電力量912kWh)であれば、PV電力のみでの走行が可能になる計算だ。III-V族やHBCなどの高効率PVを使えば、さらに走行距離が延びる。

ただ、天候や走行条件を考えると、やはりバッテリーの併用が必要になる。近年、リチウムイオン電池の性能は向上しており、各社から40~60kWhのバッテリーが発表されている。

コストについても、10年ごろに10万円/kWhだった価格は、現在では2~4万円/kWhまで低下しており、すでに1万円/kWhの競争に突入している。

PVの変換効率33%(出力1kW)、50~60kWhの大容量バッテリー、電費80~90Wh/kmの条件であれば、EVとPVの組み合わせは十分実用的になると廣田教授は指摘する。

トヨタもPV電力で走行可能な距離を試算している。1日あたりの車載への日射量を3.5kWh/m²と仮定した場合、PVの設置面積が1.7m²、変換効率25%、電費が95Wh/kmの条件であれば、PV電力で走行可能な距離は10~15kmと算出している。

さらに、ボンネットなどにPVを設置することで設置面積を2.0m²に拡大し、変換効率35%の超高効率PVを搭載すれば、PV電力で走行できる距離は20km以上が期待できると見積もっている。

ちなみに、独Audiも開発中のEV車にPVを搭載することを検討している。搭載するPVは米Alta DevidesのIII-V族(GaAs PV)で、両社はPVを搭載したEV車のプロトタイプを17年末までに試作する。まずは、エアコンやシートヒーター用の補助電源として利用する考えだが、最終的には、駆動用バッテリーに直接充電し、PV電力によるEV走行を目指している。

トヨタの車は“太陽”で走る

トヨタの車は“太陽”で走る


世界のPV市場は、これまで普及を牽引してきたFIT(固定価格買取制度)から脱却し、自分で発電した電力は自分で使うという「自家消費型」に大きく舵を切り始めている。PVの発電コストが急速に下がったことで、自家消費の魅力が大きくなってきた。

そして、走行に必要な電気を自分で発電する車載PVは典型的な自家消費型モデルである。もちろん、昼間しか発電しないが、そのエネルギー源はクリーン、フリー、サステナブルだ。新型プリウスPHVはPVを搭載することで、究極のエコカーに向けた大きな一歩を踏み出した。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

投信1編集部からのコメント

時間軸の議論はどうあれ、EV化の流れは待ったなしという状況になりつつあります。その中で、EVをどのように工夫すればさらに効率的に運用できるかについては、今後様々な領域において議論されるでしょう。本記事はそうした領域のうちのPVの活用法について、トヨタを例に詳しく論じられています。トヨタによるPVの取り組みは以前からありましたが、その研究開発と実例がさらに進んだ印象があります。今後トヨタを含め、自動車業界が再生可能エネルギーをどのように取り込んでいくのかには引き続き注目が集まると思われます。

電子デバイス産業新聞×投信1編集部

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