消費者に響く「お金に関する経験則」とは?

資産運用アドバイスは今のままでいいのか~英国の研究から

消費者が投資アドバイスに接しやすくなるために

英国ではここ数年、資産運用アドバイスに関する制度や慣行の改善が相次いでいます。すべてが日本にも使えるというわけではありませんが、2017年3月に専門委員会が財務省と金融行動監督庁宛てに提出した「経験則と促進策~英国消費者の金融健全度の改善」と題するレポートは興味深いものですので、内容をちょっと紹介します。

そもそも、このレポートはファイナンシャル・アドバイス・マーケット・レビュー(FAMR)という財務省と金融行動監督庁が2016年に提出した報告書で実施を求めた28の提言のうち、「消費者が投資アドバイスにアクセスしやすい環境」を整える9つの提言のひとつでした。

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具体的には、消費者の金融ニーズに適した「経験則」とか「決断を促すための施策」といったものを開発するよう提案していたもので、そのための専門委員会(ワーキング・グループ)を設立して、そこで議論が進められてきました。

「万一のための蓄えとして最低3か月分は必要」は響かない

専門委員会の研究・議論では、1万にも及ぶ世界中の学術研究をレビューし、30人の専門家との長時間インタビュー、英国全土で70人以上のフォーカス・グループ・インタビューなど多くの調査を行ったうえで、「経験則」として使えるものは6つの原則に照らしてみる必要があるとの結論になっています。

6つの原則とは、「事実に基づいているか」、「一般に適用できるものか」、「具体的な行動につながるものか」、「普遍的なものか」、「わかりやすく覚えやすいものか」、「前向きな対応をもたらすものか」で、これに照らすと、今使っている「経験則」も必ずしも有用ではないと指摘しています。

たとえば、「50/30/20のルール」といわれる「経験則」があります。これは収入のうち必要生活分は50%、嗜好品は30%に抑え、貯蓄の積み増しか負債の削減に20%を使うべきだという「経験則」です。しかし、この「経験則」は実際には、覚えにくく、実施しにくいうえに、借り入れが意外に簡単になっていることを念頭に置いていないと指摘しています。

また日本でもよく使われている、「最低3か月分の資金を万一のための蓄えとして用意しておきましょう」という「経験則」も、所得の多寡などの個人の状況が違うなかで普遍的なものではないとみています。

これらの分析を踏まえて、このレポートでは新しい「5つの経験則」とそれを「促進させる施策」などを紹介しています。ここではこのレポートの表を抜粋する形で下に収載しています。

具体的な「5つの経験則」は、「自分の財政状況を定期的に見直しましょう」、「借り入れは、管理されるのではなく、管理するようにしましょう」、「できるときに貯蓄しましょう。たとえ少なくてもいつか大きな力になります」、「あなたの将来の所得になる年金資産を積み上げましょう」、そして5つ目は報告書のなかでもまだ言葉になっていないようですが、概念としては「他の人たちだってできているので、あなたもできるんですよ」とか「不測の事態に備えましょう」といったものを検討しているとのことです。

何か資産形成というよりは、家計管理に近いものですが、金融健全度は負債の削減や支出の管理といったところから始めようというメッセージでもあるように思います。現役世代のしかも若い人にとっては参考になるかもしれません。

5つの経験則と促進策~英国消費者の金融健全度の改善に向けて

出所:「Rules of Thumb and Nudges: Improving the financial well-being of UK consumers」2017年3月
注:5つの経験則のうち5つ目は現在、2017年3月の段階ではまだ議論中

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フィデリティ退職・投資教育研究所 所長 野尻 哲史

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野尻 哲史
  • 野尻 哲史
  • フィデリティ退職・投資教育研究所
  • 所長

国内外の証券会社調査部を経て、2007年より現職。アンケート調査をもとに個人投資家の資産運用に関するアドバイスや、投資教育に関する行動経済学の観点からの意見を多く発表している。
日本証券アナリスト協会検定会員、証券経済学会・生活経済学会・日本FP学会・行動経済学会会員。
著書には、『老後難民 50代夫婦の生き残り術』、『日本人の4割が老後準備資金0円』(講談社+α新書)や『貯蓄ゼロから始める安心投資で安定生活』(明治書院)などがある。
調査分析などは専用のHP、資産運用NAVIを参照