積立NISAの対象商品は金融庁に届出されたもの

来年1月から、積み立て型の少額投資非課税制度「つみたて(積立)NISA」が始まります。

積立NISAは、税制面では運用益が非課税となる投資枠は年間40万円と、現行NISAの年間上限120万円の3分の1です。ただし、累積非課税枠は現行の5年合計600万円に対して800万円(40万円 × 20年間積立)と、200万円多く使えるというのがメリットです。

また積立NISAでは、金融庁が適合する投資信託商品(以下、ファンド)の要件を法律で定めており、運用会社が金融庁に該当ファンドを届け出ることによって販売会社が積立NISA口座で扱えるようになります。つまり、通常のファンドよりひと手間多い仕組みとなっています。

適合要件を満たしているファンドは既に金融庁から通知され、10月2日から届出が開始されます。

ファンドの適合要件について考える

さて、積み立て方式による時間分散および非課税メリットを最大限に活用するのに向くファンドの資産クラスは、過去の拙稿『積立運用に優遇税制開始! どんなファンドに投資しますか?』で筆者なりの考え方をお伝えしました。

そこで今回は、金融庁の定めた積立NISAの適合要件を吟味して、その妥当性について、また上記拙稿のような考え方のファンドが選べるのかなどを考察してみたいと思います。

1. 全ファンド類型に共通の適合要件 

(1-A)無期限または20年以上

この要件は、積立期間の上限が20年であるため、途中で償還されないようにということで整合性はあります。ただ、筆者は一本の投信だけに集中することなく複数の投信に分散することをお勧めする立場をとっているので、もっと短い期限であっても、一つのファンドが期限を迎えたら別のファンドに投資するという選択肢もあるのではないかと考えます。

(1-B)毎月分配でない

これは、長期積立で資産形成を図るという観点から、複利効果を活用しない毎月分配は適さないという趣旨でしょう。そもそも同じ積み立て型運用の制度であるiDeCo用の商品を見ても、販売会社が毎月分配をラインアップしていませんので、業界もその趣旨には同意するでしょう。

(1-C)レバレッジなし

この要件は、たとえば日経平均の2倍価格が動くブルベアファンド等、投機的な戦略は不適合ということだと思われます。確かに積立NISAが投資初心者向けの手法だという前提ならば、規制当局が投資家保護の観点でこうした商品を外すのは理解できます。

ただ、上記拙稿に書いたように、時間分散と節税効果を最大限に活用するためにむしろ動きの激しいファンドを積立NISAで使うのは合理的と考える立場からすれば、法定要件として除外せず、残しておいて販売会社と投資家の選択に委ねる手もあったのではないかとも思います。

いずれにしても、これらの要件は器の形式の問題であり、どんな資産や運用戦略が中味に入ってくるかはイメージしづらいかもしれません。車でいえば車台を見てもボディの形状が見えないと意味がないのと似ています。

2. タイプ別の適合要件

次にタイプ別の適合要件を見ていきます。ここでは、ファンドのタイプをインデックス型、アクティブ型、ETFの3つに分類し、各々に要件が定められています。

(2-A)インデックス型

ここでの要件は、「販売手数料なし、信託報酬は国内資産の場合0.5%以下、海外資産の場合0.75%以下」となっています。長期投資をするなら、保有期間を通して支払うことになる信託報酬は安い方がよいという親心でしょう。

ただ、積立でなくとも投資家にとっては安い方がお得なのは自明なので、販売会社も手数料や信託報酬が安い商品をラインアップすることになるでしょうし、投資家も投資開始時に一番わかりやすい低報酬のファンドを選ぶと思います。

その他、「主たる投資対象に株式を含むこと」も要件となっています。この意図は不明ですが、前述のようにリスクが高い資産を積立NISA口座に使う方が得策という立場からすれば、好意的に捉えることができます。

(2-B)アクティブ型

指数を上回ることを目指す運用がアクティブ型ですが、ここでの要件も「販売手数料なし」は同じで、信託報酬率は「国内資産1%以下、海外資産1.5%以下」となっています。

その他、「純資産50億円以上、ファンド設定後5年以上経過」等も要件となっています。実績があるものを要件にすることで、ファンドが立ち行かなくなるなどの不測の事態を招かないようにという意図のようです。

アクティブ型に関しては、これらの(厳しい)要件に適合するファンドが「5本しかない」と金融庁が批判したことがニュースになりました。一方、運用会社サイドからは、5年の実績が必要なため、創意工夫をして積立NISA用に新しいファンドを開発する余地が乏しいという嘆きも聞こえてきます。

というのは、実際の運用実績がなくても積立運用に向く商品を新しく提供できれば投資家の利益に資することになるでしょうし、きちんとした実績を残しているかは、販売会社が商品選定の際にいつも行っていることだからです。

いずれにしても、今後のラインアップでは日本株アクティブ等も候補に上がってくるでしょうが、報酬水準が低めに抑えられているので、この分野はいわゆるコアファンドに属する国際分散投資(GTAA)のファンドが主流になると見ています。

(2-C)ETF(上場投資信託)

こちらは販売手数料1.25%以下、信託報酬0.25%以下と極めて低率が要件とされています。ETFの場合、先進国および新興国の債券や株式、先進国のREIT等が入ってきますので、時間分散および節税メリットを活用できるファンドはこの中に出てくるのではないでしょうか。

現行NISA、積立NISA、iDeCo・・・どれを選ぶ?

こうしてみると、当局がどういうファンドで積み立て投資を促進したいかという意図が見えてきます。ただ、「資産形成」の観点に特化すれば合理的な要件設定と言えるものの、節税や時間分散の観点からするともう少し商品の自由度があった方が投資家の利便性に合致するようにも思います。

また、要件が細部にわたっているためクリアするファンドが限られ、各社から似たファンドが届出されることになりそうです。

積立NISAは、毎月積み立て・運用益の非課税という点はiDeCoと共通ですが、iDeCoの場合は拠出金の所得控除メリットも加わります。現金化の自由度においては積立NISAが勝る点を除いては、iDeCoにはファンドの厳格な届出要件が特にない分、品揃えの多様性も見込めます。

その観点からすると、サラリーマン層で積立NISAとiDeCo双方に回すほど余裕資金がない少額投資家は、年金の補完や老後の備えとしての二者択一ならiDeCoを選好する方が多いのではないでしょうか?

逆に、もっとまとまった額を底値で拾って投資して節税メリットを最大限に生かしたい富裕層や、コツコツ型の収入でなく、収入が多い時に投資して少ない時に備えたい自営業の方などは、現行NISAでの投資を選ぶと思われます。

制度的に現行NISAと積立NISAは毎年二者択一制となっていますが、終身雇用制の崩壊や働き方の多様化も鑑みると、コツコツ型の収入でない層が増えることも考えられます(余談ですが、最近の小学生がなりたい職業の上位は芸能人、スポーツ選手、ユーチューバ―だそうです)。そのため、現行NISAは存続させるのが国民全体の観点からは理にかなうと言えるでしょう。

10月からの届出で積立NISAにどのようなファンドが並んでいくのか、筆者の発想にないようなアイデアが出てくるのか、今から楽しみです。

林 俊宏