盛り上がるAIスピーカーの新製品発表

最近、スピーカーとマイクを搭載しネットに接続して使われるAIスピーカー(スマートスピーカー)の新製品発表が増えています。

2017年9月27日には、AIスピーカーで約70%のシェアを確保しているアマゾンが、従来品よりも44%安い「Amazon Echo」の新製品を10月31日から発売すると発表しました。

また、少し前になりますが、アップルは6月の製品発表会で「Home Pod」とよばれるAIスピーカーを発表しており、12月から発売を開始するとしています。

一方、日本メーカーは、ソニー(6758)、パナソニック(6752)、オンキョー(6628)が、9月前半にドイツで開催された家電見本市「IFA」でAIスピーカーの新製品を展示していました。

さらに、9月27日付け日本経済新聞は、NEC(6701)、富士通(6702)がAIスピーカーの周辺技術を開発中であること、さらには経営危機のさなかにある東芝(6502)が年末から北米でAIスピーカーを販売する計画であることを報じています。

なぜ今、AIスピーカーなのか

このように、多くの発表が見られる背景を「タイミング」という観点から考えると、2つの理由が考えられます。

まず第1は、IoT分野の国内最大展示会「CEATEC JAPAN 2017」が10月3日から6日まで、幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催されるためです。

以前は液晶テレビなどデジタル家電の最先端製品を発表するエレクトロニクスショーの色彩が強かったこの展示会は、最近ではIoTに関連する技術やサービスをアピールする場へと変貌しています。

このため、各社はCEATECに合わせてAIスピーカーに関連する技術や製品の開発を進めてきたと推察され、これが最近、報道が相次ぐ理由の一端であると考えられます。

第2は、民生エレクトロニクス製品の販売が最も盛り上がる年末商戦が近づいているためです。先述したようにアップルは12月に新製品を発表予定であり、また、グーグルも近く機種拡充を発表すると伝えられています。

アマゾンがこのタイミングで新製品を発表したのも、新規参入企業が急速に増えるなか、年末商戦を優位に展開しトップシェアを維持するためと考えられます。

どのレイヤーで戦うのか

こうした季節要因以外に、なぜ参入企業が急増しているのか、その本質を理解するために以下の3つのレイヤーに分けて考えてみたいと思います。

  1. AIスピーカーを構成するスピーカーやマイクロホンなどの「ハードウエア」
  2. AIやクラウドから成り立つAI音声アシスタントという「プラットフォーム」
  3. AIスピーカーで使われるアプリ(アマゾンでは“スキル”と名付けています)や検索エンジン、さらにはEC(電子商取引)などの「コンテンツ」

アマゾンは豊富な”スキル”(コンテンツ)で勝負

まず、現時点でトップのシェアを占めるAmazon Echoですが、同社はハードウエアとしては音にうるさいオーディオマニアをうならせるようなハイエンドの製品は提供していません。

ただし、同社のプラットフォームである音声アシスタントの「Alexa(アレクサ)」に対応するコンテンツ(スキル)は1万5,000件を超え(2017年7月時点)、他を圧倒的に凌駕しています。

アマゾンは、こうした豊富なコンテンツによって消費者を囲い込み、最終的にはアマゾンのECサイトでより多くの消費者に買い物をしてもらうことを意図しているように見えます。

アマゾンが、プラットフォームのアレクサを東芝やオンキョー、さらには、BMWやMINIなどの自動車メーカーにも提供しているのは、アマゾンのエコシステムにより多くのユーザーを取り込むことが狙いであるとも考えられます。

グーグルはAIスピーカーでも”検索エンジン”が強みに

このように、アマゾンはコンテンツを最重視していると考えられますが、これはグーグルも同様です。ただし、グーグルの場合、コンテンツはアプリではなく検索エンジンです。

既にグーグルは検索エンジンで圧倒的なポジションを確立していますが、それをAIスピーカーに取り組むことにより、その地位をより盤石にすることを狙っていると考えられます。

グーグルが、ソニーやパナソニックにプラットフォーム(グーグルアシスタント)を提供しているのも、最終的にはグーグルの検索エンジンの利用率を高めることが目的と考えられます。

アップルはハードウエアとSiriで差別化

一方、iPhoneを中心に既に強固なエコシステムを構築しているアップルが、AIスピーカーに取り組む理由はどこにあるのでしょうか。

現時点では、アップルのAIスピーカー(Home Pod)はまだ発売されていませんが、各種メディアではオーディオとして相当なこだわりがある製品であることが伝えられています。

このため、アップルはまずハードウエアを競争領域として定め、そこからユーザーの獲得を目指していくと推察されます。

ちなみに、アップルのハードウエア重視の戦略は、ソニーやパナソニックといった日本の電機メーカーにも共通するものです。ただし、アップルにはiPhoneで確立したプラットフォーム「Siri(シリ)」がありますが、日本メーカーは他社製に依存せざるをえないのが現状です。

このため、仮にソニー、パナソニックなどの日本メーカーがハードウエアで差別化ができたとしても、アップルの地位を脅かすような存在になることは容易ではないと考えられます。

まとめ

上記のように、先行する米国企業は、既に確立しているプラットフォームやコンテンツをより強いものとするため、AIスピーカーに取り組んでいます。よって、そうしたエコシステムを日本メーカーがAIスピーカーを通じて活用することは大歓迎されるでしょう。

裏を返せば、日本メーカーが参入可能な競争領域はハードウエアが中心ということになります。ただし、参入障壁が低いため、競争が激しく、収益を確保しにくい領域での戦いを強いられるのではないでしょうか。つまり、パソコンやスマホなど、かつて見てきた光景と同じことが繰り返される可能性が高いということです。

短期的には「日本語の壁」により、プラットフォームやコンテンツの周辺領域には収益を確保する機会があるのかもしれませんが、それがどこまで長く続くのか。

パソコンやスマホの先例を考慮すると、あまり楽観的にはなれませんが、今回の「CEATEC JAPAN 2017」では、そこに秘策があるのかを探ってみたいと思います。

LIMO編集部