アジア地域内各国の成長見通しを国別に見ていくシリーズは、今回で第6回目です。最近、マレーシアの首都クアラルンプールを訪問する機会を得ましたので、第4回の『「イスラム金融」の中心地へ、ポテンシャルを秘めるマレーシア』に続いて、再度マレーシアについてお伝えしたいと思います。

アセアンの中でも都市計画に秀でたマレーシア

クアラルンプール国際空港からクアラルンプールの中心街に移動する際、一番に驚くことは、道路整備が整然となされていることではないかと思います。アセアンの他の国では、シンガポール以外は道路状況は芳しくありません。

タイの首都バンコクやインドネシアの首都ジャカルタ、フィリピンの首都マニラやベトナムのホーチミンと、いずれの都市を見ても、人口が増えるよりも道路整備が後手に回ったために、車社会が到来すると街中が渋滞で車があふれかえるという事態を引き起こしています。

もちろん、クアラルンプールにも、日中、中心街の一部に渋滞は発生しますが、道路は3車線以上で整備され、未開発の土地も残されており、開発はまだこれからといった状況です。

街を歩くと、市内には地下鉄やモノレールなど公共交通機関のネットワークが構築され、中心街にはショッピングモールやオフィス、高級ホテルまでが数多く開業しています。バンコクの喧騒や混雑、シンガポールの整備し尽くされた整然さとは、また異なる独自の発達の仕方があることが感じられます。

都市計画のうまさを感じさせる一つの例としては、新都市プトラジャヤがあります。マレーシア政府は、法律上の首都をクアラルンプールのままにしていますが、1999年から連邦政府の各庁舎や連邦裁判所をクアラルンプールとクアラルンプール国際空港の間に建設された新都市プトラジャヤへ移転したのです。ちなみに、プトラジャヤは2010年に完成しています。

人口密度は相対的に低く国土は広いわりに、都市計画を非常に綿密に行い、実行していることは、マレーシアの一つの特徴です。マハティール政権下で進められた「ルックイースト政策」により、日本の良いところが積極的に取り入れられ、日本の都市計画が参考にされたということも大いに影響しています。

「ハラル認定」の信頼度が高い理由は?

前稿にも書いた「イスラム金融」センターは、中心街からわずか数キロの場所で大規模な開発が始まっており、既に、その中心となる高層ビルが姿を現しています。シンガポールに比べて地価は安く、イスラムの教えを守る人たちが暮らし、集まるマレーシアは、イスラム金融の役割を果たすのに大きなアドバンテージがあるといえるでしょう。

そのイスラム教では、日常のあらゆる行動において「やっていいこと」と「やって悪いこと」が決められています。「やっていいこと」を指す概念が「ハラル」です。時間を守る、人を傷つけないといったこともハラルの概念に当てはまります。

そして、その中でも「食べ物」と「お祈り」については厳しい決まりがあり、「食べてもよい」とされているのが「ハラルフード」と呼ばれるものです。ハラルの認定は世界中にいろいろな形でありますが、マレーシアは唯一、政府機関の中にハラルを認定する機関を持っています。従って、ハラル認定の信頼度も格段に高いのです。

こうしたことから、マレーシアで作られマレーシアのハラルを取得した製品は、そのままイスラム圏に持っていくことができます。最近、日本で製造された「しょうゆ」は醸造過程でアルコールが発生するため、あるイスラムの国が輸入を禁止したというニュースがありました。

実際には、その会社の製品もアルコールを含まないように製造する工場から出荷したものは問題がないことがわかっているのですが、こんな細かいことが障害になったりするのは、やはり宗教というバックグラウンドが異なるためです。

移民政策の進展も注目される

イスラム圏でもあり、中東から多くの人が訪れ、食事を楽しみ、買い物をし、医療を受けるマレーシアという国を肌で感じ、「イスラム金融センター」とひとことで言っても、それを達成するための難しさと、この国のアドバンテージを思い知らされました。

マレーシアは、都市計画だけではなく、移民政策でも今後は政策に沿った移民の受け入れを開放する議論も進んでいます。日本人は、既に移民政策上は優遇を受けていますが、今後は金融や医療、先端技術などの人材で、その方向感が明確になることでしょう。マレーシアは、まさに今、大きく変貌を遂げるために飛び立とうとしている時なのかもしれません。

ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク 長谷川 建一