米国ではアクティブ運用の人気に回復の兆しが伺えます。リスクオンの流れに乗って資金流入が増加していることもありますが、債券ファンドには構造的なメリットもありそうです。何が起きているのか、アクティブ運用の人気復活の背景とその周辺の動きをまとめてみました。

約10年ぶりの好成績でアクティブ運用へ資金が回帰

インデックスファンドに代表されるパッシブ型の資産運用が花盛りと言われている中、米国ではアクティブ運用が見直されています。たとえば、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ(BAML)が7月21日に公表した週間調査では、7月19日までの週にアクティブ型ファンドへの資金流入が2年半ぶりの高水準となりました。

また、資金をアクティブ型の投資信託からパッシブ型の上場投資信託(ETF)に移す投資家の割合が、過去2年に比べて大きく低下しています。

ブルームバーグと米投資信託協会(ICI)の集計データによると、今年1-7月期の投資信託から引き揚げられた資金は約1000億ドルで、ETFには800億ドルが集まりました。この資金流出・流入を比率にすると1.2:1となりますが、2015-2016年は1.9:1でしたので資金流出の動きが緩和していることが分かります。

アクティブ型の運用が見直されている背景には約10年ぶりの好成績があります。BAMLの集計データによると、7月まで5カ月連続で大型株ファンドの半分余りがベンチマークを上回るパフォーマンスとなり、2009年以来の長期好成績となっています。テクノロジー株を歴史的水準でオーバーウェイトにしたことなどが功を奏しました。

債券市場における”定説を覆す"リポート

とはいえ、中長期的にはアクティブ運用がパッシブ運用をアウトパフォームできないことはほぼ定説として広く知られているところでしょう。アクティブ運用は手数料が高く、長期的にはパッシブ運用のパフォーマンスを下回るはずだからです。

こうした見方に対し、債券運用会社のピムコが今年4月に定説を覆すリポートを公表しています。同リポートによると、債券市場では大半のアクティブ型のファンドは、手数料控除後リターンで同じ資産クラスのパッシブ型ファンドの中央値を、過去1年、3年、5年、10年のすべての期間で上回っているのです。

債券市場でアクティブ運用がパッシブ運用をアウトパフォームする理由として主に4つの構造的な利点が挙げられています。

1. 債券市場の47%が経済合理性を追求しない投資家であり、その代表的な例として中央銀行を挙げています。中央銀行はリターンを得るためではなく、自国通貨を安くしたり、インフレ率や資産価格を引き上げるために債券を購入しているので、このことがアクティブ運用に超過利益の機会を与えています。

2. 債券のインデックスに銘柄の入れ替えがあると、パッシブ運用者が事後的に買いや売りに走ることで価格が上昇したり下落したりします。アクティブ運用者は事前に銘柄の入れ替えを予想することで収益機会を得ることができます。

3. 株式市場では毎年の新規発行は時価総額の1%程度です。一方、債券には満期があることから債券市場ではその額が20%程度になり、新規発行を消化するために、通常はやや割安な価格で売り出されます。ただし、パッシブ運用者はインデックスに組み入れられた後、すなわち起債から数週間後に債券を購入するため、このようなディスカウントで購入することは一般的にはできません。

4. アクティブ運用では、ハイイールド債やモーゲージ債、高利回り通貨など潜在的な超過利益の源泉に対して投資比率を高める戦略を取ることもできます。

このように、債券市場には非合理的な投資家が存在することなどから、アクティブ運用がパッシブ運用をアウトパフォームできる構造的な理由があり、債券市場は株式市場とは“違う”と言えるのかもしれません。

債券ETFはアクティブ型がアウトパフォーム

では、実際にアクティブ運用を取り入れている債券ETFのパフォーマンスはどうなっているのかを調べてみましょう。

まず、パッシブ型の代表格であるiShares Core U.S. Aggregate Bond ETF(ティッカー:AGG)を見ると、年初来のトータルリターンが3.21%、過去1年だと0.34%、3年で8.46%、5年で10.83%となっています(9月21日現在)。

AGGはバークレイズ米国総合インデックスに連動していますので、このインデックスをベンチマークとしてアクティブ運用しているピムコのPIMCO Total Return ETF(BOND)のリターンと比べると、BONDは年初来で4.32%、1年で2.82%、3年で10.44%、5年で16.42%とすべての期間でAGGをアウトパフォームしています。

さすがは“債券は違う”と主張しているピムコの面目躍如といったところでしょうか。

また、類似の SPDR DoubleLine Total Return Tactical ETF(TOTL)を見ると、2015年2月に上場したTOTLは年初来で3.88%、1年で1.58%とこれまでのところは順調にAGGをアウトパフォームしています。債券のアクティブ型ETFがパッシブ型EFTをアウトパフォームするのはピムコの専売特許というわけでもなさそうです。

トランポノミクス関連のテーマ投資も人気に

投資戦略としてハイテク株へのオーバーウェイトが功を奏していることは既に述べましたが、トランポノミクスに関連したテーマ投資も人気を集めています。たとえば、米国とメキシコとの間の関係悪化を見込んでメキシコをショート(売り持ち)し、金融規制の緩和を見込んでファイナンシャルセクターの比重を高めるといった戦略が実を結んでいます。

具体的な数字を確認すると、メキシコ株であればiShares MSCI Mexico Capped ETF(EWW)の昨年11月の大統領選挙後のトータルリターンは6.5%上昇と、SPDR S&P500 ETF(SPY)の18.8%上昇を下回っています。その一方で、金融セクターで構成されているFinancial Select Sector SPDR Fund(XLF)は29.2%と、SPYをアウトパフォームしています。

これらの結果は、単純にS&P500をロング(買い持ち)した場合よりも、XLFやEWWをロング・ショート戦略などに組み込むことで、より高いリターンを挙げられたことを示唆しています。

株式のアクティブETF、話題のCWSは悪戦苦闘中

特定のセクターに対するオーバーウェイトやテーマ投資はETFを使ってアクティブに運用することであって、アクティブに運用されたETFではありません。その意味では、昨年9月に上場されたAdvisorShares Focused Equity ETF(CWS)はパフォーマンスに応じて手数料が決まる初めてのETFとして話題を集めました。

CWSはファンドマネージャーが選好する25銘柄に均等に投資し、毎年末に5銘柄を入れ替えるという運用ルールに従っています。パフォーマンスがS&P500を2%上回るか下回るかで手数料が変動する仕組みとなっており、投資家の利害がファンドマネージャーの利害と一致するところに特長があります。

ただ、残念なことにCWSの年初来での騰落率は9月25日現在で8.1%上昇とベンチマークとなるSPYの11.7%上昇を下回っています。また、運用残高も1200万ドルとやや寂しい数字となっています。

CWSでの投資判断はすべてファンドマネージャーに任されており、文字通りのアクティブETFではありますが、これまでのところはパッシブ運用をアウトパフォームすることに手こずっているようです。

参考:2017年4月ピムコリポート(アクティブ運用)

LIMO編集部