英国では資産形成に関連する制度がここ10年ほどの間に大きく変わってきました。なかでも注目しているのが、英国の企業年金制度の変更で、その変化のなかから我々の資産形成に利用できる考え方をシリーズで紹介していきます。

いかに資産運用をお任せするか

英国年金法が改正され、すべての企業は2018年までに企業年金を導入し、従業員は自動的にこれに加入することになりました(もちろん脱退する権利はあります!)。

ここで問題が2つ出てきます。一つ目は、小さな企業だと自社で企業年金の運営ができないところが多いことです。そこで、政府が設立して運営は民間が行う形の年金プロバイダー、国家雇用貯蓄信託(NEST)が作られました。

NESTはどんな小さな企業からでも、その要請があれば企業年金の一つである確定拠出年金(DC)を提供する義務があり、多くの企業がそれを採用しています。

もう一つが、金融リテラシーの高くない加入者も含まれることで、できる限りお任せできる金融商品の提供が求められることです。

NESTで提供される金融商品の中核はターゲット・デート・ファンド(TDF)に類似した金融商品です。これは、資産配分、そのリバランス、そしてライフステージに合わせた資産配分の変更まで自動的にしてくれる金融商品です。

一般に、投資のリスク軽減策として挙げられる長期投資、分散投資、時間分散のうち、確定拠出年金のようにお給料からの積立型資産形成は、長期投資と時間分散が制度で担保されています。そのため、自分が考えなければならないのは資産分散だけです。

とはいえ、4つのステップで考える資産分散はそれだけでも難しいものです。そこで、ここでもできるだけお任せ型にするのが、NESTで多用されているTDFです。

ターゲット・デート・ファンドの活用

一般的には、資産配分の4つのステップのうちアセット・アロケーションとリバランスを担ってくれるのがバランス・ファンドです。そのうえアセット・リアロケーションまで自動的に行ってくれるのがTDFです。

NESTがTDFを中心に提供しているのは、資産形成の多くのプロセスをできるだけ自動化して、加入者の負担感を減らそうという発想です。ただ、それでも資産形成の目的に最も近い意思決定、アセット・ロケーションだけは自らが決定する必要があります。

英国ではISA(個人貯蓄口座)など他の非課税制度もありますから、資産形成をする資産のうち、いくらの資金をこのDCに振り向けるかを決めることです。

企業にとって従業員の退職後の資産形成は重要な事項ですし、こうした制度の完備は従業員の定着率や就職率を高めることになります。

しかし、資産形成に時間を割いて本来の業務に支障があっては本末転倒ですから、始めるまではやらなければならない作業があるにしても、一度始めればあとはできるだけお任せにすることができるシステムが望ましいところです。これは従業員にとっても同じことのはずです。

日本でも、厚生労働省の社会保障審議会の「確定拠出年金の運用に関する専門委員会」で「デフォルト・ファンド(指定運用商品)にTDFを入れるべきだ」といった議論がなされました。残念ながら、結果は見送りとなりましたが、議論されただけでも今後確定拠出年金でのTDFの採用は増えてくることになるかもしれません。

資産分散の4つのステップ

出所:フィデリティ退職・投資教育研究所作成

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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史