ハリケーン直撃の9月米雇用統計、本当に懸念すべき点は何か

雇用は減っていないし、賃金も上昇していない?

Michael Gordon / Shutterstock.com

9月の米雇用統計はハリケーンの影響でゆがみが生じており、市場もどう反応していいのか気迷いムードとなっています。そこで今回は、雇用統計の結果をどう考えればよいのか、ポイントを整理してみました。

雇用の減少は給与明細の減少であり、統計上の話

9月の米雇用者数は前月比3.3万人減少と2010年9月以来、7年ぶりの減少となりました。ただし、この減少は一時的に給与の支払いがなかったことが影響しており、仕事がなくなったわけではありません。

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雇用統計は事業所調査と家計調査に分かれおり、調査期間はともに12日を含む週の1週間です。雇用者数を推計している事業所調査では給与の支払いがないと雇用者としてカウントされません。別の言い方をすると、事業所調査は働いている人の数ではなく、給与明細書の数を積み上げています。

たとえば、ハリケーンの影響でレストランが休業となり、給与の支払いがなかった場合、従業員は雇用者とは認められず、統計上は雇用者数が減少することになります。

12日を含む週での支払いがすべてとなりますので、雇用契約が継続していても、翌週から職場に復帰して給与を受け取っても関係ありません。

米労働省はハリケーンの影響で150万人が自宅待機を余儀なくされたとしていますので、10月にはこれらの人々が復帰することで、雇用者数の大幅な反動増が見込まれます。

失業率の低下も一時的

雇用者数が減少したにもかかわらず、失業率は4.2%と2001年2月以来、16年半ぶりの低水準となりました。こうした現象が起きるのは、失業率の算定には事業所調査ではなく、家計調査が用いられているからです。

家計調査では実際に働いているかどうかは問題ではなく、本人が仕事を持っていると自覚していれば就業者としてカウントされます。したがって、ハリケーンで自宅待機となり、まったく働いた形跡がなくても、それで就業者数が減ることはありません。

9月の就業者数は前月比90.6万人増と、政府機関閉鎖の影響があった2013年11月以来の増加幅となりました。8月までの1年間の月平均は14.9万人増でしたので、給与明細の発行を伴わない臨時の仕事に就いた人が激増したことを示唆しています。ただ、臨時の仕事が維持されるとは考えづらいので、失業率の低下も一時的となることが見込まれます。

10万人の違いは統計上の誤差、増勢の鈍化を注視へ

ところで、米労働省は統計的に有意な雇用者数の差を10万人としています。米雇用者数は約1億5,000万人ですので、10万人は0.07%に過ぎず、文字通り誤差といえます。

たとえば、事前予想が18万人増だった場合、数字のみで判断すれば8万人増は予想を下回っており、28万人増は予想を上回っていますが、統計的にはどちらも予想通りとなります。すなわち、この3つの数値は統計的には同じと考えても差し支えないということです。

10万人は平時を想定していますので、ハリケーンのような特殊要因があった場合には誤差はより大きくなると考えられます。したがって、9月の結果は想定の範囲内となり、予想より低い数字であったことを気にする必要はないといえるでしょう。

ただ、気を付けたいのは増勢が鈍化している点です。8月までの1年間の月平均は17.2万増ですが、7月は13.8万人増、8月は16.9万人増とこのトレンドを下回っています。9月の結果を見ても増勢の回復は見込みづらいことから、雇用は伸びているものの、その勢いは減速していると認識したほうがよさそうです。

賃金上昇で円安は勇み足?

9月雇用統計では時間当たり賃金が前年同月比2.9%上昇と、8月の2.5%上昇から加速しています。賃金が大きく伸びたことから、発表直後にドル金利が上昇し、円が急落していますが、これは明らかなフライングだった模様です。

もともと雇用者数が下振れれば、その分賃金が上振れると指摘されていましたが、市場の反応を見るとこの辺りの事情はよく理解されていなかったのかもしれません。

賃金が上昇したのは雇用の減少が低賃金労働者に集中したからです。たとえば、100円と80円と60円の平均は80円ですが、60円がなくなると平均は90円になります。

9月の時間当たり賃金の平均値は26.55ドルですが、業種によって大きな差があります。雇用統計の分類による主要13業種中、上位3業種は公益(39.38ドル)、情報(38.90ドル)、金融(33.44ドル)で、下位3業種はレジャー・接客(15.55ドル)、小売(18.27ドル)、その他サービス(23.88ドル)となっており、上位と下位では賃金に2倍以上の差があることがわかります。

9月は賃金が最も低いレジャー・接客が前月比11.1万人減と、減少のほとんどを引き受けています。また、ワースト2位の小売りが0.3万人、ワースト3位のその他サービスが0.5万人、それぞれ減少しています。このように、雇用の減少が低賃金の業種に集中したことで、平均賃金が上昇したと考えられています。

インフレ率の上昇と低調な個人消費を警戒へ

9月の雇用減少は、ハリケーンの影響で飲食店が休業となり、接客業の従業員が自宅待機となったことが影響しています。給与の振り込みがなかったということであり、失業したわけではありませんので、10月の統計では無事に復帰することでしょう。

ただし、過去3カ月の数字が過去1年のトレンドに届いておらず、雇用者数の増勢が鈍化している恐れがある点には留意が必要となりそうです。

賃金の上昇は低賃金労働者が統計から除外されたことによる一時的な現象であり、持続性を保証するものではありません。むしろ、基調的な雇用者数の増勢が鈍化していることから、賃金も伸び悩むことが心配されます。

また、インフレ率の上昇も雇用の足を引っ張るかもしれません。米国では原油高とドル安の影響で輸入物価が上昇しており、その影響でインフレ率が上昇しています。

内需が強いわけでも賃金の伸びが高いわけでもありませんので、インフレ率の上昇は増税とほぼ同じ悪影響を及ぼす可能性があり、消費を停滞させる恐れがあります。8月のインフレ調整後の個人消費は前月比でマイナスとなっており、既にインフレが消費を抑制する兆候が見られています。

また、インフレ率の上昇に気を良くして、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げに前のめりになり、景気を冷やして個人消費を委縮させるかもしれません。

いずれにしても、低調な個人消費が堅調な雇用情勢に打撃を与える恐れがあり、警戒が必要となりそうです。

投信1編集部

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投信1編集部は、証券アナリストやファンドマネージャーとして長年の調査経験を持つメンバーで構成されており、金融・経済ニュースや投資に関する知識・アイデアをわかりやすくお届けします。