2017年9月29日、同年3月に再上場した「スシローグローバルホールディングス」(以下、スシローGH)が、元気寿司、および元気寿司を運営する米卸大手の神明との資本業務提携を発表しました。

再上場したばかりのスシローGHのアクションだけに、株式市場のみならずメディアも積極的に報道をしています。今後は誰が回転ずし業界の勝ち組になりそうかを見ていきましょう。

株主が次々と入れ替わった業界大手スシロー

スシローGHは、元「あきんどスシロー」として2003年9月に東証二部に上場。その後、創業者の一部が外食大手ゼンショーに持ち株を売却しています。2009年4月にあきんどスシローは投資会社などとともにMBO(マネジメントバイアウト)を実施し上場廃止となり、ゼンショーは持ち株を手放すこととなりました。

その際に関わったユニゾン・キャピタルは、2012年9月に英投資ファンドのペルミラが出資するアイルランドの投資会社コンシューマー・エクイティ・インベストメント(CEI)に株式を売却。今回の発表の中でCEIは30%弱の持ち株のすべてを売却し、神明がスシローGHの筆頭株主となることになっています(注)

CEIから神明への売出価格は一株当たり4,000円と、現在の3,630円(2017年10月5日時点)を上回る価格です。神明からすればマーケットにインパクトを与えないで株式を集めることができるため、市場価格より若干高めでも折り合ったのではないかと考えられます。

今後は、今回調達したスシローGH株をベースに、神明が元気寿司とのシナジーをどのように生み出していくかが注目されるところでしょう。

注:スシローGH「株式の売出し並びに主要株主、主要株主である筆頭株主及びその他の関係会社の異動の予定に関するお知らせ」による。

回転ずし業界のプレーヤーまとめ

ここで回転ずし業界についておさらいしておきましょう。

回転ずし業界の主要なプレーヤーとしては、ゼンショー(はま寿司)、くらコーポレーション(くら寿司)、元気寿司、カッパ・クリエイト(かっぱ寿司)、スシローGH(スシロー)が挙げられます。

売上高では、業界首位はスシローGHで、2016年度(2017年9月期)の会社予想による売上高は1,597億円となっています。また、第2位のくらコーポレーションの2016年度(2017年10月期)の会社予想による売上高は1,190億円です。

第3位は外食大手ゼンショーが運営するはま寿司で、2016年度の売上高は1,090億円と、くらコーポレーションに迫る売上高規模となっています。ゼンショーは、あきんどスシロー株を手放したのち、はま寿司を積極的に展開することとなりました。

一方、以前は業界首位であったカッパ・クリエイト(以下、カッパ)の業績は、売上高、収益ともに低迷しています。2014年に外食大手コロワイドの子会社となっていますが、売上高は逓減傾向です。

カッパはもともと神明が株式の一部を保有し、神明が運営する元気寿司との経営統合を検討したこともあります。しかし、その後コロワイドが株式公開買い付け(TOB)と第三者割当増資引き受けでカッパを買収するという動きに出ました。その際に神明はTOBに応じ、カッパ株を売却しています。結果、コロワイドが過半数の株式を保有している状況です。

このように、回転ずし業界は年間の売上高が1,000億円前後のプレーヤーが数社もありながら、経営をめぐって混乱してきた業界といえるでしょう。今回のスシローGHと神明、元気寿司が仕掛ける動きで、圧倒的な勝ち組が生まれるのでしょうか。

スシローの利益の伸び vs. くらの安定した利益

では、規模を追求することで収益性が改善するプレーヤーは出てくるかという点を考えてみましょう。

まず、第一に見ておくべきは、スシローGHが2016年度の会社予想の経常利益で、80億円を超す水準を達成しようとしていることです。

回転ずし業界で経常利益80億円という水準は、近いところでは2003年度にカッパ・クリエイトが84億円を達成しているだけで、他には例がありません。スシローGHが今回の会社予想の経常利益を達成すれば、今後さらに注目されることになるでしょう。

また、過去の業績推移で評価されるべきは、くらコーポレーションでしょう。売上高や経常利益の水準ではスシローGHに及ばないものの、着実に利益を拡大してきたといえます。

ただ、くらコーポレーションも足元の株価は大きく下落しています。これは2017年10月期第3四半期の決算発表で、営業利益の9カ月累計の対前年同期比が▲12%減となったことを株式市場がネガティブに受け取った結果と見られます。くらコーポレーションといえども業績面で盤石というわけではなさそうです。

はま寿司、元気寿司、かっぱ寿司の経常利益率は低下傾向にあるため、業界1、2位までが利益水準をある程度維持できる状況というのが足元の傾向といえるでしょう。

業界再編の注目ポイントは何か

業界再編で今後カギとなるのは、企業規模を追求して収益が改善するかどうかではないでしょうか。

回転ずしプレーヤーの売上高に占める費用構成と営業利益の構成を見ると、売上高の半分近くが売上原価、また同様に半分近くが販売費および一般管理費となっています。

「では、回転ずしチェーンはいったいどのようにして利益を上げているのか」という指摘もあるかと思いますが、売上原価と販売費および一般管理費を何とかやりくりして、営業利益率で5〜6%を出せるチェーン店が優等生という状況です。

スケールメリットを出すための施策とは

規模が大きくなることで調達も増え、仕入れ・納入企業に対して優位に立てることはあるでしょう。売上原価で見れば元気寿司が42%と、他のプレーヤーよりも低い水準を実現できています。

売上高に占める売上原価率は、売価政策や商品として消費者にどれだけお得感を出せるのかという思いによっても変わってきますが、低いに越したことはありません。今後は、スシローGHが元気寿司の水準を目指せるのかということがポイントとなるでしょう。

また、販売費および一般管理費はスシローGHの46%が最も低い水準です。店舗運営などの効率化が図られれば、この比率は低くなるでしょう。一方で、元気寿司の55%は売上高の規模が他より小さいということもあり、高めの水準です。

スシローGHと元気寿司が収益性を上げられるとすれば、この2つのポイントをいかに組み合わせることができるのかということになってくるでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。回転ずしは非常になじみのある外食チェーンフォーマットでありながら、プレーヤーの統合や再編は今後さらに進みそうです。自社の規模拡大に専念しているくらコーポレーションの安定した収益の拡大と、業界再編を仕掛けるスシローGHグループの動きに注目したいところです。

青山 諭志