日本経済新聞社「産業天気図」の2017年10~12月期が発表されました。これは四半期ごとに同社がまとめているもので、晴れ・薄日・曇り・小雨・雨の天気分類を用いて、産業分野ごとの業績動向が四半期前と比べて改善、横ばい、悪化のいずれであるかの評価が示されています。

今回の産業天気図によると、対象となる30業種中、前期比横ばいが24業種、改善が4業種、悪化が2業種でした。これら天気図の変化と、株式市場への影響について考えてみたいと思います。

穏やかな回復基調が続く日本経済。好調業種は?

産業天気図の背景になっている日本経済は回復基調が続いています。

政府は9月25日発表の月例経済報告で、2012年12月にスタートした今回の景気回復が2017年9月で58カ月続き、戦後第2番目の長さと言われた「いざなぎ景気」(1965年11月~1970年7月)の57カ月を超えたとしています。

あまり実感がないと思われる方もいらっしゃると思いますが、直近の業種別では旅行・ホテル、アミューズメント、人材派遣、建設・セメント、産業・工作機械、ドラッグストア、ネットサービス、広告、通信、情報、食品・飲料が好調さを保っています。

反面、百貨店、貨物輸送、紙・パルプ、電力などは引き続き厳しい環境が続いているようで、現状の好調さは“コト消費”関連の業種が中心になっている様子です。

製造業にも改善傾向の強まる業種が出てきた

今回の産業天気図では、鉄鋼・非鉄、プラント・造船、化学、電子部品・半導体の4業種に改善が見られました。製造業にも陽が当たり始めたようです。以下、セクター別にその変化を見てみましょう。

鉄鋼・非鉄:曇り→薄日
鉄鋼製品の値上げと中国鉄鋼業界の構造改善、自動車軽量化によるアルミ製品需要の拡大などが背景

プラント・造船:小雨→曇り
環境規制を睨んだ新造船受注の回復と円安効果が寄与

化学:薄日→晴れ
中国の環境規制に伴うプラントの減産と国内需要の回復で製品値上げが順調に浸透

電子部品・半導体:薄日→晴れ
自動車の電装化、省力化によるロボット需要増、新型iPhone関連需要、NAND型メモリーのデータセンター向け需要急拡大等が背景

天気図の変化は株価にどう影響するか

化学、鉄鋼・非鉄の改善は、見た目は良いものの株価を考えるうえでは要注意と考えます。薄日は既に好調であることを示しており、晴れになったとしても大方の良い情報は既に株価に織り込まれている可能性があります。

中でも化学では、国内のエチレン生産稼働率が9月時点で連続50カ月にわたり90%超が続いており、株価は既に相当程度業績好調を織り込んでいると判断できます。また、2018年には安価なシェールガスを原料にした米国製の石油化学品がアジアに流れてくる可能性が高く、要警戒水域に入っていると思われます。

これに対して、鉄鋼・非鉄は株価的にも化学と比べて出遅れていると考えます。新日鐵住金、JFEホールディングスなどの鉄鋼株は、今後、値上げ効果と中国の鉄鋼業界の構造改善の好影響を受けそうです。また、非鉄はこれからEV(電気自動車)の普及期を迎える中で活躍の余地が大きいでしょう。特に、EVに多く使われるアルミ合金などは注目です。

電子部品・半導体は化学と似た立ち位置かもしれません。2016年後半から世界の半導体生産が底を打ち、足元も好調です。材料の半導体ウエハーの業界では既に2018年の納入価格の交渉まで決着しているようです。iPhone Xの動向は不透明ですが、電子部品の調達は既に片がついているかもしれません。総じて電子部品・半導体も、好調さがかなり株価に織り込まれたと考えた方が良いと思われます。

一方、天気図が悪化した業種は外食と石油の2つです。外食は人件費上昇と内食シフトによる市場の縮小、石油はEVの時代を迎えガソリン市場がますます縮小するという構造的な問題を抱えているため、当面、投資の対象としては考えにくいのではないでしょうか。

結論は“要警戒”か

上記のように、なかなか投資面では有望な業種が出てきませんが、これは58カ月にも及ぶ長い好景気が続いた結果、業種間格差が平準化したことが要因の一つかもしれません。

10月11日には日経平均が7連騰で約21年ぶりの高値という極めて強い動きを見せていますが、値上がり銘柄数を値下がり銘柄数で割った騰落レシオが警戒水域と言われる120%を超えるなど、産業動向の観点からは天井圏を想定せざるを得ない状況のように思われます。

石原 耕一