投信1編集部による本記事の注目点

  • 次代を担うビジネスモデルを構築する際には、きづき(気づく)の作業が入口となります。
  • IoTビジネスの世界を念頭に置くと、技術では(1)無給電、(2)自己成長、(3)意味理解、(4)百年耐久の4つの方向性が重要となります。
  • IoTの理解で重要なのは、リアルなビジネスの世界をパソコンやクラウド上のバーチャルな世界に写像し、シミュレーションを実行することです。

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日本電子デバイス産業協会(NEDIA)発行の「NEDIA戦略マップ」の最新版となる2017年度版が、初版の2015年度版に続き上梓された。最新版のメーンテーマは、“きづき”の見える化である。

きづきとは、次代のビジネス戦略を構築する際に事業推進のための原動力となるもの。様々な原動力の社会的および産業的な位置づけを、パラメーター注入より数値化したのが17年度版である。戦略マップ作成の主軸となった編集・執筆者は、日立製作所の出身で、半導体産業研究所の勤務経歴も併せ持つ松本哲郎氏である。

15年度版の概要

戦略マップのタイトルから思い浮かぶのはロードマップの提示だが、ここには一切登場しない。半導体業界で有名なITRS(International Technology Roadmap for Semiconductors、国際半導体技術ロードマップ)が16年3月にその活動を終息したように、IoT技術により異業種が連動し合うSociety5.0構築に向けては、単一業界のロードマップは意味を成さなくなっているのである。

1.きづきの作業

NEDIA戦略マップは、この認識の上に編集されたもの。まず冒頭で切り込んだのが、きづきの提案である。自社の次代を担うビジネスモデルを構築する際、きづき(気づく)の作業が入口となる。

きづきとは、社会に貢献できること、顧客が喜ぶことを模索する作業を示唆する。このとき、商品となる“モノ”の提供一辺倒に終始せず、深みと広がりのある“コト”含有の商品提供を考慮する必要がある。“モノ”とは従来ビジネスに共通するハードの提供、“コト”とはより高い付加価値の提供である。付加価値だけを提供することはできないので、“モノ”に“コト”を乗せて、市場投入することが次代ビジネスモデルの原点となる。

2.技術と市場の方向性を押さえて

モノに乗せるコト(付加価値)を模索する際、注意したいのが技術と市場の方向性である。

IoTビジネスの世界を念頭に置くと、技術では4つの方向性が重要である。(1)無給電、(2)自己成長、(3)意味理解、(4)百年耐久。(1)は電源の心配から解放。(2)は新品への買い替え要求を抑制し、AI(人工知能)などの有効活用で既存製品のままソフトウエアで対処する。(3)はビッグデータの活用で、状況を推定する技術。そして(4)が文字どおり、長寿命化技術である。

一方、市場の方向性の視点からは、3つの言葉が浮上する。(1)驚き提案、(2)自分仕様、(3)隠れた機能である。(1)はドローンやお掃除ロボットなど、顧客をわくわくさせ、購買意欲を生む商品開発。(2)は自分だけのために開発された商品。オンリーワンであってこそ、購買意欲が強くなる。(3)は安心や安全、セキュリティーなど、商品が持っていて当たり前のコトを意味する。

3.きづきを得る手法

かつてビジネスのコアとなったのは、パソコンとインターネットである。現在、この2製品で商機を見出す企業はほとんど存在しない。同様に、話題のIoT技術も、時代の流れの中で、やがては汎用ツールになってしまう。

このことを念頭に、きづきの作業においてIoTの理解で重要なのは、リアルなビジネスの世界を、パソコンやクラウド上のバーチャルな世界に写像し、シミュレーションを実行することである。前述の技術と市場の方向性を押さえたうえで、サプライチェーンやバリューチェーンなど、様々な項目にIoTで取得したデータをパラメーターとして入力。顧客や工場などの動き(人の動き、装置の状況、商品の動きなど)をシミュレーションする。その繰り返しの中で、若い人の想像力は、顧客が求める新たなコトの存在にきづきを得ることができる。

17年度版に見るきづきの見える化

すでに起こった未来は、体系的に見つけることができる。これは経営学者であるP.F.ドラッカーの言葉であるが、ここで“すでに起こった未来”とは、変化を意味する。新しい技術は、必ず変化を引き起こす。変化の起きない新技術は、次代が求めていない存在でしかない。まずは、この変化に気づいて(きづき)こそ、次代のビジネスモデルを体系化して会得することができる。

変化に気づき、体系化するには、インパクト評価が重要になる。インパクト評価とは、新しい技術が社会やマーケットなどに対して、どれだけの重み、影響を与えるかを推し量ること。評価を推察するには、評価のポイントが必要だ。いわゆる評価を行う視点としての“みちびき”のツールである。

そのツールは全4つ。(1)変化、(2)規模、(3)波及、(4)実現性である。(1)はトレンドや価値の変化を意味する。(2)はターゲット市場の規模や経済規模。(3)はアプリケーション分野の広がりである。そして、(4)は新技術がどのような環境下にあるか。狙う市場が医療関連であれば、規制などの障害を覚悟しなければならない。

この4つを導きのツールとして利用し、技術インパクト、ビジネスインパクト、社会インパクトのそれぞれの評価を実施する。技術インパクトとは、トレンドを超える、あるいは変えるなど、他分野への波及を意味する。残り2つのインパクトとは、市場規模や事業モデルのことで、社会生活の変革も含有するインパクトである。

これがきづきを見える化する第一歩である。

では、17年度版で提示された4つのインパクト評価を見てみる。

1.モビリティー/ヘルス分野技術のインパクト評価

モビリティー領域におけるインパクト評価では、やはりセンサーと自律処理による自動運転が筆頭にくる。そのほか、水素エンジンや燃料電池システムも強いインパクトをもたらす。

モビリティーを広義に捉えれば、ドローンが登場してくる。ドローンはもはや、ヘリコプターの代わりではなく、新サービスを提供するハード製品。とりわけ、新感覚(視座)を獲得したインパクトが強い。

ヘルスに関しては、介護ロボットやICTを実装する介助ロボット、遠隔治療、見守りデータ、ロボット診断などの言葉が、強いインパクトとして浮上してくる。ただし、同分野は規制事項も多いため、波及が抑え込まれている傾向がある。

今後、高齢化社会が加速していくに伴い、被介護者と介護所の需給ギャップが拡大。介護側が外国人や老々介護に依存するのも限界で、やはり介護ロボットの必要性は不可欠となっていく。

戦略マップ2017では、これら新技術の1つ1つにパラメーター分析をするとともに、直近重視、開発重視、社会重視の3領域に分割し、きづきの見える化をさらにもう一歩、前に踏み出した。その結果、直近重視の技術としては、電子化医療管理、HV/電動化、見守り安全、燃費改善、航空機電動化などが浮上。開発重視では、介護者支援ロボット、遠隔精密検査、スマート交通、健康管理センサーが浮上した。社会重視に関しては、事故防止、遠隔治療、癒しロボットが高得点を獲得した。

2.プロダクト/バリューチェーン技術のインパクト評価

プロダクトとは、電子デバイスなど最終商品を実現する製品のこと。ここではデータセンターに不可欠な次世代コンピューティング、アクチュエーター、バッテリー関連が大きなインパクトをもたらすことになる。

ただし、課題はこれらの新技術を自社製品、自社工場などに実装できるか否か。実装できる企業とできない企業の格差が生まれ、その格差が大きくなると、実装できない企業は切り捨てられることになる。これはIoTの崩壊である。企業や人を選ばず、誰もが利用できる電子デバイス技術、利用環境が求められる。

一方、市場の仕組みを構成するバリューチェーンでは、次世代メモリーや3Dプリンターを活用した機電一体型モジュール、少量超多品種対応の生産システムと生産ライン、スマート工場、高速伝送インターフェースなどがインパクトを与える。

これら技術群にもパラメーター分析すると、直近重視の技術としては、次世代通信、低損失パワー、コンパクトライン、部品埋め込み基板が顔を現す。開発重視では、高速伝送インターフェース、次世代FPGA、非ノイマンデータ処理、接続容易性など。社会重視としては、不揮発メモリーシステム、状況分析自動運転、各種センサーが浮上してくる。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松下晋司

投信1編集部からのコメント

記事内で技術インパクトとして挙げられているFPGA、3Dプリント、自動運転、次世代メモリは、確かにホットなトピックです。ただ一方で、現在すでに形が見えているものでもあります。もっとも、IoTの情報を吸い上げた先にあるデータセンターで使われるCPUやデータセンターの運営を、日本勢が語れないというつらさがあることも同時に認識しておくべきではないでしょうか。

電子デバイス産業新聞×投信1編集部

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