どう転んでも株価下落は避けられない? 米税制改革のリスクシナリオ

米財務長官とFRB高官、異なる見解で同じ結果を懸念

米財務長官が、税制改革に失敗すれば株価が暴落しかねないと発言している一方で、米連邦準備制度理事会(FRB)高官は成立することによる株価調整を懸念しています。今回は、両者の主張を中心に米税制改革に潜むリスクシナリオを整理してみました。

米財務長官、財政改革失敗なら株価は上昇分を失うと警告

ムニューシン米財務長官は18日、「税制改革への期待感が株高を支えていることは間違いない。失敗すれば上昇分のかなりの部分を失うことになるだろう」と述べました。

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翌19日、米上院では2018年度(2017年10月から2018年9月まで)の予算案が可決されました。税制改革によって10年間で1.5兆ドルの減税を容認する内容となっており、税制改革法案の可決に向けて大きく前進しています。

上院で議案を通すためには、議事妨害を回避するために通常であれば100議席中60議席が必要ですが、予算案を通過することで財政調整法の利用が可能となり、過半数で議案を可決することができるからです。共和党は現在、上院で52議席を確保していますので、共和党がまとまりさえすれば税制改革法案を成立できる状況が整ったことになります。

ただし、オバマケアの改廃案も予算決議を通過しており、過半数の51議席で可決が可能となっているにもかかわらず、共和党内からの造反で可決できない状況が続いています。

また、財政調整法で実施できる減税“期間”は予算案によって制限されますので、恒久減税にはなりません。10年間程度の時限立法になりますので、10年後はどうなるかわからない“不確定”な減税政策ということになります。

トランプ政権が打ち出している税制改革案には、法人税の20%への引き下げ(現行は35%)が盛り込まれており、ムニューシン長官は株価の連日の最高値更新を支えているのは減税への強い期待感だと訴えています。税制改革ではオバマケアのような失態は許されないことから、株価の急落を示唆することで共和党内からの造反にクギを刺したといえそうです。

FRBは税制改革による景気刺激を織り込んでいない

税制改革への楽観論が株価を押し上げているとの見方がある一方で、税制改革はまだ市場に織り込まれていないとの見方もあります。ニューヨーク連銀のダドリー総裁もその一人です。

ムニューシン長官が“警告”を発したのと同じ18日、ダドリー総裁とダラス連銀のカプラン総裁はニューヨーク市内で開かれた討論会へ出席し、税制改革が株価の調整を招く恐れがあると警鐘を鳴らしています。

主な理由として、タイミングの悪さとFRBの見通しにはまだ税制改革が織り込まれていないことを挙げています。

ダドリー総裁は「税制の簡素化などで企業の投資が加速すると同時に、生産性が向上する」と述べ、税制改革は景気にプラスと評価しています。

ただし、「景気は極めて順調であり、景気後退に対する耐久性が弱いということはない」と指摘。加えて、「景気の拡大が長期に及んでも景気後退の理由にはならない」とも述べています。景気が好調であることから景気刺激策は不要であり、景気刺激策を発動するには「タイミングが悪い」との見方を示しています。

また、ダドリー総裁は最近のインフレ鈍化は「意外」としながらも、現在は完全雇用かそれに近い状態にあることから、賃金はやがて上昇を始め、インフレ率もいずれ上昇するとの見方を崩していません。

同総裁は、「FRBの景気見通しに税制改革は織り込まれていないので、税制改革案が成立するのであれば、景気が刺激されてインフレが加速し、FRBは引き締めを急がざるを得なくなる」とし、FRBが現在の見通しよりも積極的に利上げに取り組んだ場合には、リスク資産の価値を急降下させる恐れがあることを心配しています。

ダドリー総裁、「投資家は金利上昇に無関心」と警鐘

同席したカプラン総裁は「財政赤字でファイナンスされた減税は、短期的には景気を押し上げるかもしれないが、しばらくすると景気は元のトレンドに戻り、財政赤字は減税の実施前より拡大する」と語り、減税による財政収支の悪化を懸念しています。

また、「雇用環境が良好であるにもかかわらず、負債を増やしながら減税を行うのは将来、反動がある」とも述べ、将来的な景気への悪影響を指摘しています。

ダドリー総裁は、「低金利政策が政府債務のコストを抑えてきたが、FRBが短期金利の引き上げを始めたことで政府債務のコストも上昇し始めている。状況が大きく変化するかもしれないのに、投資家は世界中で政府債務が膨張していることにまったく焦点を当てていない」と語り、投資家が金利上昇リスクに無関心となっていることを警戒しています。

税制改革は「持続不可能」な成長を促進、最後はバブルで終わる?

ムニューシン財務長官は「(税制改革を)市場は織り込んでいるがまだ100%ではない」と述べており、また「株価はまだ上昇するだろう」とも発言していますので、税制改革の年内成立見通しが維持され、実際に成立した場合には株価はさらに上値を目指す可能性もありそうです。

ただし、同長官も警告している通り、失敗すればかなり大幅な調整も予想されますので、税制改革法案の行方には細心の注意が必要です。

また、FRB高官の指摘にあるように、法案が成立したとしても油断は禁物です。FRBの金利見通しでは年内の追加利上げが1回、来年は3回の利上げが見込まれていますが、この見通しには法案の成立が織り込まれていません。

法案成立後、インフレ見通しの上昇などから利上げペースが速まる恐れがありますが、債券市場では法案成立を見越した金利上昇リスクはほとんど織り込まれた様子がうかがえません。

ダドリー総裁やカプラン総裁と同様に、サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁も税制改革の景気への悪影響を懸念しています。同総裁は10月5日、生産性向上と潜在成長率押し上げに取り組まない限り、税制改革は「持続不可能」な成長を促すと述べ、最後は資産価格のバブルやインフレ、景気後退で終わりかねない、との見方を示しています。

投信1編集部

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