アセアン内の競争激化の中、岐路に立つフィリピン

アジアの着実な成長と資産のアジアシフト(9)フィリピン

アジア地域内各国の成長見通しを国別に見ていく第9回目は、ドゥテルテ政権下で実質GDPの高い成長率が継続できるかが注目されるフィリピンを取り上げます。

2012年以降、年率6%を超す高い実質GDP成長率を記録

タイやマレーシアなどでは1980 年代から産業振興策を手掛けて、着実に工業化による経済成長を遂げてきましたが、フィリピンは、実質国内総生産(GDP) 成長率で見ると1980年代は年平均2.0%、1990 年代に入っても同2.8%と低成長にとどまりました。フィリピンは、産業振興では、外資導入と輸出製造業を中心とする工業化政策では、出遅れてしまったのです。

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さらに、フィリピンでは、むしろ国内産業保護政策が採られたため、財閥や地主などによる経済の寡占化が進み、治安悪化や自然災害などの不運も重なって、外資の流入は極めて限定的にとどまりました。そして、国内の産業が育たず、雇用機会もフィリピン国内には増加しなかったことから、英語が得意な点を生かして、海外に職を求めるフィリピン人は年々増加していき、政府も産業政策の無策を補う形で、これを後押ししました。

国外で雇用されるフィリピン人(OWF)人口は約1,024 万人(人口の約1 割・2013 年)、送金額は256 億ドル(GDP の1 割弱・2015年) に上るという統計もあるほどです。こうした収入が、民間消費と経常黒字を支えるといういびつな経済に特徴があります。

2000 年代に入ると、BPO(Business Process Outsourcing:ビジネス・プロセス・アウトソーシング)産業が注目され始めました。米国やアジアを拠点とする様々な業種の企業がフィリピンをBPO先として、各種のプロセシングを外部委託するようになったのです。

フィリピンは、人口が2014 年に1 億人を突破、年率2%のペースで増加し、平均年齢は24.2 歳と若いという特徴があるため、①豊富な労働供給が長期的に亘って期待できます。また、②人件費が低いこと、③英語を話せる質の高い労働力が豊富であることも、BPO拠点としてのフィリピンへの注目を高めている理由です。

ファンクションとしては、コールセンターやトランスクリプション、ソフトウェアやコンテンツの開発など、実に多種多様に及びます。2014 年には業界全体の売上高は184 億米ドル、雇用者数は約103 万人でしたが、2016 年には売上高250 億米ドルに達し、雇用者数も130 万人に拡大しています。

こうした追い風もあって2010年以降、民間消費は拡大し、GDP 比(2015 年)で 69%を占めるまでになりました。原油安などにより消費者物価上昇率が2015 年1.4%、2016 年1.8%と低位安定してきたことも消費にはプラスに働き、世界経済が減速し外需が低迷するなかでも、2016 年の実質GDP 成長率は6.8%と、安定した成長を果たしました。

アキノ前政権下で公共支出を安定して拡大させてこともあって、2012 年以降は年率6%を超す高い成長率を記録しています。また、人口拡大が続き、長期的に消費市場の成長ポテンシャルが高いことから、消費財製造業や消費者向けサービス産業の投資も拡大が見込まれます。

ただ、製造業の直接投資は周辺国とを比較するなかで、相対的に市場規模が大きく産業集積が進むインドネシアや、中国華南地域とアクセスが良く政治が安定しているベトナムなどが選好される傾向にあるのも実情です。今後は、アセアン各国間の競争環境も一段と厳しくなると予想され、周辺国との投資誘致競争に勝つには、政治外交の安定に配慮するとともに、経済改革、インフラ整備を積極的に推進する必要があります。

ドゥテルテ改革の本格化が期待される2017 年

GDP前年比6%超の高成長を持続するには、引き続きいっそうの投資拡大が必要と言われていますが、ドゥテルテ政権は、前政権からのマクロ経済政策を踏襲する予定で、インフラ開発を柱の一つに据え、成長を維持する考えです。政府は2017年の経済成長率の目標を6.5~7.5%に設定しています。

世界銀行(2016年12月発表)もフィリピンの2017年の成長予測を6.9%とし、2018年見込みも7.0%と予測しています。ドゥテルテ政権はインフラ予算のGDP 比を2015 年の4%から5~7%に引き上げ、2017-2022 年に合計8.2兆ペソ(約19.4 兆円) を支出する計画を公表しています。前政権同様に官民連携(PPP) 事業も積極的に推進する方針で、鉄道施設・港湾開発など大型のプロジェクトには、外国企業の事業機会も拡大させる見通しです。

やや心配なのは、2017年第1四半期のGDP成長率が前年同期比6.4%、第2四半期が同6.5%とと、やや軟調な数字になっていることです。この数字は、アキノ政権時に記録した2015年第4四半期の6.3%以来の数字で、経済政策の効果が政府の思惑通りには行っていないことの表れではないかとの指摘があります。

製造業が昨年同期の成長率9.1%から6.1%と大幅に減少し、輸出不振の傾向が表れていることや、サービス業の成長率が7.5%から6.8%に、家計消費も7.1%から5.7%へ減少とやや心配な状況です(数字はいずれも第1四半期)。フィリピンの輸出先である中国経済の見通しや、アメリカとの政治的に微妙な間合いからの影響が懸念されており、ドゥテルテ政権が設定している高成長率が今後も維持できるか市場は注視しています。

出所:フィリピン政府統計局・OWF局

Nippon Wealth Limited 長谷川 建一

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長谷川 建一
  • 長谷川 建一
  • ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク
  • 取締役兼CIO (Chief Investment Officer)

京都大学卒、MBA(神戸大学)。 シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。
2004年末、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に移り、リテール部門マーケティング責任者として活躍。2009年からは国際部門でアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク)にてCOOに就き、2017年3月よりCIOを務める。