クイーンズ伊勢丹を買収した「投資ファンド」って何?

2017年10月23日、小売業界を驚かせる発表がありました。三越伊勢丹ホールディングスの連結子会社で、高級食品スーパー「クイーンズ伊勢丹」などを運営する三越伊勢丹フードサービスが同社の食品スーパー事業を新会社として分割し、その新会社の株式のうち66%を投資ファンドである丸の内キャピタルに譲渡するというのです。

こういう報道のたび「食品スーパーがなぜ投資ファンドに売却されるの?」「そもそも○○キャピタルって何?」という声が聞こえてきます。そこで今回は、投資ファンド(ファンド)とは何か、なぜ企業がファンドに事業を売却するのかなどについて見ていきます。

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丸の内キャピタルは銀行と商社が株主のファンド

そもそもファンドとは、複数の投資家から集めた資金を一つにまとめて投資をし、そこで得た利益を出資者に分配するしくみであったり、それを運営する組織などを指します。お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、実は投資信託も同じしくみです。今回の主役である丸の内キャピタルは「企業に投資する」タイプのファンドです。

丸の内キャピタルは三菱商事と三菱東京UFJ銀行が株主であるファンドです。同社の特徴としては、株主であるこの2社の顧客基盤を活用した投資案件の発掘と三菱商事の持つグローバルでの事業ネットワークを活用できるという点をあげることができます。

三越伊勢丹ホールディングスの主要取引銀行が三菱東京UFJ銀行であることを考えれば、業績改善がうまくいかない事業をメインバンクが株主であるファンドに売却した、という構図が見えてきます。

事業会社が事業を手放すとき

一般的に、事業会社が事業の一部を手放すのはどのような時なのでしょうか。たとえば自分たちでは改善できなかった事業を改善できるファンドのプロに譲渡する、というのは一つの選択肢です。

銀行からすれば、貸出先では業績改善の難しい案件をファンドに移管し、貸出先企業のリスク管理をすすめたともいえます。

とはいえ、メインバンクが株主であるファンドが事業を引き取ったということであれば、メインバンクからすれば、これまでにない緊張感も生まれます。これまでは「貸出」であったものが「株式投資」へと切り替わるからです。

ファンドといってもいろいろある

企業に投資するタイプのファンドと一口に言っても様々なファンドがあります。上場企業か未上場企業かという投資対象の違いであったり、企業の成長ステージをもとに分類したり、投資アプローチであったり、切り口によってファンドの名前は異なります。

一般的にファンドは外部からも資金を集めます。その資金は金融機関や事業会社から拠出されることもあります。したがって、今回のように銀行が株主だからといって、ファンドに拠出される資金が必ずしも銀行からのものだけとは限りません。

ファンドは外部から資金を集めている以上、投資した金額よりも高い価格で売却しなければなりません。ファンドと投資先の間に「永遠」という言葉は(結果的にそうなってしまっているものを除いて)存在しえないのです。ファンドは投資する前から必ず投資案件の「出口」を探ることになります。

上場企業の一部に投資するファンドであれば、株式市場で売却することも可能ですが、未上場企業に投資するような場合であれば、投資先に興味のある企業に買い取ってもらうか、新たに株式市場に上場させるか、はたまた同じようなファンドに売却するかといった選択肢の中から選ぶことになります。

今回は丸の内キャピタルがクイーンズ伊勢丹を運営する新会社の株式への投資を決めたわけですが、今後は収益を改善して価値を高めて外部に売却するといった選択肢をとるものと思われます。ちなみに丸の内キャピタルが過去に投資をした高級食品スーパーの「成城石井」については、2014年10月にローソンに譲渡しています。

未上場株式へ投資を行うファンド

ここまで読み進めた読者の中には、丸の内キャピタルのように社歴のある「クイーンズ伊勢丹」のような企業に投資をするファンドと、新規上場を目指すベンチャー企業に投資をする「ベンチャー・キャピタル(VC)」の違いは何かという疑問もわいてくるのではないでしょうか。

いずれも未上場企業に投資をするファンドを「プライベート・エクイティ(PE)」と呼びます。PEは投資先企業やその手法の違いにより細分化されます。VCはPEの中でも創業されて間もない企業へ投資することが特徴といえます。

PEは「バイアウト」や「ディストレス」といった切り口で成熟企業に投資がされることも多く、VCは成長企業に投資をするものだと考えると理解がより進むでしょう。

様々なスタイルのファンドがあるとはいえ、PEには、金融機関や年金基金、事業会社などが資金を拠出しているケースがよく見受けられます。投資家が自分たちの資産を運用する際、PEの投資スタイルや投資先企業のステージを選別し投資をしているというのが実際です。

ハゲタカは何ファンドなのか

ところで「ファンド」というと、日本人であれば「ハゲタカ」を連想する人が多いかもしれません。

ハゲタカがたおれた獲物の肉をついばんでいくように、ファンドが経営不振に陥った企業の事業を切り刻んでいくイメージを重ね合わせているのでしょう。特にPEのうち「ディストレスファンド」と呼ばれるものの一部がこうした印象を持たれているようです。

また、これはPEが成熟した企業の再生を図り、企業価値をより高めるためのプロセスのうち、一部事業や資産を売却するシーンの一片を切り取ったものだともいえます。

PEも事業を整理することがありますし、VCも投資先に事業譲渡を迫ったり、すすめたりすることもあります。したがって、PEだけが残酷な要求をする投資家というわけではありません。

目立つ投資家としての存在は他にもあります。続いてアクティビストについてみていきましょう。

アクティビストは何者なのか

かつてソニーに対してエンタメ事業の切り出しと米国の上場を迫った米国のファンドがありましたが、彼らはファンドの中でも「アクティビスト」と呼ばれています。

彼らはファンドとして、ソニーのような上場企業に投資し、経営者に改善策などをうながし、企業価値の向上を図ろうとします。最近はマスメディアなどを上手に使い、株価が上がってしばらくすると売却していたりもします。

上場企業に投資するメリットは、上場しているので常に株価がついていること、また時価総額の多寡は関係するものの流動性を確保できるという点です。

ただし、上場企業には一般的に株主が多数存在し、いくらファンドといっても発言力を持つポジションを作るためには時価総額に応じた資金量が必要です。ファンドとして経営にしっかりと入り込んで企業価値を高めるためにはPEやVCの方が手が届きやすいといえるでしょう。

余談ですが、アクティビストはメディアでは悪役の様に取り扱われることも多いですが、彼らはまさに「役者」です。アクティビストは自分の思いを経営者だけではなく、様々なステークホルダーも含めた外部に発信して同じ思いを共有できる状況を作り出そうとします。

ただ、アクティビストに資金を拠出している投資家の存在も忘れてはいけません。アクティビストに資金という力を与えているのは投資家です。アクティビスト自身がファンドに投資をして投資のリターンを得ようとしている場合もありますが、アクティビストが目立つ動きをして利益を手にするのは資金を拠出している投資家です。ここにアクティビストが「役者」で、投資家が役者を支える「支援者」という構造が見えてきます。

あなたの年金や投資信託を運用するのもファンド

こうしてみてくると「私はファンドとは関係ない」とお考えの方もいるかもしれません。

ただ、先にも述べた通り、ファンドとは複数の投資家から資金を集めて投資・運用するしくみであったり組織を指します。つまり、皆さんの年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)や投資信託を運用するのもいわゆるファンドなのです。

こうしたファンドは株式だけではなく、債券や不動産、時にはヘッジファンドやPE、VCにも資金を拠出しています。あなたに関係するお金がPEやヘッジファンドに投じられているケースもあるでしょう。

したがって、ファンドと耳にした際には、ファンドやファンドを運用するファンドマネージャーだけではなく、どのような投資対象に投資をしているのか、またそのファンドに投資をしている投資家は誰なのかを考えていくと、その背景が理解しやすくなります。

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