次期FRB議長の決定が大詰めを迎えています。さまざまな憶測が飛び交っていますが、今回はテイラー・ルールを中心に米金融政策の行方を少し大胆に展望してみたいと思います。

FRBの現体制はテイラー・ルールに強く反対

テイラー・ルールとは、スタンフォード大学のジョン・テイラー教授が1990年代前半に考案した適正な政策金利の水準を求める関係式のことです。経済変数をインプットすることで簡単に求められ、変数に何を採用するのかによって幅広いバージョンが存在しますが、いずれにしてもシンプルで分かりやすいモデルであることに特徴があります。

一般にテイラー・ルールは経済指標を基に機械的に政策金利を決めるルールと認識されており、FRBは柔軟性に欠けることを理由に導入には強く反対しています。

たとえば、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は、テイラー・ルールを採用していた場合、今回の景気回復局面での雇用創出は実績より250万人少なかったと分析し、もしルールに従っていたら壊滅的な影響があったと主張しています。

また、ボストン連銀のローゼングレン総裁は、金融危機の際にはテイラー・ルールが示唆するよりも速いペースで利下げが実施されていたことを挙げ、ルールに従っていれば既に深刻であった景気の悪化を増幅していた可能性があると指摘しています。

テイラー・ルールの定説は誤解、利上げペースは加速しない?

こうした見方に対し、テイラー教授は10月13日、ボストン連銀主催のカンファレンスで、テイラールールはFRBの手足を縛るものではなく、一般の認識には誤解があると説明しています。

オリジナルのテイラー・ルールでは、定数項にある実質均衡金利が2.0%と推計されており、これをそのまま当てはめると、現在の適正金利は3.75%程度になります。実際の金利は1.00-1.25%の間で推移していますので、テイラー・ルールの推計値はずいぶんと高い数字であることが分かります。

テイラー教授は次期FRB議長の候補に挙がっており、マーケットではテイラー氏が議長となった場合には利上げペースが速まるのではないかと恐れられています。

しかし、テイラー氏はマーケットは2つの点で誤解していると述べています。

まず、推計値や推計式に対する誤解です。

テイラー氏の推計は1990年代初頭までのデータに基づいており、現在とは違っている可能性を排除していません。サンフランシスコ連銀の推計によると、現在の実質均衡金利は0%近辺まで低下している可能性があるとしています。実質均衡金利は0.75%程度とするのがFRBのコンセンサスと見られており、テイラー氏はこうした推計値を容認する構えです。

アトランタ連銀はテイラー・ルールを独自に修正したモデルに基づく適正金利水準を公表していますが、10月13日現在では2.94%と推計されています。このモデルでは、実質均衡金利を2.0%としていますが、0.75%ならば適正金利は1.69%にまで低下します。

また、イエレンFRB議長は1月の講演でテイラー・ルールに触れ、独自のモデルを紹介しています。このイエレン・モデルによると10月現在の適正金利水準は1.33%と推計されますので、現在の政策金利とほぼ同じとなることがわかります。

テイラー氏は、同氏のモデルを絶対とは考えておらず、モデルの選択はFRBの自由だと述べています。たとえばイエレン・モデルを採用しても問題ありません。したがって、テイラー・ルールを導入したからといって、利上げペースが速まるとは限らないわけです。

ルールからの逸脱も可能

2つめはルールからの逸脱に対する誤解です。

テイラー・ルールは機械的に政策金利を決めるツールとされていますが、ルールの変更が自由であることから、本人は機械的であることを否定しています。具体的には、均衡金利の推計値や目標となるインフレ率、失業率などは時間の経過とともに適宜変更可能というスタンスです。

テイラー氏はモデルを明示することが重要なのであって、モデルから算出される数字はあくまでも指針であり、正当な理由があるのであれば、ルール上の数字からは逸脱してもよいと主張しています。

ただし、なぜルールから逸脱しているのかについてはしっかりとした説明を求めており、その説明のためには明示的なルールが必要であり、モデルがなければ説明が曖昧になると考えています。

FRBの監視強化が目的