昭和オヤジの「中小企業ゴキブリ論」は今も通用するのか?

書評 『「上に立つ人」の仕事のルール』

MAHATHIR MOHD YASIN / Shutterstock.com

本人の「これが限界」はまだ80点?

舞台はバブル期の大阪。主人公の青年は大学新卒で小規模のビル管理会社に入り、社長室に配属、創業者である会長兼社長の秘書役として働くことになる。会長は社員の間で「オヤジ」と呼ばれており、アクが強い。

この第二の主人公であるオヤジがコテコテの大阪弁で、青年を厳しく(もあたたかく)指導する。連日のように「アホ」「ボケ」「帰れ」と罵倒され、ときには書類を投げつけられながらも、主人公は仕事のやり方、リーダーとしてのビジネススキルを学んでいく。

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「上に立つ人」の仕事のルール』はビジネス書だが、23のストーリーから成る小説仕立てになっていて読みやすい。読みやすいが、すべて実話に基づくというだけに含蓄があり、どれもなるほどとうなずける。部下を持つ管理職だけでなく、後輩の教育に悩む中堅社員にも参考になる内容だ。

「あえてダメを出せ」という話では、新しい会社案内をつくるようオヤジに命じられた主人公が、何度もダメ出しをくらいながら見事な会社案内を完成させる。オヤジはダメ出しを続けた理由をこう説明する。

「仕事をやっている本人は、『これが限界』『これで最高』と思っている。だが、そこはまだ八十点。すでに合格点やけど、もう一段上を目指せる。そういうケースもあるわな。ダメな上司は、そういうときに『まぁ、いいか』と妥協してオーケーする。これでは、最高のものはできへん」

「……だから、ワシは、多少出来が良くても最初はあえてダメを出す。……本来、改善や改良にゴールはない。今回の場合、お前の薄っぺらい自己満足とへっぽこ上司どもの妥協が、ゴールになりかけとった。それをワシがくい止めたわけや」。

これはトヨタ流のカイゼンにもつながる話であろう。

同じように「責任を転嫁するな」「会社全体を見ろ」「子どものように育てろ」「結果を恐れず行動しろ」「信念を持って叱れ」「失敗にくじけるな」「本業に力を注げ」といった各ストーリーで、オヤジのビジネス訓が出てくる。

ゴキブリはなぜ生き残れるのか

シビレたのが、最後23番目の物語。タイトルは「ゴキブリのように生き残れ」だ。身もふたもない表現だが、これがいい。なじみの寿司屋でオヤジは「中小企業ゴキブリ論」なるものをぶつ。

「おい、ゴキブリは怖いか?」(オヤジ)、「はい。怖いです」(主人公)、「なんでや?」(オヤジ)、「見た目が気持ち悪いからです」(主人公)、「それだけか?」(オヤジ)、「殺虫剤をかけたり、叩いたりしても、なかなか死ななないからかもしれません」(主人公)、「ゴキブリはしぶといからな。ほかにないか?」(オヤジ)、「すばしっこいから怖いのかもしれません」(主人公)。ここでオヤジは「それや!」とテーブルを叩いて大声で叫ぶ。

さらに、「太古の昔からゴキブリは生き残っとる。とんでもない生命力や。あいつらは小さい。攻撃力もない。そやのに、なぜ生き残ることができたんや?」と問いかけ、「まずゴキブリは、なんといってもスピードが速い。そして、普段は目立たへん。小さなすき間でひっそりと生きとる。しかも少しの物音にも俊敏や」と説明する。

「中小企業は、ゴキブリのようにならなあかん。スピード、隙間、敏感。この三つを常に意識する。そうすれば大手も怖がる存在になれる。中小企業の生き残りのコツは、そこにあるんや」。

つまり、①何ごとも素早く決定し、素早く行動に移し、常にスピードを追求する。②大企業が手を出さないようなすき間、ニッチな分野に特化して徹底的に強みを磨く。③顧客のニーズ、世の中の動きをどこよりも敏感に察知する。この3点を意識し、ゴキブリのようにしぶとく生き残ろうというのが、オヤジの「中小企業ゴキブリ論」だ。

なるほど、個人も同じではないかと思う。要領よくスマートなほうがカッコイイし、デキるビジネスパーソンのように見えるが、先行き不透明ないまの時代には、しぶとさやしたたかさも必要だろう。いつリストラにあうかもしれず、左遷されるかもしれない。泥臭くカッコ悪くてもいい、それでもたくましく生きていく力…。

時代が変わっても原理原則は変わらない

著者はあとがきに、「本書に出てくるエピソードは、二十年以上前のものばかりです。当時と比較すると、社会の環境も、人々の意識も、大きく変化しました。しかし、いくら時代が変わっても、決して変わらないものもあります。それが、原理原則であり、仕事のルールです。オヤジは、いつの時代も変わらない仕事のルールを私たちに教えてくれたのです」と書いている。

この言葉には説得力がある。実は著者は、大阪に本社のあるビル管理業務を主力とする日経サービスの社長。本書の舞台である。オヤジは同社の創業者。同業のビル管理会社がオフィスやマンション、商業施設などの大市場を狙う一方で、同社は大学と病院という狭いマーケットを中心に展開し業績を伸ばしてきた。同市場では関西トップクラスのシェアを誇るという。

本書で主人公が入社した時の年商は28億円となっているが、2017年に創業50周年を迎え、現在の年商は約120億円に達する。まさに中小企業ゴキブリ論の実践のたまものといえよう。

苦労して成功した中小企業のオヤジが新人のボクに教えてくれた 「上に立つ人」の仕事のルール

嶋田有孝 著(日本実業出版社)
1400円(税抜き)

田之上 信

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1969年京都生まれ。ライター。業界紙記者、雑誌編集者を経てフリーに。
ビジネス、医療関連分野を中心に取材、執筆。大衆酒場好き。