先週は、米連邦公開市場委員会(FOMC)、共和党下院からの米税制改革案、次期米連邦準備制度理事会(FRB)議長指名、米雇用統計と重要イベントが盛りだくさんの1週間となりました。今回はこれら一連のイベントを簡潔に整理し、今後のポイントをまとめてみました。

FOMCでは景気判断を上方修正、ただし賃金の伸び低く先行きに不安も

FOMCでは、声明文での文言が「経済活動は緩やかに拡大している」から「経済活動は堅調に伸びている」へと景気判断が上方修正されました。これは、7-9月期のGDP成長率が前期比年率+3.0%と予想を上回る好調さを示したことが背景となっています。

ただし、在庫と純輸出の寄与が大きく、個人消費を柱とする内需はそれほど強いわけではありません。7-9月期の個人消費は前期比年率+2.4%と前期の+3.3%から大きく減速しており、同様に在庫と純輸出を除いた国内需要は+1.8%と前期の+2.7%から低下しています。

株高の影響もあって10月の消費者信頼感指数は2000年以来の高い水準まで上昇しています。しかし、賃金の伸びが低いことから、所得の伸びが消費に追い付いておらず、9月の貯蓄率は2007年12月以来の低水準となっています。

10月の米雇用統計では、雇用者数が大幅に増加し、失業率も低下したことから、雇用情勢の改善を示唆する内容となりましたが、同時に賃金の低い伸びも確認されました。

家計は貯蓄を取り崩して消費を拡大していますが、こうした状態が持続可能とは考えづらく、10月の雇用統計で賃金の伸びが低下したことは、個人消費の先行きに暗い影を落としているといえそうです。

次期FRB議長にパウエル理事を指名、注目は副議長の人選へ

次期FRB議長にはパウエル理事が指名されました。

トランプ大統領は就任以来の株高を自らの成果として自画自賛していますが、ウォール街では株高はイエレン議長の手腕との評価が一般的です。

CNBCのフェド・ウォッチでは、10月20日時点の次期FRB議長の予想はパウエル理事が45%と、イエレン議長の13%を大きく引き離していましたが、「誰が指名されるべきか」との質問にはイエレン氏が44%とパウエル氏の17%を圧倒していました。

パウエル理事の運営能力が未知数であることもあり、議長交代を不安視する声も少なくないようです。

過去3回の新議長発表の際には現・新議長が出席していましたが、今回はイエレン議長の姿がありませんでした。1期4年という異例の短さでの退任は、事実上の更迭とも見られています。同議長は2024年まで理事として残ることが可能ですが、これまでの慣例に従い議長の任期が切れる来年2月で退任する見通しです。

イエレン議長が退任した場合、トランプ大統領はFRBの理事7人のうちあと4人を指名できることになります。既に承認されたクオールズ理事(銀行監督担当副議長)を含めると5人がトランプ氏の指名となり、近い将来“トランプのFRB”が発足することになりそうです。

パウエル理事の昇格でイエレン体制が継承されるとの見方もありますが、パウエル新議長は共和党員であり、また現体制に批判的なクオールズ理事の推薦を受けていたことなどを考え合わせると、政策運営が様変わりしないとも限りません。

年内には副議長も指名される見通しで、議長候補だったジョン・テイラー氏も引き続き副議長候補に挙げられています。誰が副議長に指名されるのか、パウエル新体制の方向性を見極めるヒントとして注目されそうです。

税制改革案、焦点は優遇税制廃止の扱い

2日には共和党下院が税制改革案の一部を公表し、大型減税実施に向けて本格的に動き出しました。今後の焦点として、優遇税制廃止の具体的な落としどころが注目されています。

減税による歳入減は6兆ドル程度と見積もられていますが、予算審議で認めたられたのは10年間で1.5兆ドルの財政赤字の拡大でしたので、この差額を埋める必要があります。

税制改革では歳出の削減はほとんど盛り込まれていませんので、差額のほとんどは優遇税制の廃止で穴埋めされる見通しです。ただし、優遇税制廃止による歳入の増加は4兆ドル程度との試算もあり、赤字額は1.5兆ドルに収まらない恐れがあります。まずは赤字額が1.5兆ドルに収まるように調整できるのかどうかがポイントとなりそうです。

優遇税制の廃止で議論の中心となっているのが州・地方税(SALT)の税控除廃止です。改革案ではSALTの税控除廃止で1.3兆ドルの確保を見込んでいますが、税率の高いニューヨーク州やカリフォルニア州の中間所得層への打撃が大きいことから、これらの州の議員から強い反対の声が挙がっています。

下院での予算決議は賛成216票、反対212票の僅差での可決となりました。共和党からは20名の議員が反対に回っており、反対の主な理由はこのSALTの税控除廃止でした。

今回の税制改革の特徴の1つとして、税制中立でない点も重要なポイントです。通常、減税をするのであれば、それを補う歳出削減などが求められますが、今回は減税と財政赤字の拡大がセットとなっており、減税と引き換えに財政赤字を1.5兆ドル増やすことが予め決められています。

米連邦債務残高は約20兆ドルに達しており、今後は社会保障費の増大により増勢を強める見通しです。こうした状況にあることから、共和党保守派の中には、財政赤字のさらなる拡大を容認する改革案に対して懸念する声も根強く残っています。

2日の税制改革案は文字通り“案”であって、細部を詰めるのはこれからです。数字が変更されることも十分にあり得ます

ただし、年内成立を目指しており、下院での法案成立は11月23日のサンクスギビングデー(感謝祭)が期限と考えられていますので、残りは3週間を切っています。複雑な議論が必要な中で、時間切れとなることも心配されています。

LIMO編集部