神奈川県座間市のアパートで9人の遺体が見つかった事件。近年稀にみる凄惨な事件ですが、一方で被害者は殺害された9人だけではありません。

もう1人、大きな被害を被ってしまった人がいます。それはアパートの大家さんです。大家さんは、不特定多数の入居者とお付き合いしている以上、入居者の死とは常に隣り合わせになります。ところで、「ワケあり」事故物件を貸す方法はあるのでしょうか? また、こういったリスクを回避する方法はあるのでしょうか?

「大島てる」に掲載されると貸しにくくなる?

今回のような殺人事件は稀ですが、実は、入居者の「自殺」や「孤独死」は長く大家さんをやっていれば、一度くらい遭遇する人は少なくありません。

ネット上では、このような事故物件情報をまとめているサイト「大島てる」があり、「大島てる」に事故物件情報として投稿されてしまうと、新たな入居者がつきにくくなると言われます。その理由は「心理的瑕疵あり」という「ワケあり」物件として世間一般に知られてしまうからです。

実は、大島てるさんとは以前テレビ番組で共演したことがあります。

いたって普通の人でしたが、たびたび「入居者がつきにくくなった」などと裁判沙汰になっているようで、大家さんにとっては目の上のたんこぶのような存在になっているようです。

入居者の「死」のリスクは保険でカバーする

実をいうと、私のクライアントの物件で外国人同士の殺人事件が起きたり、当社の管理物件でも入居者の死に関する事故に遭遇したことがあります。死体の発見が遅れると、遺体は腐乱し体液も床下に浸透し、匂いが壁のクロスや衣類にまでついてしまうほどヒドイ状態になります。

この部屋を現状回復するだけでも、相当な費用がかかります。経験上、脱臭、壁、床の貼替えまで必要な状態だと300万円くらいかかります。さらに、リフォームをする期間は家賃も入ってきません。

しかし、近年、この入居者の死に対する保険が充実してきており、今回のような事件はもとより、これから高齢化社会を迎え、高齢者の孤独死などのリスクも高くなるため、入居者の死に対する保険は必ず入っておくべきでしょう。

ある保険会社では、年間3〜4万円(アパート10室の場合)の保険料で、一時金20万円、原状回復費用最大300万円、リフォーム終了までの家賃保証が最大6カ月まで補償されます。

入居者の相続人に損害賠償はできるのか?

今回、事件を起こした殺人犯には、当然ながら大家さんは損害賠償請求ができます。本人に支払い能力がなければ、その損害賠償義務は、連帯保証人や相続人である親御さんなどに請求されるでしょう。

自殺の場合も、同じように相続人である親御さんなどに請求できますが、実際に支払い能力に乏しいケースもありますし、また、親御さんが相続放棄をしてしまうと、損害賠償を訴追できないということもありますので、結局、入居者の死については保険でカバーするしかないのが現実的なのです。

事故物件はいつまで告知すべきか?

無事リフォームが終わっても、その物件をそのまま何事もなかったように貸すことはできません。なぜなら、入居者の「異常な死」については「心理的瑕疵あり」物件となり、重要事項説明でしっかり説明義務があるからです。

一方、他人に「看取られて」亡くなった場合、または病死などで死亡し、死後数日しか経っていない「通常の死」の場合はこの限りではありません。

今回のように殺人等の場合は当然「心理的瑕疵あり」物件として新たな入居者に告知する必要がありますが、何年くらい説明すればいいのでしょうか?

実は、「何年告知が必要か」といったものは、法律や公的なガイドラインはないため、運用がバラバラなのです。

しかし、一般的には「その事件、事故が世間から忘れ去られるまで」と言われており、入居者が2、3回入れ替わるか、もしくは4、5年経過するまで告知するケースが多いようですが、明確な規定はありません。

ちなみに、「売買」と「賃貸」では、その告知義務の重さが違います。告知をせずに売買したケースでは、「心理的瑕疵」を知っていたら買わなかったと、買主の損害賠償請求を認めたケースは少なくありません。

一方、賃貸の場合は、入居者が大家さんを告知義務違反で訴えるケースはほとんどありません。

「ワケあり」物件を借りる人はいるのか?

当然、「心理的瑕疵あり」として入居者を募集すれば、相場の家賃では決まりづらくなります。ではいったいどれくらい家賃を下げれば決まるのでしょうか?

経験上、2割くらい下げれば決まると思います。外国人なら気にせず借りる人も多く、実は家賃を下げなくても決まるケースもあるくらいです。

実はこのような「ワケあり」の家賃の安い物件を探している人もいて、さほどナーバスになる必要はありません。

また、最近流行りの民泊に転用して、回転率で稼ぐという方法もあります。当社の顧問弁護士によれば、民泊の利用者には「心理的瑕疵」を告知しなくても問題ないという見解もあります。

このような事件、事故を防ぐには?

入居者の不幸な「死」を未然に防ぐために、ある大家さんは、定期的に入居者向けのバーベキュー大会などを開催して、入居者同士が自然に触れ合える「場」作りをしています。

顔見知りになれば、自然に挨拶もでき、他の入居者の異変にも気付きやすくなるのだといいます。素晴らしい取り組みです。

高齢化時代や、晩婚化にともなって独身一人暮らしの世帯はますます増えていくでしょう。「アパート経営」は片手間商売の不労所得ではなく、「人」に寄り添った経営が必要な「事業」であることを強く認識する時代になったのです。

今後、二度と今回のような事件が起こらないことを祈ります。

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浦田 健